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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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続・デマその1:再処理工場廃液の生体濃縮について

それでは,お約束通り生体濃縮された場合について検討します。


自然界,特に海水中には様々な重金属が溶け込んでいることが知られています。その中にはもちろんウランなどの放射性元素も含まれていますし,海水からウランだけを抽出して原子力発電所の燃料として使うための研究が行われるほどふんだんに含まれています。


さて,その海水中に住む魚や貝,海藻などは当然海水を様々な形や手段で体内に取り込みながら生活していますが,当然その取り込まれる過程においてそれぞれの生物種に特有の選択性で重金属を体内に残留させます。


ある種の海藻類などのように,直接重金属を体内に取り込む場合もありますが,魚や貝類などの場合は何らかの有機化合物の形(有機重金属錯体と呼ばれます)で取り込み,体内の脂肪分などに蓄積します。当然,元から有機金属錯体の形になっていれば取り込まれやすくなります。これを生体濃縮と言います。


通常,濃度の薄い環境中に加えられた濃厚な物質は,エントロピー増大の法則に従い必ず濃度が薄くなる方向に拡散します。しかし,生体濃縮の場合は生体自身の生命活動の一環として体内に取り込まれていくので,環境中より高い濃度が生体内に存在することになります。


さらに,このような形で微量の重金属を取り込んだプランクトンを大量に摂取した小魚,その小魚を大量に摂取したより大型の魚,その大型の魚を大量に摂取したさらに大型の魚………,というように食物連鎖に組み込まれていくことで,食物連鎖的により上位の生物中により高い濃度で濃縮されていくことが知られています。そのため,有害な成分が生体濃縮されて食物連鎖に取り込まれた場合,環境中では薄い濃度であったとしても,人間に多大な影響を与える場合があります。その顕著な例がメチル水銀の形で水銀が濃縮されたことによって引き起こされた水俣病です。


当然,放射性元素も元を正せば金属の一種であることに違いはありませんので,その種類によっては生体濃縮が起こります。ですから,このような環境問題を考えるときに生体濃縮について考慮するのは,当然のことです。


しかし,少し前でも述べたとおり,その放射性元素が生体中に濃縮されるかどうかは,どのような化学構造を持った化学種の形で取り込まれるかに依存しており,通常水の一部となって取り込まれるトリチウムなどでは,代謝が早いために生体濃縮はほとんど起こりません。


また,次回お話をする予定の85クリプトンなどのような希ガスと呼ばれる種類の元素は,通常の条件で他の化合物と反応することがほとんど無いため,やはり生体中に濃縮されることはほとんどあり得ませんので,今回の場合この二種類については考慮する必要はありません。


ということで,今回は何度も取り上げているこちらのページでも「日本原燃は、「ヨウ素は海水濃度に対して魚で30倍、ワカメやコンブなどの海藻類で2000倍」に濃縮されると述べています。」として警鐘が鳴らされているヨウ素について検討しましょう。ただし,このページで紹介されている公式見解の「魚で30倍」という濃縮係数には異論を唱えているページも散見されますので,そのようなページで紹介されている180倍という濃縮係数で計算します。


普通生物濃縮の濃縮倍率を表現するときには,その生物が採集された近傍での濃度と比較しての倍率で表現されます。なので,この場合普通は近傍の海水中の129ヨウ素濃度と比較するのが一般的な表現です。


では早速,前回の計算結果から濃度の一番濃いところにおける129ヨウ素の濃度増加分は7 μBq/cm3 ,7.7E-10 mSv/cm3 を使います。ここから魚1kgあたりで増加した放射能から人間が受ける影響の増加分は濃縮係数を180とすると



7 μBq/cm3 x 1000 cm3 x 180 = 1.26 Bq
7.7E-10 mSv/cm3 x 1000 cm3 x 180 = 0.00014 mSv



となります。シーベルト換算した増加分は,自然放射線の年間変動値0.35 mSvの2500分の1です。また,この魚から129ヨウ素の年摂取限度である9.1.E+03Bq/年分の129ヨウ素を摂取するためには,このような環境に生息した魚を年間約7,200kg以上食べる必要があるということになります。もし濃縮係数が公式発表通り30倍程度であったとすれば,この6倍の43,200kg=43.2トンもの魚が必要になります。


同様に海藻類についても同様に濃縮係数を高めに見積もって,2,000x6=12,000倍の濃縮係数で計算しましょう。すると,それぞれ



7 μBq/cm3 x 1000 cm3 x 12000 = 84 Bq
7.7E-10 mSv/cm3 x 1000 cm3 x 12000 = 0.0092 mSv



となりますので,同様に自然放射線の年間変動値の約40分の1,年摂取限度の129ヨウ素を摂取するには年間約100kg以上のコンブやワカメを食べる必要があることがわかります。もちろん,こちらも公式発表通りの濃縮係数2,000倍程度であったとすれば,その6倍の600kg以上の海藻を食べる必要があることになります。


ちなみに,これも次回の話と関係してくるのですが,元々コンブなどの海藻類にはカリウムが大量に含まれているため,天然に存在する放射性核種の代表格40カリウムも大量に含まれており,乾燥重量なので簡単に比較はできないのですが,干し昆布中には40カリウム由来の放射能が2,000 Bq/kg含まれていることが知られています。ちなみに魚の中にも40カリウム由来の放射能が100 Bq/kg含まれており,それだけを考えても再処理工場から排出される廃液の影響がどれだけ微少なものかと言うことがよくわかると思います。


以上,結論として,これだけ極端に濃縮されたケースを考えた場合でも,このような微少な影響しか与えることができないと言うことを考えれば,今現在青森県産の魚介類に年間の自然放射線変動誤差以上の影響が再処理工場の通常稼働によってもたらされることは考えられないという結論以外導き出せません。しかし,もし青森県産の魚介類から,有意な差を持つ放射能が検出された事例をご存知の方がいらっしゃいましたら,非常に重要なことですので隠さずにその詳細を教えていただければと思います。


放射性元素に関する生体濃縮の実例はほとんど報告されていません。しかし,金属の生体濃縮に関する研究は数十年以上の歴史を持つ古いテーマであり,様々な元素の様々な化学形態について詳細なデータが蓄積されています。過去のデータを盲信しろとは言いませんが,その詳細もチェックせずに破棄するのはそれ以上に意味のない行為です。せめて,そのデータの整合性,正当性と適用範囲くらいはチェックしておくべきだと思います。


次回は大気中に放出される放射性物質の話と,できれば農作物への影響までお話ししたいと思います。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 20:13:49 | Trackback(2) | Comments(12)
コメント
非常に参考になる記事でした。

六カ所村の再処理施設については、私も色々調べた結果、反対派の言説のほとんど全ては与太だという結論に到達しつつあります。

それよりも今気になるのは、ドイツの原発で、リアクターからの距離と小児白血病の発症率に有意な相関が認められたという記事ですね。
http://www.dw-world.de/dw/article/0,2144,2994904,00.html
2007-12-14 金 12:47:40 | URL | かとう [編集]
コメントありがとうございます。
ドイツのこの件も,まだまだ続報待ちという印象ですね。本当であれば,何が原因でそんなことになっているのかをきちんと調べていただきたいですが。
2007-12-17 月 11:06:26 | URL | ぷろどおむ [編集]
まずは論文が公刊されないことには、議論は進まないですよね、ドイツの場合。
2007-12-17 月 14:45:53 | URL | かとう [編集]
匿名希望様のコメントについて
エントリ
[ 放射線が出てくる仕組み その2~放射壊変 ]
http://preudhomme.blog108.fc2.com/blog-entry-77.html

に投稿されました『匿名希望』様のコメントにある問いを私なりに解釈したものを以下に提示させていただきます

問1
原発などに起因する放射性物質(特にトリチウムやヨウ素)による健康への影響についてお尋ねします。
生体濃縮の影響を最大限に見積もっても、その害は自然に存在する放射線によるものと比べはるかに小さいという解釈でよろしいでしょうか?

問2
ストロンチウム90やセシウム、ヨウ素131など、きわめて短い半減期をもつ放射性物質があります。
これらは、その影響を年間どれだけといった形で算定することが難しいようですが、短期間に多量の崩壊をおこなうと考えるとかえって害が大きいようにも思えます。
こうした物質についても、問1と同様、生体濃縮の影響を最大限に見積もった上で自然放射線と比較して、問題にならないほど害は少ないと考えてよろしいでしょうか?

以上、解釈の誤りがありましたらご指摘ください。
2009-01-27 火 16:52:46 | URL | u!M-u!M [編集]
おおよそ、そう書いたつもりだったんですが、、。
2009-01-27 火 20:09:48 | URL | 匿名希望 [編集]
コメントありがとうございます。あとで見る方のためにも,こちらのエントリで回答させていただいた方がわかりやすいかと思いますので,こちらで書かせていただきます。

「原発や核実験などによる人工放射性物質の影響」というお話でしたが,この両者を並列に扱うのは困難です。核実験と言ってもいろいろあるわけではありますが,基本的には核爆発です。なので,通常稼働している原子力発電所の影響と比較するのは根本的に間違っています。核実験場となった地域における(いわゆる)放射能汚染の問題は深刻で,日本における原子力発電所が与える影響と比較することはできません。

というわけで,この場では日本における原子力発電所の影響だけに限らせていただきますが,この範囲内であれば問1の回答は「Yes」です。このエントリで計算した結果をご覧いただければわかるとおり,現状での排出量では自然界における変動レベルの中では検出することが不可能なくらいごく小さな影響しか与えることはできません。

また,問2に関しても回答は「Yes」なのですが,そもそもその様に短い半減期の核種では生体で濃縮されている時間がありません。そのため,これらの核種が生体濃縮された場合の影響を考えることは困難と言うよりは不可能であり,不必要です。また,これらの核種から一度に大量の放射線を浴びるような状況でない限り人体への影響を考える必要はありません。そして幸いにも,そのような量が排出されているという事実もありませんので,被害も存在し得ないことになります。

このような回答でよろしかったでしょうか?

コメントは最新のエントリにしなければ行けないと言うことはありませんし,どちらかというと,後々閲覧される方のことを考えますと,該当する話題のエントリのところにしていただけると助かります。いろいろと我がままを言って申し訳ありませんが,どうかよろしくお願いいたします。

2009-01-27 火 20:27:28 | URL | ぷろどおむ [編集]
ありがとうございます。
2009-01-27 火 20:57:57 | URL | 匿名希望 [編集]
http://www.pref.fukushima.jp/nuclear/pdf_files/H20-2.pdf

こちらなどに、数値の変動があった時、核実験での物と区別が出来ないレベルで、問題ありません、という決まり文句があります。

そこで、核実験、という言葉を使ったのですが、海外において、日本に輸入がある農、海産物地域、または日本国内において、外国が行った核実験後の放射性物質、あるいは原爆跡地の放射性物質はいかに、という意味です。
ちなみに放射線研究を行っている機関でも、「原爆跡地でも過去に行われた核実験による数値と見分けができないレベルになっています。」という表現を使っていますね。

半減期が短期であるというのは、ヨウ素131のみの表現です。
お答えでは半減期8日であるヨウ素131は生体濃縮はないと考えればいいわけですね。

半減期が長いストロンチウム90、セシウム134、セシウム137その他(核実験や原発平常時、あるいは原発事故などで漏れた放射性物質)であっても、生体濃縮を最大限に危惧する数値で、自然放射線レベル以下である、という理解で間違いはありませんか?
2009-01-27 火 21:33:26 | URL | 匿名希望 [編集]
ご質問ありがとうございます。
一つずつ順に回答させていただきます。
>海外において、日本に輸入がある農、海産物地域、または日本国内において、外国が行った核実験後の放射性物質、あるいは原爆跡地の放射性物質はいかに、という意味です。

一概に全部をひとくくりにすることは難しいですが,少なくとも現在の日本国内では健康に影響が出るような放射性物質は観測されていません。もちろん広島・長崎を含めてです。ただ,海外の核実験場近辺における環境放射能のデータは,広く公開されていない場合も多い(特に旧ソ連・中国)ため,何とも言いようがありません。ただ,特に問題が大きいとされているような地域では,輸出産業が存在するような状況にはないという事情もありますので,特に心配する必要はないように思います。

>お答えでは半減期8日であるヨウ素131は生体濃縮はないと考えればいいわけですね。
ヨウ素131は半減期が短い核種ですので,濃縮倍率がそれほど高くなることは想像しにくいです。しかし,ヨウ素は甲状腺などに蓄積しやすい性質を持っていますので,一度に大量のヨウ素131を取り込んだ場合には注意が必要です。しかし,日本国内で観測されているようなレベルであれば,人体への影響はないと考えられます。

>半減期が長いストロンチウム90、セシウム134、セシウム137その他(核実験や原発平常時、あるいは原発事故などで漏れた放射性物質)であっても、生体濃縮を最大限に危惧する数値で、自然放射線レベル以下である、という理解で間違いはありませんか?

こちらについても,(厳密に言うとややこしくはなりますが)おおむねそのような理解で大丈夫だと思います。生体濃縮を最大限に考慮したとしても,人体に影響が起きるようなレベルの存在量ではありません。

蛇足ですが,ご呈示いただいた資料などで「核実験の……」という言葉が出てきているのは,検出されているセシウム137などの人工放射性物質の由来が,国内の原子力発電所ではないと言うことを強調するために,このような記述になっています。

以上のような回答でいかがでしょうか。他にも何かありましたら,お気軽にどうぞ。
2009-01-28 水 10:38:14 | URL | ぷろどおむ [編集]
有難うございます。
2009-01-28 水 11:41:02 | URL | 匿名希望 [編集]
ご自身で食物連鎖に言及されてながら、たとえば魚が海藻や小魚を食べ、その魚をさらに他の魚が食べる、その連鎖で倍増した結果の濃縮度については触れてませんね。
2011-03-28 月 00:17:19 | URL | 匿名希望 [編集]
Re: タイトルなし
コメントありがとうございます。

> ご自身で食物連鎖に言及されてながら、たとえば魚が海藻や小魚を食べ、その魚をさらに他の魚が食べる、その連鎖で倍増した結果の濃縮度については触れてませんね。

この記事中で利用している濃縮倍率は,リンク先などで試算されている濃縮倍率です。詳細な計算方法については確認できていませんが,三陸の海が汚染されていると不安を表明している方がより高めに計算した濃縮倍率ですので,私自身は当然食物連鎖を考慮した上でのものと認識しております。

食物連鎖でより上位にいる魚よりも海藻の方が濃縮倍率が高いことが不思議なのかもしれませんが,元々持っているヨウ素の量が魚と海藻では全く違いますので,より海藻の方がヨウ素をため込むために当然濃縮もしやすくなります(逆に言えば,魚は海藻よりもヨウ素を体外に排出しやすい)。そのためこのような結果になっていると思います。

他にも何か不明な点などがありましたら,お気軽にどうぞ。
2011-03-31 木 11:31:51 | URL | ぷろどおむ [編集]
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