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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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続・測定器の表示はどのくらい信用できるのか
それでは前回の予告通り検出限界などについての話をしたいと思います。ただ,私自信が専門にしている都合上,どうしても化学分析における機器分析をイメージした話が強くなってしまいますので,ご了承ください。重さや長さなどの物理測定では,また別のファクターが関与する場合が多いのですが,今回はあえてその辺を追求しません。ご希望があれば,別の機会にでも解説させていただきたいのですが,今回は割愛します。

さて,「検出限界」という言葉の響きから「その装置(もしくは方法)が測定対象を検出できるかどうかの限界(下限)」という意味である事はすぐに想像できると思いますが,一つ質問してみたいと思います。

もし,目的とする分析対象物が検出限界以下であるような試料を測定した場合,測定している装置は測定している間,どんなシグナル(信号)を出していると思いますか?

「検出限界以下なんだから,当然シグナルなんて何も出てこないはずじゃないの?」と思われている方が多いのかなぁ?などと想像しているのですが,いかがでしょうか。

直感的には,確かに何となくそうなるのが正しいような気はするんですが,実際には

「一定量のシグナルが常に出続けている」状態
になっています。

この,常に出続けている「一定量のシグナル」を,普通「ノイズ」と呼びます。

ノイズが発生する理由は様々で,検出器に流れる電気的なノイズなどはその代表的なものです。また,測定装置によっては原理上避ける事ができない(例えば,常にシグナルを発生するようなガスや溶液を流し続けなければいけないもの)バックグラウンド由来のノイズもあります。

測定対象が一定量以上存在していた場合,それを示すシグナルがこのノイズの中からひょっこり顔を出してきます。つまり,検出限界とは「ノイズの山の中から頭を出してきたシグナルを,きちんと間違えずに見つけることができる境界線」ということになります。実際には,慣例としてノイズの大きさを基準として,測定したい値(例えば物質量)が与えるシグナルの大きさがノイズの3倍の大きさを示すような場合(シグナル・ノイズ比 S/N=3)として設定される場合が多いです。

ですから,原理的にノイズが小さいことが期待される測定器の方が検出限界が小さくなるのが一般的です。たとえば,化学分析で良く用いられる光を使った検出器の場合も,白色光から特定の波長の光が減少した事を測定する吸光分析よりも,測定対象が入射した特定の波長とは異なった波長の光を出す蛍光分析の方が,そしてそれよりも分析対象自身が光を放出する発光分析の方が,検出限界は低くなります。また,放射線測定の検出感度が高いのも同様の理由です。

ただ,これは測定器の精度が十分に高い場合でして,もし測定器の精度がノイズよりも悪い場合には,同じ試料を測定した時に示す測定値の標準偏差を基準として,その3倍の大きさのシグナルが示す値を,検出限界値と設定します。

この辺は前回の精度や確度の話ともちょっと絡んでくるのですが,具体的な例を挙げてみましょう。

たとえばある測定器Aは,動作中ずっと0.1の桁が上下に変動し続けているけれども,測定中は同じ試料であれば1以上の桁は毎回同じ値を示すとします。このような場合であれば1以上の値が出れば確実に検出されているだろう,と判断することができます。しかし,常に0.1の桁まで全く動かないけれども,測定しなおす度に1の桁の値が変化するような測定器Bの場合には,1の桁の数字が動いても検出できたかどうか判断するのは危ない,と考えなければいけない(=測定対象が存在しない場合でも,1の桁が動いてしまっている可能性を否定できない)ということになります。

一見すると,測定時に0.1の桁まで安定した値を出してくれる測定器Bの方が,最後の桁がふらついて安定した値を表示してくれない測定器Aよりもすばらしい測定器のように見えてしまいます。また安定した値を表示してくれますので,ついつい一回しか測定していないのに最初に測定器Bから出てきた値を信用してしまいがちです。しかし,前述した通りより信用できる値を出してくれているのは測定器Aの方なのです。

実際こういうことは良くあったりしますので,自分が使っている測定器の素性をしっかり把握するという事は,正確な測定を行う上で非常に大切な事なのです。

ちょっと話がずれてしまいました。がんばって本題に戻りましょう。

このようにそれぞれの測定器には検出限界というものがあるわけですが,これは検出器そのものについての問題であると同時に,検出限界よりも大きなシグナルさえ得られたとしても,「表示された測定値が正確であることを保証しない」ことにも注意が必要です。

それは,もちろん前回お話しした「校正」の問題もあります。また,検出した物理量から物質量を推定する化学測定の場合には,測定器自身について「検出限界」とは別に「定量限界」という値があり,それ以上の測定値が得られない場合には,正しい物質量を推定する事ができません。定量限界は検出限界に準じた考え方でS/N=10(もしくは標準偏差の10倍)となるような値が設定される場合が多く,検出限界とは別に設定されています。

しかし,これらとはまた別の重要な要因もあります。それは「試料自身に由来するノイズ」です。

特に土壌や空気,水や食品など自然界に存在する試料では,「試料の均一性」が大きな問題となります。

人工的に制御して作られたものの場合は,きちんと条件さえ揃えれば均質なほぼ同一と言っても過言ではないような試料の集合を作成する事が可能です。これには,人工的に合成した化合物や溶液だけではなく,遺伝子的な均質性を保たれた実験用の細胞や,実験動物,実験植物なども含まれます。

しかし,制御された環境下で生み出されたわけではない,いわゆる天然試料には,当然ですがある一定量のばらつきが存在します。極端な例を挙げれば,関東地方における空気中の粉塵を評価しようとして筑波山の山頂や那須高原などの空気を採取し,「関東地方の空気はこんなに綺麗です」と言っても意味がありません。同様に東京のど真ん中を走るトンネルの中の空気を採取して「関東地方の空気はこんなに汚れています」といっても意味はありません。これは,土壌にしろ環境水にしろ同じことです。人間の体だって,手足や髪の毛とでは元々の構成成分も,有害物質の蓄積状態も全く異なります。なので,通常は「何のどのような状態を知りたいのか」という目的に応じて,必要な対象範囲から可能なかぎり数多くの試料を採取し,その平均とばらつきを評価します。もちろん可能な限り1カ所当たりの採取量を大きくするのも,測定値の精度を上げるためには重要です。

また,今一番の話題である空間線量のようにバックグラウンドにシグナルが常に存在し続けている場合も問題になります。このような場合に今現在の値が示している意味を評価するためには,通常値として採用可能な過去のデータの存在が必要不可欠です。そして,それらの値がどの程度ばらついているのかを確かめ,バックグラウンド値として考慮に入れる必要があります。

たとえば,通常の状況でも空間線量が年間を通した平均として0.10 μSv/h程度の平均値と±0.08 μSv/h程度の変動がある地域において,0.15 μSv/hの測定値が出たからと言って「通常の1.5倍の空間線量が測定された!!」と騒いでも全く意味がないですよね。つまりはそういうことです。

また,目的によっては変動値のみに注目するために,得られた実測値からバックグラウンドを差し引いた値を(正味の)測定値として出す場合もあります。このような場合には当然測定値としてマイナスの値が出てくる可能性もあります。

ちなみに,普通は検出限界以下のシグナルしか得られなかった場合は不検出(Not Detectable; ND)と表現します。なぜこのような表現になってるかというと,その検出器(あるいは測定方法)で検出されなかったからと言って,検出対象が存在していないとは言い切れません。たまたまこの検出器や測定方法で検出できなかっただけであって,異なる全ての検出器や全ての測定方法で同じ試料から測定対象を検出できる可能性がゼロであるということを意味しないからです。要するに今話題の「ゼロではない」ということです。困った事にこの表現が,現在批判対象とされてしまっているわけですが,私自身は科学者がこういった表現を好むのは,科学者自身が誠実に自らの限界を認知しながら活動している証拠だと思っていますので,たぶんこの先も使い続けると思います。

また脱線しかかりましたね。本題に戻りましょう。

先ほどのようにバックグラウンドを差し引いた場合には,「きちんと検出されたけれども,通常値より低い」というケースが十分あり得ます。ですので,「測定値」として表示された値がマイナスになる可能性があるわけです。もちろんこのような差異を示したい場合には,通常マイナスの値を持った測定値には意味が無くなる(=通常状態からの異常は検知されないと判断できる)わけではありますが,測定結果としては前述の「ND」とは意味が全く異なりますので,より正確な情報を提供するために,あえてマイナスの値を表記する場合があります。

さらに,このような場合には,差し引かれて出てきた測定値が意味を持っているのかどうか(=有意差を持つかどうか)を評価しなくてはなりません。そのため通常時における測定値の変動をノイズとみなし,その変動(ノイズ)の山から十分大きく頭を出しているような値であるかどうかを判定します。要するに検出限界の亜種みたいなものなんですが,このようにして出した値は検出下限濃度(Minimum Detection Concentration; MDC)なんて呼ばれ方をしたりします。つまり,MDC以下の値を示した測定値は,ばらつきの中に埋もれてしまう=通常の検出限界以下の値として見なす事ができますので,意味を持たない値つまりゼロであると判断されます。

このような表現は,大気中核実験や今回のような原子炉事故により環境中に放出された放射性核種による放射能や空間線量への影響を見る場合のように,通常状態と非かくて大きな変動があるのかどうかを表現したい場合によく用いられる傾向があります。ですので,表などに出ている値を読み取る際には,このような表現方法が用いられている可能性も考慮に入れつつ,十分に注意して読み解く事をお勧めします。

さて,ここからはちょっと余談になります。

皆様ご存知の通り,福島第一原発の事故により低線量放射線の健康影響についての議論が様々な場所で見られるようになりました。しかし,それらの議論を聞いていると,今回の検出限界にまつわる話でも出てきた

ばらつきの中に埋もれてしまう程度の増分

をどう扱うべきか,と言う認識が非常に危ういのではないかというような印象を感じてしまいます。

具体的な例を挙げて考えてみましょう。こちらのページでは,ガンによる死亡率の統計データが公開されています。ここで公開されている2009年度の都道府県別悪性新生物死亡率(人口10万対)データから,この値が各都道府県間でどのくらいばらつきがあるかを計算すると相対標準偏差で約12.3 %となりました。要するに,日本国内だけでも地域によって一年間でこのくらいのばらつきが地域差として存在するという事です。かなり大きいですよね。

また,こちらの2005年罹患・死亡データに基づく「累積がん罹患・死亡リスク」統計(PDF)によれば,生涯における全がんの罹患リスクは男性で53.6 %,女性で40.5 %,2009年死亡データに基づくがんによる生涯死亡リスクは男性で26.1 %,女性で15.9%となっています。

それに対し低線量放射線によるガン死亡リスクの増加分は0.005~0.006 % / mSvとされており,仮に年間で20 mSvを連続的に浴びてしまったとしても「リスクの増分」は生涯において0.1~0.12 %です。また,こちらの図に示されている不確かさを加味しても上限で0.00884 %/mSV,20 mSvでも約0.18 %の増分です。

もちろん前述した生涯リスク算定の不確かさがどの程度あるのかについての情報がありませんので何とも言えませんが,20 mSv/年におけるリスク増分0.1 %は男性の死亡リスク26.1 %に対する相対値で0.38 %,女性の15.9%に対しても0.63 %の変動でしかありません。不確かさの上限である0.18 %を用いても,それぞれ0.69 %,1.13 %の変動でしかありません。ですので,どちらの場合を取っても普通は統計処理上十分無視できる範囲として処理されてしまうレベルの変動なのです。

しかし,世の中の論調を見ていると,こういうより大きな変動の中に増分が埋もれてしまうと言う事象が,感覚的に理解できない(あるいはしたくない?)方が,かなり多いように見受けられます。個人的には,そういった極めて微少な変動を意識しすぎる事で,ストレスなどの別要因が増大する方が,健康上良くないのではないかと心配しております。

余談が長くなってしまいました。

様々な測定値が各所であふれかえっている極めて混沌とした状況ではありますが,このエントリが様々な数字を正しく理解するための一助となれば幸いです。いつものようにご質問,あるいはここの理解間違っているだろというご指摘大歓迎です。どうかよろしくお願いいたします。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

雑学 | 18:37:17 | Trackback(0) | Comments(7)

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