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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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誤解なのか,ミスリードなのか~大気中に排出される放射性物質について

今朝の朝刊各紙に掲載されていた週刊現代の広告を見て目眩を起こしました。いったい,彼らはどこのどういうデータを使って柏崎近辺で捕られた魚介類が危険だと判断したというのでしょうか。このブログをお読みいただけた方々であれば,すでにご理解いただけていると思いますが,あのような根拠のない風評をまき散らすだけの報道は,原子力発電の今後を真摯に語ろうとする側からも百害あって一利なしです。断じて許してはならないと思います。


さて,今回のは,前回のものや週刊現代のように明らかにデマを流しているわけではないです。しかし,間違った印象を持ちやすい文章という意味では非常に注意が必要です。とはいえ,この文章が単なる誤解や無理解の結果ならあれ何ですが,読み手側のミスリードを誘発しようとしているのであればかなり悪質です。


ミスリード?その1:大気中には希ガス放射能のクリプトン85が放出され、その年間放出量は、スリーマイル島原発事故時に放出された全希ガス放射能量の3.6倍になります。(引用元


スリーマイル島で起きた原子力発電所でのメルトダウン(炉心融解)事故は,世界中で話題になり興味のある方は名前くらい知っているでしょうし,中にはチェルノブイリ並みの大事故であったと記憶している方もいるかもしれません。


でも,よく考えてみるとその被害規模について意外とよく知らない人が多いんじゃないですか?


きっとこれを聞いて意外に思う方は多いと思いますが,実は


スリーマイル島の事故では,放射性物質はそれほど外部に漏れていない


んです。(参考:Wikipediaスリーマイル型気体放出事故(文科省原子力安全課))


この事故で一番問題になった炉心融解,いわゆるメルトダウンにより発生した大量の放射性物質は,確かに今現在も原子炉の隔壁内部に残っております。しかし,これらは外部に漏洩してはいませんし,半径50マイル(80km)の住民の平均被ばく線量は0.01mSv(最大でも1mSv)程度で,チェルノブイリとは異なり健康上問題となるような量ではなかったのです。


また,それ以前の問題として


希ガスの放射性同位体による健康被害はほとんどあり得ない


という事実があります。現実にスリーマイル島の事故においても,発電所の補修作業員や近隣住民などにおきた軽微な被曝の原因となった核種は131ヨウ素や60コバルトであり,気体として放出された希ガスではありませんでした。


これは,希ガス自身が持つ「他の物質との反応性が著しく低い」という特徴と,元々それほど強い放射線を発生しない核種であるということが原因です。他の物質との反応性が著しく低いと言うことは,高校の化学などでも希ガス類の特徴として一番強調されている部分ですので,ご存じの方も多いかもしれないですが,この特徴があるため人体や他の生物の中に入ったとしても,何かと反応して蓄積されるようなことなく,速やかに体外に排出されてしまいます。


さらに,六ヶ所の再処理工場から排出される85クリプトンが放出するγ線は特に弱いものなので,Bqとして表現される放射能としては非常に大きな値を示していますが,人体に与える影響はほとんど無視してかまわないレベルでしかありません。


この文章は,イメージ的には非常に深刻な事故として記憶されているスリーマイル島の事故を利用して,六ヶ所再処理工場から気体としてとんでもないものが排出されているような誤解を招きやすいものであり,「悪文」と評価して差し支えないものであると断じてもかまわないと思っています。


しかし,この文章で一番最悪なのは,本来この文章で問題にされている85クリプトンとは全く関係のない農作物中の放射能の話へそのまま続けていることです。前述したとおり,85クリプトンをはじめとする希ガス類,さらに85クリプトンと同じく気体排出成分の大部分であるトリチウムも生体中に濃縮されることはほとんどあり得ません。それにも関わらず,このような文章の後に農作物中の放射能に関しての一文を書き加えるなどと言う段落構成にしてしまうというのは,


全くの無理解無配慮か悪質なプロパガンダ


のいずれかではないかと,疑ってしまいます。


このような悪文が原因で,本来発生する必要のない風評被害が蔓延していることに,この文章の作成者は深く反省すべきです。このような悪質な印象操作とも受け取れるような悪文をこれ以上広めることは,厳に慎まなければならないと思います。


次回は,今回も最後で少し取り上げた農作物中の放射性物質についてお話ししようと思います。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 15:21:08 | Trackback(0) | Comments(5)
コメント
今頃質問ですみません・・。
 すみません。
 初めてコメントいたします。
 スリーマイルの事故についてなのですが、自分の子供のころ読んだ本の中では、
 目のないガチョウが生まれた。とか、
 卵が全て真っ黒になって死んだ。とか、
 巨大化したたんぽぽやカエデの葉が生えてきた。とか、
 がんや白血病が人々の間で異常に増え続けてる。
 などとあって、とても怖いものだという印象を持ったのですが、wikiなどでみると、そんなの載ってないですね。
 あの本に書かれていた事はウソだったのでしょうか?
 ちょっとショックです。
2009-11-10 火 10:39:04 | URL | G" [編集]
Re: 今頃質問ですみません・・。
G"さん,コメントありがとうございます。

この辺は,有名なアイリーン・スミスさんが最初に言い出した話のようですね。

この手の話は,放射線批判の話ではかなり良く聞く話ではあるのですが,忘れてはいけないのは「奇形はある一定以上の確率で必ず発生する」ということです。

もし,本当に放射線により催奇性が上がったのかどうかは,統計を取れば簡単にわかります。統計上他の土地や,事故前の状態との間に有意差がなければ,事故の影響でそうなったわけではありません。元々存在していた一定の確率に従って発生しただけです。

>  あの本に書かれていた事はウソだったのでしょうか?
>  ちょっとショックです。

たとえ事象としてそう言う事例があったのが事実であったとしても,そこから導き出される結論には誤りがあるということはいくらでもあります。特に,この手の話には恣意的に間違った結論へ読者を導いたもの,本気で勘違いして間違った結論に到達してしまったもの,どちらも山のようにあります。

感情や思い込みに流されずに,冷静に判断することが大切だと思います。
2009-11-10 火 14:29:10 | URL | ぷろどおむ [編集]
放射能 枯れ葉剤 環境ホルモン 中国食品
Gさん スリーマイルの事故は、実際「外部に放射性物質がほとんど漏れていません」。

それは、コミックゴルゴ13にも描かれていますが、ぎりぎりのところで内部に留めることに成功しています。
従って、奇形が多発したというのは”都市伝説”ですね。

このような都市伝説は、ベトナム戦争での枯れ葉剤の影響がある、環境ホルモンが海の貝や魚まで性転換させている、中国食品ゴミを食べているブタに異常が出た、などの都市伝説として現在でも生まれています。
枯れ葉剤の影響も統計上は見いだせませんしダイオキシンは山火事が最も大きな発生源なので戦時のベトナムで出るのが当たり前、海の貝や魚は栄養状態などで性転換するのが当たり前、中国のブタは最近消費量が増えて生産(=誕生)が追いつかないうえ数が多いので奇形がたまに生まれて当たり前、という種明かしは、新聞などでは報道されません。

ぷろどおむさん
トリチウムは、原子炉特有(に近い)の排出物なのでマスコミの琴線に触れるようですね。
先日も東京電力の原発から20年以上出ていたとして記事になっています。
本来問題は、物質漏れではなく、東京電力が2カ所の原発で配管ミスを見過ごしていたという組織的問題だと思うのですが。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200911/2009110501114
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20091029ddm041040115000c.html
建築当時の問題となれば、工事中の柏崎でも泊でも六カ所でも火災・事故頻発という現状が昔からのものとも言えて恐いですね。
2009-11-10 火 18:43:06 | URL | まいまい [編集]
Re: 放射能 枯れ葉剤 環境ホルモン 中国食品
まいまいさん いつもコメントありがとうございます。

> 従って、奇形が多発したというのは”都市伝説”ですね。

この他にも,六ヶ所や原発周辺で背骨の曲がった魚が捕れるなどと言う話は良く聞きますね。でも奇形の発生率などの統計データには出会ったことがないのが非常に不思議です。

> トリチウムは、原子炉特有(に近い)の排出物なのでマスコミの琴線に触れるようですね。

そのようですね。あとベクトル値で表現すると,結構大きい値になりやすいところも便利に使われている理由でしょうか。人体への影響を懸念しての発言であれば,シーベルト,最低でもグレイくらいは使っていただきたいものです。

> 先日も東京電力の原発から20年以上出ていたとして記事になっています。
> 本来問題は、物質漏れではなく、東京電力が2カ所の原発で配管ミスを見過ごしていたという組織的問題だと思うのですが。

そうですね。この辺はしっかりしてもらいたいです。特にここ数年は温暖化対策の影響もあって,原発へのシフトが声高らかに叫ばれていますから,このような基本的な部分でのヒューマンエラーは,非常に深刻なものになるのではないかと思います。

確かに原発への回帰は世界的な流れではあると思いますが,原発に関わる諸問題が解決されていないのも事実です。特に,日本の場合はあまりに扇動的な報道や基本的な知識の不足,そこから生み出る生理的な嫌悪感などから,放射性廃棄物の最終処分問題や,再処理問題などがまともに議論されていません。そんなものは嫌だと言っても,残念ながら放射性廃棄物はどんどん生産されています。私が望んだのではないと言っても,そんなものとは無関係に増加しています。これは,必ずどうにかしなければならない問題です。原子力関連事業に懸念を抱く人間であればこそ,この問題から目を背けてはなりません。ただひたすらに,まるで脊髄反射のように反対を叫ぶのは,現実から目を背けていることに等しいです。問題があるからこそ,では次善の策としてどうすべきかと言う事を必死に考えなければいけません。

推進派の人たちも,これらの問題を解決することなく,安易に原発へシフトを進めぬよう,またこのようなヒューマンエラーが増加してしまわないように,しっかりと監視していただきたいものです。
2009-11-10 火 20:15:06 | URL | ぷろどおむ [編集]
今頃質問ですみません・・。
 いろいろ丁寧に説明していただきありがとうございます。
 色んな数値や、科学者の方の意見も載っていて、比較的信頼できる内容だと
思っていたのですが・・。そういう可能性もあるんですね。

 冷静に判断する事が大切というお話は、本当にその通りだと思います。
 こういった情報を目にしてしまうと、どうしても心が冷静で居られなくなります。
 統計的に有為な差があるかが、非常に大切なんですね。

 もっと沢山本を読んで、勉強していきたいと思います。
 親切に教えてくださり、本当にありがとうございました。

 
2009-11-15 日 01:20:13 | URL | G" [編集]
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