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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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続・DAG(ジアシルグリセロール)はどのくらい危険なのか(続々々・エコナはどのくらい危険なのか)
いろいろあって心が折れかかったんですが,単なる娯楽のために悪者にされたのでは関係者はさぞ無念だろう,と言う思いで引き続き更新をすることにしました。

長すぎる文章ばかりで,みなさんの読む気は確実になくなるだろうとは思いつつ,自己満足だけで続けます。

今回も当然2009年9月2日に開催された「食品安全委員会新開発食品(第63回)・添加物(第76回)合同専門調査会」において提出された資料1:「高濃度にジアシルグリセロールを含む食品の安全性について」 -中間取りまとめ-(案)[PDF]の内容を解説する形で話を進めることにします。

さて,前回は「ジアシルグリセロールの発がんプロモーション作用に関する研究(試験A)」(p.15)の説明をしました。この研究と同時期に行われたのが,「ジアシルグリセロール(DAG)の大腸がん促進作用試験(試験B)」(p.18)と「DAG油の中期多臓器発がん性試験(試験C)」(p.20)です。ちなみにこの試験Cが,こちらの記事で花王が隠蔽していると主張しているDIMS医科学研究所で行われた実験だと思います。もちろん複数のイニシエーターが投与され,発がんが人為的に誘発された条件で実験されています。

ちなみに試験Bは試験B-1「DAGのアゾキシメタン(AOM)誘発ラット大腸のアベラントクリプトフォーカス(ACF)形成に対する影響」と試験B-2「DAGのApcノックアウトマウス(Minマウス)における腸ポリープ形成に対する影響」の二種類で構成されています。前者は,イニシエーターにより大腸がんを誘発されたラットを用いたDAGのプロモーター作用について調べられています。また,後者は遺伝的に加齢と共に高トリグリセリド血症を発症し,腸ポリープが自然発生するような血統のマウスを使って,DAG油が腸ポリープ発生を促進するかどうか調べています。

この結果,試験B-1においてDAGを大量に投与された群で,発がんの兆候であるACFを構成するアベラントクリプト(AC)について,ACF一個あたりのACの数が減少しているという結果が出ました。これは,DAG油の大量投与によって,発がんの兆候であるACFの増殖が抑制されたことを意味しています。これは,DAG油により血清中のトリグリセリド濃度や遊離脂肪酸濃度を減少させた結果ではないかと報告書(第1回新開発食品・添加物専門調査会合同ワーキンググループ資料2-1:ジアシルグリセロールに関する報告書その2「ジアシルグリセロール(DAG)の大腸がん促進作用試験」[PDF])には書かれています。ようするに,DAG油を摂取していた方が大腸ガンになりにくそうな結果が出ていると言うことですね。もちろん有意差は出ていないので,なんとなくそれっぽく見えたレベルです。断言なんて出来ません。誤解の無いように。

なお,試験B-2においてはDAG有りと無しでは有意差が出ませんでした。

さて,懸案の試験Cですが,確かに先ほどの第1回ワーキンググループのページでは資料が公開されていません。中間とりまとめの中でも取り扱いは非常にあっさりしたもので,大腸についてDAG油低容量群と中容量群で腫瘍性病変の発生頻度が高い傾向を示したが有意差は見られず,DAG高容量群では対照群と同程度の発症頻度しかなかったこと。そして,他の臓器ではDAG油に関連した腫瘍性病変の増加は認められなかった,とだけあります。やはり都合の悪いデータは隠蔽されているんでしょうか。

もちろんそんなことはありません。前々回のエントリでご紹介した通り,この研究の成果は論文として一般に公開(Food and Chemical Toxicology 2008; 46: 157-167)されています。理系大学の学生の方であれば,図書館で入手できると思います。自分の大学でこの雑誌を取っていなくても,数百円も出せば他の大学から取り寄せることが出来ると思います。たぶん一般の方でもその気になれば大丈夫なはずです。というわけで,無事私も入手することが出来ました。

ということで,さっそくこの論文を読んでみました。

一応最初はまじめに全文読もうかと思っていたんですが,とりあえず最初に先ほどの記事に取り上げられていた部分に目を通してみました。すると非常に面白いことがわかりました。このような衝撃を受けたのは,電磁波の話を調べた時以来でしょうか。

記事中

腎臓では、ガンの一種である腎芽細胞種で、TAG群が19匹中12匹なのに対して、DAG低用量、高用量で20匹中19匹。また膀胱の尿路にできる移行上皮ガンでもTAG群が0匹なのに対してDAG低用量で5匹、高用量6匹と有意差が出ている。


という記述があります。ここだけ読むとDAG油によりガンが明らかに増加しているように感じますね。確かになんか怖いです。こういう事実を隠蔽しようとしている花王や厚労省に憤りを感じてしまいます。

しかし,論文上で公開されているデータ(p.162-164, Table6)を良く読むと,確かに抜き書きされているデータは正しいのですが,その他にもたくさんデータはあるのです。

たとえば腎芽細胞種の場合,中性脂肪を摂取していない群で18匹,5.5%の高リノール酸TAGで17匹,高オレイン酸TAGで13匹,中鎖脂肪酸TAGで15匹が発症していると書かれています。

同様に移行上皮ガンについても,確かに5.5%TAG群の発症は0匹ですが,中性脂肪を摂取していない群でも4匹,5.5%の高リノール酸TAGで8匹,高オレイン酸TAGで6匹,中鎖脂肪酸TAGで3匹が発症しているのです。これではとてもじゃないですが,DAG油ががんの発生を促進しているなんて口が裂けても言えるわけがないですね。これらの全データが提出されたワーキンググループでも,さほど重要性を感じられることなく流されたのは当然かと思います。

それにしても,せっかく一般に公開されていないデータを入手できたのに,そんなせっかくのチャンスを持てたのにこの記事の著者である植田さんは

このような恣意的な抜き書きをして,
何をしたかったのでしょう??


せっかく真実により近づける立場にあるのに,どうしてこんな真実から人々を遠ざけるような無駄なことをわざわざしてしまっているのでしょうか。ある意味ジャーナリズムの対極とも言うべきこの態度は,非常に理解に苦しみます。

…………,嘘です。ごめんなさい。あまりに意図がわかりやすくてあきれてしまいました(--;;;;;

このことに気がついた瞬間に,これ以上論文を精読しようという気力が失せてしまったことを,勘弁していただけますでしょうか?ちなみにざっとこのTable6や他のデータを見回しては見ましたが,とても有意差が出ていると言えるような結果はありませんでした。そりゃあ,中間とりまとめの方もあれだけあっさりした要約になるはずです。

まぁ,きっと植田さんも全部のデータを眺め回したはずですし,それにも関わらずあの程度の部分を抜き書きすることでしか煽れなかったんですから,当然かもしれません。

というか,元データを見られた瞬間にすべてのロジックが崩壊してしまうんですから,専門家相手にはこんな煽りは絶対通用しません。明らかに元データにアクセスできない一般の方を狙った手口ですね。個人的には,意図的にやったとしたらかなりたちが悪いという印象を持ちました。正直軽く怒ってます。もし意図的ではなく,本気でこの程度の情報しかあのテーブルから抽出できなかったのだとしたら,こういう分野について文章を書くのは止めた方がいいです。明らかに向いていません。別の分野の記事を書くことに専念することをお勧めします。って,ひどい言いぐさですね。あまりに人間出来てないです>私。

以前のエントリで私が「花王を擁護したいだけじゃないのか」というようなコメントを下さった方がいらっしゃいましたが,このような大企業を批判して小金を稼ぎたいだけの理不尽な批難」と戦うためであれば,いくらでも擁護したい,というのが今回一連の研究を調べた上での感想です。

この後も,遺伝子組換えラットによる誤判定を防ぐために,さらに条件を精査した研究が繰り返されていますが,もう解説の必要もないでしょう。すべての結果は日常におけるDAG油の使用が,発がんを促進するようなことはないであろうという結論に向かっています。そして,これらの結果を元にして食品安全委員会はDAG油についての最終見解を出す予定になっています。

確かにグリシドール脂肪酸エステルという予期せぬ因子が突然出てきたりはしていますが,最初のエントリでも書いた通り,普通に考えればグリシドールが人体に害を及ぼすためには,数々の大きな障壁を乗り越える必要があります。ですから,きちんとした評価法さえ確立できれば,この疑いも晴れるでしょう。

誰でも名前を知っているような大企業がミスをすれば,なんとなく「ざまあみろ」という気分になるのかもしれません。国がミスをしていると思えば,溜飲が下がるのかもしれませんし,大企業や国,官僚などは非常にわかりやすい悪役になれる素質を持っているのかもしれません。

しかし,人間が常に過ちを犯さずに何の失敗もしないなんて事がないように,大企業や国が常に過ちだけを続けているわけもないのです。

つまらない煽りに惑わされることなく,冷静に判断する目を持ち続けたいものです。

というわけで,かなり長くなりましたが,エコナ絡みの話は今回で終了したいと思います。

ご意見・ご質問などありましたらお気軽にどうぞ。

さて,次は時間の話をするお約束でしたでしょうか。まぁ,誰も待っていないと思いますが(^^; 今回以上に自己満足なエントリになるのは確実ですので,このブログもまた元のように静かな状態になるかと思います。

でも,もしご興味があればどうかよろしく。
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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 22:27:51 | Trackback(0) | Comments(7)
コメント
お疲れさまでした。実に参考になりました。深く感謝。
2009-10-01 木 23:06:22 | URL | ヨコハ魔の怪人 [編集]
お疲れ様でした
植田さんの記事見ましたが・・・
イニシエーターとプロモーターの違いをわざわざ説明していてあの展開ですか・・・ oTL

しかし読者のコメントが非常に痛々しいですね。
改めて大衆がいかに扇動されやすい物であるかというのを実感しました。

ここのリンク貼ろうかとも思いましたが迷惑がかかるでしょうから止めておきましたが・・・

はぁ。

いずれにせよお疲れ様でした。
2009-10-01 木 23:17:16 | URL | Ackey [編集]
植田さんの記事、読ませて頂きました。
”何故か・・云々”、”頼まれもしないのに・・・”等々、ジャーナリストとしても非常に稚拙な表現がありますね。それが全部言外に花王に反感を持たせる言葉へとつながっています。
更に花王に電話での返答を断られた辺りも、意図的な書き方を感じます。
こういう歪め方をするのなら、私だってこの方には情報を渡したくありません(^^;)

いわゆる「赤新聞」的なジャーナリストでしょうか?かなり冷静さを欠いたものになっている印象がぬぐえません。

こういう書き方をする記者は、どの分野でも必要無いと思います。(ですから、こんな記者いらない、とおっしゃっても全然人間が小さいなんて思いません。全く同感です。)
「ペンは剣よりも強し。」を都合よく拡大解釈して、“大衆を扇動出来る”と勘違いしているように思われますので・・・・・。言語道断の行為かと。
確かに大衆を操作出来るのは、自分がちょっとした教祖になったようで、楽しいものではあるでしょうが。

私たちが欲しいのは”不安を裏付けるための情報”ではなくて、”正しい情報”です。
是か非か、それは正しい情報を得てからこちらで判断することです。

今回の一連の記事で、不必要な不安を煽ることなく、冷静なデータ、情報を下さったこと、感謝しております。

ありがとうございました。
これからも、いろんな情報に惑わされることなく、賢い消費者になるべく勉強して行きたいと思います。
2009-10-01 木 23:24:02 | URL | パコ [編集]
大変お疲れ様でした。
とても勉強になりました。

>この研究の成果は論文として一般に公開(Food and Chemical Toxicology 2008; 46: 157-167)されています。

読んでいたのですが、この論文からあの記事の結論にどうやったらたどりつくのだろう??と首をひねっていたのです。まがりなりにもあのような記事をお金を払って読んでもらう立場ならば当然、論文の精読は必要になってくるでしょう。百歩譲って2006年の時点であのような記事を書いてしまってもエコナに関する記事を2009年だけで5つも書いているんです。いくらでも訂正する機会はあるはずですよね。
花王ページの引用文献を読まずして書き続けるのは読者に対して不誠実です。
http://www.kao.co.jp/rd/eiyo/about-dag/dag06.html

件の記事のコメント欄は読んでいて悲しくなります。
不安を煽るだけの記事に一喜一憂して、しなくてもいい心配をして心を痛めています。
そういうのを見るにつけ、最低限、どのような知識を持っていれば私たちは恣意的な情報に騙されずに済むか、そんな方法あるのか、そもそもそんな知識は必要か、なんてぐるぐると思考の迷路を迷っています。
2009-10-02 金 06:14:34 | URL | むいみ [編集]
メールありがとうございました
ぷろどおむ様
メールありがとうございました。大変感謝しております。

正直なところ、現在私は少しばかり混乱しています。
簡単には「何を信じればいいのか?」といったところでしょうか。

健康に関するトピックではしばしばこうしたことが起こりますが、エコナの件では特に混乱させられました。

とはいえ悪いことではありませんし、混乱する過程でいろいろ勉強にもなるのですが。

ネットが発達していろんな情報が得られるようになり、「ウラ」をとるための1次ソースを手に入れやすくなったとはいえ、まだまだ私などは混乱させられます。

(健康問題に限ったことではありませんけど)

今後もご指摘のほどよろしくお願いいたします。

それではまた むらおより
2009-10-03 土 09:04:11 | URL | むらお [編集]
Re: メールありがとうございました
むらおさん コメントありがとうございます。
また,ブログやメルマガで当ブログをお取り上げいただきありがとうございます。

こういった案件で混乱に陥るのは私も良く経験することなのですが,今回のケースで迷う必要があるでしょうか。くだんの記事がどのくらいの影響力を持っているのかわかりませんが,現在Webを検索してみると,エコナを批判しているところのほとんどが,明らかにあそこから引用してあるだろう,もしくはあそこを読んだだろうという表現で書かれています。しかし,私のブログでも指摘させていただいた通り,あの記事における問題提起は悪く言えば捏造レベルのデータ読み取りミスに起因するものであり,「自分が良くわからないものは悪いものに違いない」という思い込みだけが暴走している状態であるように思います。

むらおさんのブログ&メルマガで一点だけ不満に思うのは,どうして「エコナはすでに二年間に及ぶ長期投与での発がん性試験をクリアしている」という事実を明記しないのか,という点です。

エコナに批判的な態度を取るページで,この点に言及しているものを私はまだ見たことがありません。エコナがこれまで販売停止をしなかったのも,自主回収をしないのもこの試験結果を根拠として基本的な安全性は確保されていると判断しているからです。もしこの試験に疑問があるのであれば,「野生ラット」に「エコナを長期投与」し,「統計的に十分なサンプル数」について「対照群と有意差を持つ」試験結果を提示しなければいけません。ですが,そんなデータはどこにありますか?

このようなデータも無しにエコナに対する不安を煽るのは,単なる誹謗・中傷と変わりはありません。また,花王が出した結果に反論するようなデータが無い現在の状況下で,むらおさんのようにあいまいな中立的ポジションを取ることは,反エコナ側に大幅にシフトしているのと同意であり,決して公平な態度とは言えないのではないかと思います。

むらおさんのような立場だと,大企業側に与するような言動を取るのは難しいのかもしれませんが,本当に公平で中立な立場というものはどういうものなのか。ぜひ,それを表現していただきたいと思います。
2009-10-05 月 15:01:52 | URL | ぷろどおむ [編集]
ぷろどおむ様
またまたお邪魔しております。

私個人的には「それほど騒がなくてもいいんじゃないかな?」というくらいのスタンスです。

私としては以前のメルマガおよびブログの複数のエントリー(そのうちのひとつへのリンクを貼らせていただきました)で花王さんの主張は紹介したつもりでした。

上記のような私のスタンスも「反エコナ側」と言えるのかも知れませんが、エントリー中に紹介した、読者さんからのメールは「ちょっと花王さん側に立ちすぎではありませんか?」という趣旨で頂いたものです。

しかし「エコナはすでに二年間に及ぶ長期投与での発がん性試験をクリアしている」とのことで、この情報は確かにとりあげたことはありません。

次回の私のメルマガでこのコメント欄へのリンクを紹介させて頂きます。

それではまた。
今後もよろしくお願いいたします。
2009-10-07 水 15:34:51 | URL | むらお [編集]
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