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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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300ベクレルのヨウ素131はどのくらい怖いのか
東京をはじめとする各地の水道でヨウ素131(I-131)が検出され,大騒ぎになっているようです。個人的には十分予想された範囲の出来事ですので,どちらかと言えば先日のほうれん草などの時のように「きちんとした監視態勢と周知体制が確立している証拠」と見ているのですが,やはりミネラルウォーターを買い占めるご老人の姿などをテレビでたくさん拝見することになってしまいました。


ということで,大人に対する制限値である300 ベクレル(Bq)のI-131が検出されたことがどういう意味を持つかを考えるために,一つ計算をしてみたいと思います。


Bqから人体への影響を表す単位シーベルト(Sv)への換算は,前回のエントリでもやりましたので今回は違うアプローチで攻めてみます。


今までも別のエントリでご紹介してきたとおり,Bqというのは一秒間に一回放射壊変が起きたことを表す単位です。ですので,300 Bqというのは一秒間に300回の放射壊変が起きていることを示します。


一秒間に300回というと非常に大きい数のように感じますが,元々化学物質の量を表す基本単位である1モル(mol)が6.02 × 10^23個という非常に大きな数を意味しますので,300というのは実はそれほど大きな数ではありません。


次に考えるのは半減期です。I-131は半減期8.02日でβ(-)壊変をし,原子番号が一つ大きくなったキセノン131(Xe-131)に変化します。この時β線と呼ばれる放射線(正体は電子)を放出します。昨日被曝した作業員が「β線熱傷の疑いがある」との報道がありましたが,これは高レベルのβ線に長時間さらされた場合に起こりうる外傷のことです。


さて,ちょっと話がそれましたが計算に入りましょう。まず半減期の値からI-131の壊変定数を求めます。一般に,ある放射性元素の壊変定数を λ,ある時間 t における放射性元素の個数をNとした時,以下のような常微分方程式が成り立つことが知られています。

-(dN/dt) = λN


これを解くとある時点での放射能の強さA(t)はt=0の時の放射能A(0)を用いると以下のように表されることになります。

A(t) = A(0) × e^(-λt)



ここから半減期t(1/2)と壊変定数λの関係は以下のようになります。


t(1/2) = (1/λ)ln(A/(A/2)) ≒0.693/λ



つまり半減期8.02日=692928秒のI-131の壊変定数は1.00×10^-6 s^-1となります。


ここで最初の式に戻りましょう。この式の左辺 -(dN/dt)は,単位時間当たりにどのくらい放射性元素が変化したかと言う事を意味しています。つまり,今回の場合1秒間に300個のI-131が放射壊変により減少していますので,ここが-300になります。


このことから,最初に存在していたI-131の個数Nは,


N = 300/λ = 3 × 10^8個


と言うことになります。これはmolで表すと4.98 × 10^-16 mol = 0.498 f(フェムト) mol = 0.000000000498 μmol です。濃度にすれば0.498 fmol/L と言うことになります。環境分析でよく使われるppm(百万分の一)やppt(一兆分の一)で表すとそれぞれ6.52 x 10^-9 ppm,0.00652 pptとなります。


どのくらい微量かと言う事を何となく感じていただけましたでしょうか?


ちなみに1 kg = 1 L分の水分子は (1000/18) × 6.02 × 10^23 = 3.34 × 10^25 個になりますので,水の分子数とI-131の原子数の比はだいたい10京分の1ということになるでしょうか。


これは,もちろんそのくらい微量でも放射線が検出できると言う事を意味しているわけですが,中には「こんなに微量でも危険なのか!」と思う方がいらっしゃるかもしれません。ですが,以前書いたエントリ「基準値の○倍!:食品安全基準の決め方」でも書いたとおり,このような基準は非常に大きく安全側に振って決められるのが常道です。実際,日本におけるI-131の安全基準は国際的な合意の元に決められた国際基準よりも1桁小さいより厳しい基準となっております。


「放射能」と言われるとやはりいろいろ不安になります。しかし,きちんとした知識を持って推論を丁寧に重ねるという作業を行えば,その不安は解消することができます。不安さえ解消すれば,冷静に対応することが可能になります。


もちろん私の記述を鵜呑みにしなさいなんてことは言いません。他にも情報を発信している人たちはたくさんいるでしょう。それらの情報(可能であればなるべく数値データなどの一次情報や一般的な用語解説)を一つ一つ丁寧に解釈し,どのように考えればより筋の通った話になるのか。より合理的な解釈をすることができるのか。そういう地道な作業を心がけていただければと思います。そして,このブログがその一助となればそれに勝る喜びはありません。


今現在この瞬間も,我々の安全を守るために,非常に危険な場所で危険な作業に従事していらっしゃる方々がおります。安全な場所にいる我々にできることは,落ち着いて,自分たちに何が起きているのか,何ができるのかを考えることだけだと思います。ぜひ一緒にいろいろ考えていきましょう。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 12:11:09 | Trackback(0) | Comments(13)
コメント
どのくらい微量なのか、何となく感じることが出来ました。
ありがとうございました。(科学技術庁告示第五号の表は何度見てもわかりませんが^^; あ、平成18年に改訂版が出ているようですが、そんなに変わりはないのでしょうか。)

パニックになってしまうと、いろんなことが制御不能になって、
これ以上の害(今度は人災)を引き起こしかねません。
だから冷静になりたいと思い、わからないながらもあれこれ参考に
させて頂いていました。

事後報告になってすみませんが、こちらのリンクを頂いて行きます。
よろしくお願いします。
2011-03-25 金 15:55:55 | URL | パコ [編集]
WHOの基準
WHOの基準と日本の基準について、具体的な数値はどの程度ですか?一説では日本の基準の方がより甘いとのことですが、その点が大変心配です。
2011-03-27 日 12:54:53 | URL | 放射線科医 [編集]
こんにちは。
検索でこちらのHPに辿り着きました。

手作り石鹸を作っております。
今回の放射能騒ぎで「…石鹸に野菜入れて消費協力できないか」
と思い立ちました。

そこで

「苛性ソーダと放射能は、お互い影響しあう部分があるのかどうか」

という疑問を持ちまして。

もし、苛性ソーダの強アルカリが、放射能を減らす!なんて言う結果が
得られるのであれば、皆でガンガン野菜買って協力しようぜ!なんて
呼びかけができるな~と。
(あくまで希望でしかないのですが^^;)

初めてなのに、図々しくいきなり質問申し訳ありません。。。
化学的なことはまったく分からないので、
的外れな質問でしたらごめんなさい。

どうぞ、宜しくお願い申し上げます。
2011-03-28 月 10:34:35 | URL | kyoko [編集]
Re: タイトルなし
パコ さん いつもコメントありがとうございます。

> どのくらい微量なのか、何となく感じることが出来ました。
> ありがとうございました。(科学技術庁告示第五号の表は何度見てもわかりませんが^^; あ、平成18年に改訂版が出ているようですが、そんなに変わりはないのでしょうか。)

情報ありがとうございます。私の情報収集能力が拙いせいで改訂版が出ていることに全く気がついておりませんでした。早速調べてみましたところ,とりあえず実効線量係数などが大きく変わったわけではないようなので,とりあえず大きな違いはないかな?と思っていますが,そのうちきちんと調べてみようかと思います。

どうもありがとうございました。
2011-03-31 木 11:17:09 | URL | ぷろどおむ [編集]
Re: WHOの基準
放射線科医さん コメントありがとうございます。

> WHOの基準と日本の基準について、具体的な数値はどの程度ですか?一説では日本の基準の方がより甘いとのことですが、その点が大変心配です。

エントリ中でリンクを貼った記事(http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/90da673c7303f4584e2abd397391e9f1/page/1/)中にも紹介されておりますが,国際基準では、I-131が3000 Bq/kg,Cs-134が1000 Bq/kg,Cs-137が2000 Bq/kgであるのに対し,日本の基準は大人の場合でI-131が300 Bq/kg,Cs-134とCs-137が200 Bq/kg,乳幼児に対しては三種とも100 Bq/kgとなっております。

ですので,日本の方が基準が甘いとかWHOでは基準が1 Bq/kgなどというのは明らかなデマのようです。ご確認ください。
2011-03-31 木 11:25:27 | URL | ぷろどおむ [編集]
Re: タイトルなし
kyoko さん,コメントありがとうございます。

野菜の消費量を上げようというお志は非常にすばらしいものだと思いますが,残念ながら強アルカリは放射能に対し何の効力も発揮しません。強アルカリの作用はあくまでも化学的な反応における性質ですので,物理現象である放射壊変に対しては,全く影響を持たないのです。
#放射壊変についての詳細は,過去のエントリ(http://preudhomme.blog108.fc2.com/blog-entry-74.htmlhttp://preudhomme.blog108.fc2.com/blog-entry-77.htmlhttp://preudhomme.blog108.fc2.com/blog-entry-77.html)などをご参照いただければと思います。

また,野菜に含まれる成分のほとんどは強アルカリによる変成を免れませんので,野菜を入れ込むことによる効果はあまり期待できないように思います。

現在出荷されている野菜類は食べても全く問題のないものばかりです。ですので,せっかく消費量を上げようというお志をお持ちなのであれば,ぜひ鍋や手作り野菜ジュース,お漬け物等々様々な手法で美味しく召し上がられるのが一番じゃないかと思います。ぜひご検討下さい。
2011-03-31 木 11:44:27 | URL | ぷろどおむ [編集]
はじめまして
今回の放射性物質の飛散について調べていて、こちらにたどり着きました。
WHOの規制値と日本の規制値の違いについて、知ることができてよかったです。
ほうれん草などについている放射性物質が少ないことはわかりましたし、それがフライト一回分程度の放射線しか出さないのは理解しているつもりなんですが、内部被爆についてどうしてもよくわかりません。食べてしまったほうれん草が、身体の中でフライト一回分の放射線を出して、ハイオシマイ、ということでいいのでしょうか? それとも、フライト一回分の放射線を浴びたままになってしまうのでしょうか。何度テレビを見ても、お腹の中に入ったものがどうなるのか、説明が無く逆に不安になります。(チェルノブイリの甲状腺がんの原因が、汚染ミルクだったということもあって) 内部被爆について、いつかお時間のある際に書いていただけたら幸いです。

http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/interna_heal_j/chernobyl-3.html
等も読んで、だいぶ落ちついてはいるのですが……
2011-04-02 土 00:17:42 | URL | Nami [編集]
Re: はじめまして
Nami さんコメントありがとうございます。

今回の計算は経口摂取した場合の内部被曝を念頭に置いた計算ですので,計算結果はこれだけの放射能を持ったヨウ素131を食べた場合,食べた人が最大限受けるであろう放射線からの影響を表しています。つまり「食べてしまったほうれん草が、身体の中でフライト一回分の放射線を出して、ハイオシマイ、ということ」で大正解です。

もちろんいっぺんにどかんとフライト1回分の放射線を出すのではなく,半減期8.02日分のスピードに合わせてフライト1回分の放射線をじんわり出します。なので,せいぜい10数時間 x2 で同じ量を浴びてしまう国際線でのフライトよりもゆっくり浴びることになりますので,実は体が受けるダメージ自体はより小さくなります。
チェルノブイリの場合は,原子炉の爆散により一度に極めて大量のヨウ素131がばらまかれてしまったために,その影響で非常に大量のヨウ素131を含む牛乳が生産され,しかも当局による監視態勢が不十分であったためにそれが流通してしまい,飲んだ子供たちへの健康被害が出てしまいました。しかし,今回の場合は累積では徐々に増加してはおりますが,チェルノブイリに比べると一度に出た量は少ないため,大きな健康被害が発生する可能性は低いと考えられます。もちろんそれには,放射線量が非常に低い段階で検出できた監視態勢も理由の一つです。
すでに書いたとおり,ヨウ素131は半減期が8.02日と短いので,今後も大量の流出がなければ出てきたヨウ素131はどんどんキセノン131と呼ばれるガスに変化し,人体に吸収されにくくなっていきますので,より状況は落ち着いていくでしょう。もちろん今後も状況を注視する必要はありますが,現時点ではまだ大きく心配する必要はないかと思います。
という感じでご参考になりましたでしょうか?まだ疑問や不安などがあるようでしたら,いつでもお気軽にどうぞ。
2011-04-03 日 21:43:27 | URL | ぷろどおむ [編集]
ありがとうございました
ぷろどおむ様
早速、丁寧なお返事を戴きありがとうございました。チェルノブイリとの違いについても、ありがとうございます。(子供の頃に見たせいか、あの事件のイメージが強すぎるのです) おかげさまで、半減期って?等など、いろいろ改めて調べられました。貴ブログの食の安全についての記事も大変ためになりました。こんなことは初めてで、怖くて仕方がないのですが、怖さに打ち勝つには100回だいじょうぶだといわれるより、一度きちんと調べた方がいいのだと痛感しました。
一刻も早く事態が収束するように、また前線で危険を冒して働いてらっしゃる方々の安全を祈りつつ、筆をおきます。感謝をこめて。
2011-04-04 月 22:23:15 | URL | Nami [編集]
かなり、ウソが書かれているような気がします。
日本が定めた暫定基準値は、国際指標の緊急時の摂取基準値すら上回っていますし、暫定基準値は平時の基準値と比べれば数百倍といった所です。暫定基準値とは、1日2日ならば影響はないが1年も食べたら影響が出るかもしれないと言う極めて危険な数値です。

福島とチェルノブイリを比較した場合、ほぼ同じ量の放射性物質の飛散がありますし、外部被ばくに過ぎない宇宙線の影響と内部被曝のおそれがある放射性物質の飛散を混同することは危険な事です。

臨床データが殆どないわけですので、少なくとも半減期が短い放射性ヨウ素の影響が少なくなるまでは安全だと煽る行為は無責任な行為に映ります。安全かどうかわからないので安全だと煽るのではなく、危険かもしれないので自己責任で行動せよと言うのが正しいんじゃないでしょうか?危険かどうか誰もわからないのですから・・・
2011-04-06 水 12:15:37 | URL | もるもる [編集]
Re: タイトルなし
もるもる さん,コメントありがとうございます。

遅ればせながら,お返事をエントリ(http://preudhomme.blog108.fc2.com/blog-entry-151.html)にさせていただきましたのでご参照いただければと思います。よろしくお願いいたします。
2011-04-08 金 17:12:00 | URL | ぷろどおむ [編集]
国際基準
国際基準は1ベクレルでは???
2011-05-24 火 15:30:14 | URL | さらこ [編集]
Re: 国際基準
コメントありがとうございます。

> 国際基準は1ベクレルでは???

今さらのお返事ですいませんが,
その基準は(別エントリでも書きましたが,)通常時の水道に関する規制値が誤解されて伝わっただけで,現在適用すべき基準ではありません。

ご確認いただければと思います。
2011-06-21 火 12:18:29 | URL | ぷろどおむ [編集]
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