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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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低線量放射線の健康影響をどう考えるか
竹野内さんからコメントをいただきました。最近は「ペトカウ効果」を検索しておいでいただける方がほとんどいなくなっていたのでちょっと驚きました。ありがとうございます。

失礼ながら「この本の訳者より」の「この本」が何を指すのか最初理解できず,少々困惑してしまったのですが,ペトカウ効果に関する本を出版されているのですね。勉強不足で申し訳ありません。

個人的に,ペトカウ氏の論文についてはスターングラス博士が盛んに引用されている1972年の論文以降のものも手に入る範囲でいろいろ読ませていただきましたが,氏の研究成果については私自身も異論を挟むつもりはありません。しかし,ペトカウ氏の研究成果とその主張が,スターングラス博士の主張したい内容と本当に一致しているのかどうかと言うと,私自身が調べた範囲については,かなりの疑問を持っております。

残念ながら,ご紹介いただいたスターングラス博士の著書はまだ拝見しておりませんが,様々な方が喧伝されている博士の主張の内容を聞く限り,どうしてペトカウ氏による細胞内でのSODの効果をここまで完全に無視し続けているのかという一点で,どうしても信用する気持ちになれません。もしかすると,博士自身はこれについてもどこかで言及されているのかもしれませんが,博士の主張を世に広めようとされている方々には,ペトカウ氏の(個人的にはメインだと思っている)業績を無視している(もしくは全く知らない)ように見えるのが残念でなりません。また「低線量の方が危険だ」という主張を現在の首都圏などで観測される放射線量レベルに適用する際に必ず生じる,「じゃあ,自然放射線の影響はどうなるんだ」という素朴で根本的な疑問にも,スターングラス博士の説は明確な回答を与えているとは言いがたいと思っています。

また,仮に低線量側で被曝によるリスクが,LNT仮説における線形予測よりも高いリスクが発生するとしても,疫学的に有害であることが明らかになっている100 mSvよりも高いリスクが存在しているとは思えません。なぜなら,もし100 mSvよりも有害であるのなら,すでに低線量被曝による影響が疫学的に検出されているはずだからです。しかし,今現在そのような明確な調査結果はありません。それならば,低線量側の増加分,たとえば0.1 μSv/hの被曝は,高線量側であればどのレベルの被曝と同等のリスクが生じているのか。0.1 mSv/h相当なのか,それとも10 mSv/h相当なのか。まずそこの定量的な議論がなければ,低線量被曝のリスクを定量的に見積もり議論することは不可能なはずなのですが,そのような定量的な議論を私はまだ見たことがありません。

その説を補強するための理論的な背景としてin vivo,せめてin vitroでの「定量的な」議論が主流となっていないようにしか見えない(ペトカウ氏の一連の研究成果は,in vivoにおいてスターングラス博士の説を否定していますし,過去に行われた動物実験の結果からもスターングラス博士の説は否定されているようです)現状で,しかもその説を支援するような疫学的なデータも見つけられていない今の私の現状では,いくらスターングラス博士が一生懸命頑張っているというお話を伺ったとしても,残念ながらその説を素直に信用することができません。もしご存知であれば,スターングラス博士の説を裏付けるような調査結果の一次情報について,ポインタをご教示いただければと思います。

そして,自然科学系研究者の健全性を固く信じている青臭い私としては,自著よりも論文を重視したい気持ちが抜けきれません。たとえスターングラス博士自身が何らかの原因で無視されているとしても,そこに事実が存在するのであれば必ず他の誰かが再発見するのが,(少なくとも現代の)自然科学というものだと思っています。

現実問題として,低線量放射線の健康影響に関係する議論の一つとして,α線などによるバイスタンダー効果(これについてはもうちょっと勉強して,きちんと紹介したいと思っています)などについては積極的に研究が進められ,議論も深められています。もちろんバイスタンダー効果に関する研究は,きちんとした権威ある査読付の論文誌に数多く掲載されています。これらの領域は同時に見られるγ線による適応応答などと同様に,低線量放射線が細胞などにどのような影響を与えるのかという問題を明らかにするために,そのシステムの解明が精力的に進められています。そして,ペトカウ氏の研究はこのような分野の先駆的な研究の一つとして評価されるべき内容だと思っています。

しかし,同時に行われている高放射線地域における疫学調査などの結果では,低線量放射線による明確な健康被害に関する証拠は見いだされておらず,繰り返しになりますがスターングラス博士が主張されているような結果は,少なくとも私が調べた範囲では立証されていないようです。博士の主張は,もし無視できないような事実として存在しているのであれば重要ではありますが,低線量被曝をした子供は知恵遅れになりやすいなどという主張は不必要な偏見や差別を生み出しかねない主張ですので,その評価は慎重であるべきだと思います。

グロイブ氏やスターングラス博士同様,低線量放射線が健康に与える影響やそのシステムを何とか見つけ出そうと多大な労力をかけて真摯に努力している研究者はそれこそ星の数ほどいます。そして,彼らの努力の成果の一つとして現在コンセンサスを得ている認識は「in vitro の実験では,細胞に対する影響は明らかに存在する。しかし,in vivo にはその影響をキャンセルするシステムが明らかに存在する。そのため,結果として健康への影響も存在するのかもしれないが,疫学的な調査で有意差が出るほどのレベルでは無い微少なものである。」というものだと理解しています。

その上で,ICRPは「微少かもしれないがあるかもしれない影響は極力排除するように努力すべし」という理想の元に活動を進めています。しかし,日本政府はそのような理想をかかげたICRPの基準よりもさらに厳しい対応を検討しています。ですが,それにも関わらず,それ以上のものを国民が求めているのが現状であると思います。このような堂々巡りの無い物ねだりを繰り返しても非効率であるばかりか,何のメリットも生み出さず,かえってデメリットばかりが拡大してしまいます。このような状況はリスクマネジメント的には容認できるものでは無く,回避すべき状況の一つです。

広島・長崎で被爆された方々の追跡調査,核実験によるフォールアウトの影響調査,世界各地に存在する高自然放射線地域での疫学調査,チェルノブイリ事故の被害者を対象とした各種の調査,そのいずれもが低線量被曝による明確な健康被害の存在を認めていません

昨今話題になっている内部被曝についても,α核種が大量にばらまかれた広島・長崎はもとより,知見不足と対応の不備により無秩序に汚染された食品が出回り続けたチェルノブイリのケースと今回のケースを比較すること自体にも問題が無いわけではないのですが,それでもチェルノブイリ事故後の追跡調査の結果では,セシウムの内部被曝による健康被害は見いだされていません。よう素による甲状腺ガンの増加は疫学的に見いだされたのにも関わらず,です。と言っても,これはよう素が人体において特異的に甲状腺に集中して蓄積される=放射線による影響も集中する,のに対し,全身の筋肉に分散しながら体外に排出され,結果的に人体に対する影響が薄められているセシウムの特性を考えれば十分に納得できる結果だと思います。

現代社会において,放射線は,原子力発電所を除いたとしても,医療を始めとする様々な分野で有効利用されている「ツール」の一つです。もちろんいくら有効なツールであったとしても適切に利用しなければ,自動車の交通事故や飛行機・列車の事故のように人的被害を容易に発生させてしまうリスクが存在します。であるからこそ,どのような場合に事故が生じるのか,どのようにすれば事故が発生する確率を抑えることができるのかということが,数多くの研究者たちによって検討され続けています。彼らの大部分は,マスコミに取り上げられて一般の人に名前を知られることも,一般向けの講演会に演者として招待されることも,自著を出版することもなく,一般的なサラリーのみを報酬として黙々と研究を続け,社会に貢献し続けています。そして,自然科学の基盤と源流を構築しているのは,テレビやマスコミに数多く顔を出し名前を売り続けている研究畑出身の方々では無く,こうして日々黙々と研究を続けている,誰にも,名前どころかその存在すら知られることのない場末の研究者たちの集合知だと思っています。

青臭いですね。わかってます。きっと「そんなことない。研究者なんてもっとドロドロしていて信用ならない連中の集団で,ほとんどは国や大企業の御用学者だ。」と思ってる人たちの方が,今の世の中は大多数を占めているんだろうな,と日々の報道やネットでの検索結果を見るたびに思ってます。

もちろん,世の中のこういった認識は,世間との関わりを軽視してしまいがちな研究者の行動様式がそもそもの原因であるという自覚もあるわけなんですが,それでもやっぱり凹みます。ですから,この辺の話はちょっと意固地になって感情的になっている部分があると思います。

しかし,もしスターングラス博士の知見が正しいのであれば,必ず他の人たちが同様の結果を出し続けます。同様の結果が出続ければ,絶対に無視できない流れが研究者の間で作られます。研究者は,それまでの常識にとらわれすぎているから常識を無視した理論は無視される,と言う人がいます。でも,それは本当の研究者を見たことが無い人たちの意見だと思っています。

たとえば,今はすっかり懐かしい常温核融合フィーバーの時。その実験結果を初めて知ったほとんどの研究者は「そんなバカなことが起きるわけ無いだろう」と思いました。でも,同時にほとんどの研究者は「ほんとだったら面白い」と思い,世界中で常温核融合の触媒として用いられたパラジウムの値段が急上昇してしまうほど,こぞって実験を繰り返しました。残念ながら,最初の実験には再現性が見られないことが確かめられ,結果的にそれまでの常識の方が正しかったことが証明されてしまったわけですが,数多くの研究者たちが(結果的に破れたとは言え)「常識」にチャレンジしたのは事実です。

たとえば,田中耕一さんがTOF MSでタンパク質の分子量を測定したと報告した時,博士号も持たない一介の民間会社の研究員がそれまでの常識を覆すような結果を出せるわけがない,などと無視したりせず,当時からこの分野で世界的に有名だったドイツのグループが,田中さんの学会講演の英文抄録を参考にして,現在ではタンパク質を研究する上で欠かすことのできない重要な分析法であるMALDI-TOF法を確立したのは有名な話です。

スターングラス博士が最初に自説を発表してから,すでに50年近く。第二次世界大戦後,ひたすら加速を続ける自然科学の世界では,それ以前の数百年を凌駕する勢いで様々な研究が繰り広げられてきました。その様な中で,完全に世界から忘れ去られているわけでもないのに,彼の説を支持するようなデータが主流にならないと言うことは,もちろん今後彼の説を支援するようなデータが出てくる可能性は「ゼロでは無い」わけですが,現時点で得られている知見からでは,残念ながらそういうことなのだろうと判断せざるを得ません。ですので,もしスターングラス博士の知見を支持するような論文や調査結果などについての一次情報の存在をご存知の方がいらっしゃいましたら,ぜひご教示いただければと思います。

私は,スターングラス博士や竹野内さんをはじめとするみなさんの活動にも敬意を表したいと思いますが,それ以上に,華やかな舞台で誰かにその名を知られることがなくても,ひたすら地道にデータをとり続ける数多くの研究者たちの努力に対しても敬意を払いたいと思っています。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 19:22:21 | Trackback(0) | Comments(14)
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