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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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放射性セシウムによる稲わら汚染はどのくらい怖いのか
ご無沙汰しております。前回書いたペトカウ効果の話はそれなりにご好評をいただけたようで,本当にありがとうございます。ただ,ペトカウ効果については今でもかなりの誤解がどんどん広まっているようなのが非常に残念です。

ペトカウ氏自身の研究結果は,残念ながら「ノーベル賞級の発見」ではありませんが,前回のエントリにも書いたように非常に誠実な科学的にも十分頷ける成果であり,きちんとした査読のある論文誌に掲載された立派なものです。ですから,彼が「狂人扱いされた」などという事実もありません。

また,先日の論文で照射された線量は,現在首都圏で話題になっている線量よりもはるかに高いレベルのものであり,100歩譲って原子力関連施設などで作業している作業員が何らかの被曝事故に遭った場合や,放射線治療を受けている患者さんに適用することは可能かもしれませんが,その1/1000以下の線量率しかない状況に当てはめられるかどうかと言うと,かなり微妙です。

しかも,それ以前の問題として彼のその後の研究で,SOD存在下ではこのような影響はキャンセルされることを彼自身が実験的に確かめており,同様のキャンセル効果は細胞中でも同様の成果を得ていますから,SODを元々持っているヒトの場合でも,物理的に同様の効果が発生する可能性はあっても実質的には起こらない。と考えるべきです。この辺りが,in vivoin vitro の大きな違いですから,実験事実の適用範囲を考えずに闇雲に一つだけの実験結果を援用するのは控えるべきだと思います。

また,SODが活性ラジカルを除去することにより,放射線による遺伝子破壊を防ぐ効果を発揮するという事実は,「適応応答」と呼ばれる現象の原因の一つではないかとされており,個人的にはこの「SODの存在が低線量放射線が細胞に与える影響を減少させる」という効果のことこそ,「真のペトカウ効果」と呼ぶべきでは無いかと思います。

さて,前置きが長くなりましたが,今回の本題は先日から話題になっている放射性セシウムによる稲わら汚染の問題です。

さて,最近全国各地で放射性セシウムに汚染された稲わらが発見されており,非常に問題になっております。そもそも最初に問題となったのは,基準値を超える放射性セシウムが牛肉から検出されたことによります。

その時検出された放射能は最大で3,200 Bq/kg3,400 Bq/kgでした。

この牛肉を摂取したことによる人への影響を計算すると,検出された放射性セシウムが全て実効線量係数の大きい134Csとして計算すると,経口摂取時の実効線量係数は1.9×10^-5 mSv/Bqですので,この牛肉1 kgを食べたことにより生涯(50年間)を通じて受ける線量は61 ~65 μSvとなります。もっとも,セシウムの生物学的半減期は70~80日と言われておりますから,最初の1年間で大部分は体外に排出されてしまいます。それでも,この放射性セシウムが体内に残留する1年間に浴びる自然放射線量が 1 mSv(= 1,000 μSv)程度であることを考えれば,特に問題になるような線量ではありません。それに,普通の人なら一度に牛肉を1 kgも食べないでしょう(それ以前に私なんかは国産黒毛和牛を1 kgも買えませんが(^^;)から,さらに影響は小さくなることが期待されます。

一応,この辺の話はだいぶ前にほうれん草からよう素131が検出された時にも話題にしましたので,以前から読んでいただいている方には,特に目新しい情報では無いと思いますので,今回は稲わらの方に着目してみたいと思います。

報道によりますと,この牛を出荷した農家に保管されていた稲わらからは75,000 Bq/kgの放射性セシウムが検出され,一日に1.5 kg程度与えていたとあります。

どのくらいの期間この稲わらが与えられていたのかの詳細についてはわかりませんが,4月上旬まで野外に放置されていたということから,仮に5月と6月の2ヶ月間,計60日与えられていたとします。

すると,この牛は 75,000 Bq/kg x 1.5 kg / day x 60 day = 6,750,000 Bqの放射性セシウムを食べていたことになります。

これに対し,肉から検出された放射性セシウムは最大でも3,400 Bq/kg。肉牛の体重は,こちらの資料などを見るとだいたい400 ~550 kgくらいが一番多いようですが,ちょっと大きめに600 kgだったとしても 3,200 kg /Bq x 600 kg = 1,920,000 Bqとなり,全体の放射能が1/3以下になっていることがわかります。600 kgはそこそこ大きい方のようですし,骨や内臓などの重さも含まれていますから,もしかすると実際には1/4程度になっている可能性もありますし,もしかするともっと短い期間しか与えていなかったとすれば,もっと割合は大きくなるかもしれません。しかし,半減期の短い方の134Csでも2年程度ありますから,この減少分は崩壊による減少ではなく,代謝やその他の理由による減少としか考えられません。ですので,少なくとも一部の方が懸念されているような「生体濃縮」などは全く起きていないことだけは確かなようです。

また,先ほども少し振れましたが,ヒトにおけるセシウムの生物学的半減期は70~80日程度とされていますが,この値は体表面積に比例して長くなると言う知見も得られております。牛は明らかにヒトより体表面積は大きいと思われますので,さらに生物学的半減期は長くなっている可能性は高そうです。ということは,代謝により排出された部分もあるでしょうが,それ以前に食べた全量が体内に残留するわけでは無い,つまりある程度の量が摂取後速やかに体外に排出されていることも確かなようです。

しかし,そう考えると稲わらなどの粗飼料における放射性物質の暫定基準値300 Bq/kgより100倍以上も高い75,000 Bq/kgもの放射能を持つ稲わらが与えられた今回の事例でも,基準値の10倍程度しか残留していなかったのはどうしてなのでしょうか?この300 Bq/kgという基準値には意味や設定された理由があるのでしょうか?

もちろん,基準値がこのような値に設定されたことには理由があります。

こちらは農林水産省消費・安全局が出した「原子力発電所事故を踏まえた粗飼料中の放射性物質の暫定許容値の設定等について」という通知です。ここにちゃんと理由が書いてます。

曰く,「暫定許容値は、乳用牛から生産される生乳や、通常の肥育期間(15ヶ月以上)で肉用牛から生産される牛肉が食品の暫定規制値を超えないように、現在の科学的知見に基づいて設定しています。

つまり,放射性セシウムに汚染された粗飼料を15ヶ月間食べ続けた場合を想定した規制値になっているのです。ですから,最大でも5ヶ月弱しか食べさせていないような状況では,非常に高い放射能が検出された稲わらを与えた場合でも,この程度しか牛肉中に残留せずに済んでいるわけ何ですね。

とはいえ,設定された1/3程度の期間に100倍以上の稲わらが与えていたのにこの程度で済んでいると言うことは,逆に言えば,それだけ安全に対するマージンが取られているという大きな証拠でもあります。そのような事実を考えれば,放射性セシウムに汚染された稲わらが見つかったから,そしてそれが牛に与えられたからと言って,すぐに牛肉や牛乳が全部ダメになるわけじゃないことも明らかだと思います。

さらに言えば,牛肉中放射性セシウムの暫定基準500 Bq/kgという値自体も,その全てが実効線量係数の大きな134Csだったとしても,そこから与えられる線量は9.5 μSvにすぎません。つまり,牛肉中の基準自体も健康被害を十分に防げると考えられるマージンを含んだ値が設定されているわけですから,基準値を超えた牛肉を一度や二度食べたからと言って,どうこうなるわけはありません。

確かに,予想以上に広い範囲で高いレベルの放射性セシウムに汚染された稲わらが発見されており,これまでの稲わらの管理態勢の甘さは批判されるべきであったように思いますし,長期間にわたって汚染された飼料が与えられ続ければ,影響が大きくなるのは当然です。なので,今後はさらに管理態勢の徹底を行うべきだと思います。

しかし,そういう長期的な管理上の問題と健康被害に関する問題は全くの別物です。なぜなら,基準値や規制値というものは健康被害の有無を判断の基準に用いて作られた値ではありますが,その目的は長期的な管理の基準を明らかにすることにあるからです。

以前から食品や安全に関する様々な基準値設定に関する話のたびに繰り返してきたとおり,基準値というものは,「それだけを長期間大量に」摂取し続けた場合を想定し,そこにさらに十分安全であるために必要なマージンを取って設定されていますので,「基準値を超えたものを放置するのは危険ですが,瞬間的に超えただけなら大丈夫」なモノだということを,ぜひ理解していただきたいと思います。

相変わらず長々とした文章になってしまいましたが,ご質問やご指摘などありましたらどうかよろしく御願いいたします。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 12:48:47 | Trackback(0) | Comments(2)

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