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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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続々・日本の安全基準は本当に緩いのか
たろうさんから再びコメントをいただきましたが,私がいろいろ勘違いをしていたことなどもありまた長くなってしまいましたので,エントリにいたします。話の流れについては前のエントリのコメント欄などを参照して下さい。

> 基本は甲状腺等価線量50mSv/年で、そのうち3分の1を割り当てたら300bq/L(ただしβ崩壊による減少を考慮する)になった、というところでしょう。
> > 300 Bq x 1.6E-5 mSv/Bq x 2 L/day x 365 day/year = 3.6 mSv/year
> やっぱりこれ、実効線量係数ではないですか?
> 表の下の方に甲状腺等価線量係数が記載されていると思いますが。


本当にお恥ずかしい。穴があったら入りたいという気分は今のような気持ちを言うんでしょうね。全くもって困ったものです。確かに私が使ったのは実効線量係数ですね。甲状腺等価線量係数はその下にちゃんと別枠でありました。本当に申し訳ありません。なんでいくら計算しても50 mSv/yearとはこんなにかけ離れているのかなぁ?と不思議には思って検算はしたのですが,そもそも表を読み間違えていることに気がつきませんでした。本当に申し訳ありません。

というわけで,この下の値を使うと(乳児は幼児の1/2,幼児は成人の1/2の摂取量でした。いろいろ間違い多くてすいません。)

成人で  300 Bq x 3.2E-4 mSv/Bq x 2 L/day x 365 day/year = 70 mSv/year
乳児だと 100 Bq x 2.8E-3 mSv/Bq x 0.5 L/day x 365 day/year = 51 mSv/year

………,また計算違いしてますか?(^^; いくらなんでもこれは多すぎる気がします。50 mSv/yearの2/3を三等分という話でしたから,10 mSv/year程度になるんだろうと予想していたのですが,これではあまりにも変ですよね。摂取水分量の設定が大きいんでしょうか。でも大人で一日200 mLは少ないですよね。何がいけないんでしょう?

というわけで,この辺の基準がどういう風に設定されたのかと言うことをもう一度頑張って調べてみたところ,当然なんですがちゃんとまとめられている文書が見つかりました。それがこちらの原子力発電所等周辺防災対策専門部会環境ワーキンググループが作成した「飲食物摂取制限に関する指標について(平成10年3月6日)」という資料です。

非常に興味深い資料なので全部きちんと解説したい気もするのですが,とりあえずよう素の基準がどのように設定されたかに焦点を絞って順を追ってみてみましょう。

まず今回かなり長い上にちょっとややこしい&私自身の理解が十分である自信がないというひどい状態ですので,一応最初にいくつか大切なことをまとめておきます。

1) 甲状腺等価線量50 mSv/yearという基準は,ICRPなどの国際機関で設定された値であり,日本だけの基準ではない(=日本だけが緩いわけではない)。(事実)
2) 水だけで50 mSv/yearというわけではなく,水・乳製品・野菜などで全体の2/3,残りで1/3とし,さらに最初の3群それぞれを等分にするので,飲料水から受ける甲状腺等価線量は最大11.1 mSv/year。(事実)
3) やはり年間通して規制値近傍の水を摂取し続けた場合を想定しているように思える。(私の推測)



まずICRPの持つ介入線量レベルについての考え方を整理しましょう。介入線量レベルとは,一般市民に対して放射線防護対策をすべきレベルのことで,ICRP40(大規模放射線事故の際の公衆の防護(1984))においてはこれ以上であれば必ず対策を取らなければいけない値である上限値とこれ以下の値では対策を取ることが正当化されない値である下限値という概念を設定しています。そして,事故後に対策を取るための実際の線量レベルはこの間で設定されるべきであるという考え方が提示されており,日本の基準もこれにしたがったものとされています(P.1)

また,この指標は「飲食物中の放射性物質が健康に悪影響を及ぼすかどうかという濃度基準ではなく,緊急事態における介入のレベル(防護対策指標)として,飲食物摂取制限措置を導入する際の判断の目安とする値である」ということも明記されています(P.2)。

放射性よう素に関する具体的な値については,ICRP63(放射線緊急時における公衆の防護のための介入に関する諸原則(1992))の77項で,「よう素剤による予防法は,0.5 Svが回避できればいつでも正当化することができ,最適化されるレベルはこれより低いだろうが,その1/10を下回ることはないだろう」という見解を示していることから,放射性よう素による甲状腺等価当量を 50 mSv/yearと設定したという記述がありました(P.2)。また,ICRP63の77項におけるこの見解の根拠となっているのは,ICRP40における介入についての下限レベルが50 mSvであることという記述もありますので,どうやらICRP40を読み解くのも重要な鍵となりそうです。

ちなみに飲食物の摂取量が表2(P.6)にまとめられていましたので,この文書中で設定されている甲状腺等価当量(表1,P.5)と共に計算し直してみます。

成人で  300 Bq x 4.3E-4 mSv/Bq x 1.65 L/day x 365 day/year = 77.7 mSv/year
乳児だと 100 Bq x 3.7E-3 mSv/Bq x 0.71 L/day x 365 day/year = 95.9 mSv/year

まだかなり高いですね。というか,最初の計算より増えてますね(^^; もうちょっと読み進めてみましょう。
するとちゃんと計算式が載ってます(P.8)。そう,これが欲しかったんです。見てみましょう。

誘導介入濃度Bq/kg = (介入線量レベル÷複数の食品群に別れた場合の分割比)/(年平均濃度とピーク濃度の比)・(食品群の一日の摂取量 kg)・(預託線量 mSv/Bq)・(核種存在比率)・(1-exp(-λt)・λ^-1



かなりややこしいので,今回に合わせて少し簡単にしてみます。今回求めたいのは,制限値の水を摂取し続けた場合の甲状腺等価線量がどのくらいの値に設定されているのかということですので,誘導介入濃度にあたる部分は 制限値に等しくなります。また年平均濃度とピーク濃度の比はよう素131の場合「1」とされています。また核種存在比率もよう素131は代表核種ですので,「1」と表せます。また,(1-exp(-λt))によう素131のλ:壊変定数(詳しくは後述)とt:食品摂取期間=365日を代入するとほぼ1となりますということで,まとめてみましょう。

設定甲状腺等価線量=制限値×各年齢の甲状腺等価線量×1日辺りの摂取量×よう素131の壊変定数の逆数



だいぶ簡単になりました(^^; ということで,私がやっていた計算と比較すると,私は1年365日をかけていたのに,こちらの式ではよう素の壊変定数の逆数をかけています。放射性物質の壊変定数は半減期t(1/2)から,t(1/2) = (1/λ)ln(A/(A/2)) ≒0.693/λと言う関係で求められることは以前にも書きました。この関係式から半減期8.02日のよう素131の壊変定数を時間の単位を「日」として(理由は後述)求めると0.0864となります。

おそらくたろうさんが仰っていた「放射性物質が一度だけ放出されて、次第に減少していくことを前提とした一時的な指標」とか,「β崩壊による現象を考慮する」というのは,このことを指しているのかな?と言う気がしているのですがいかがでしょうか?

ただ,よく考えると「次第に減少していくことを前提とした一時的な指標である」というのは,要するに「一年後には通常の値に近づいているのが前提の緊急時の値」というように考えれば,それはその通りなわけです。となると問題は「一度だけ」という部分ですね。私はこの「一度だけ」を「事故による短期間」という風に考えても十分同じ意味になるのではないかと思いますので,この「一時的」という言葉をどう解釈するかと言う事なのかな?と思っています。

しかし,先ほどの計算式の中には「F:年平均濃度とピーク濃度の比」というパラメータがあります。このパラメータは,前述の通りよう素同位体では「F=1」とされています。これはつまり,年間通してこの濃度であることを前提としていると言う意味のはずですから,やはり「一年間通して飲んでもこれ未満なら問題ないと考えられる」レベルとして,規制値が設定されていると考えるのが妥当ではないかと思います。

少し脱線してしまいました。

この式では,前述の通り私が365 day/yearをかけていた代わりに,壊変定数の逆数=1/0.0864 = 11.57 をかけています。実際に計算してみますと,

成人で  300 Bq x 4.3E-4 mSv/Bq x 1.65 L x 11.57 = 2.46 mSv
乳児だと 100 Bq x 3.7E-3 mSv/Bq x 0.71 L x 11.57 = 3.04 mSv

と,かなり小さくなります。

元文書では,50 mSv/yearの2/3の1/3が飲料水から許容できる放射線量ということで,11.1 mSvとなる放射性よう素の放射能として,成人で1270 Bq/L,乳児で322 Bq/Lという計算値を出しています(P.10 表6)。もちろんこちらはテルル133を含むよう素同位体全体についての計算ですので,私がやった簡易的な計算とはちょっと違うと思いますが,実際の規制値(成人で300 Bq/L,乳児で100 Bq/L)は当初想定していた線量よりも小さい値で設定されていると言って良いかと思います。

また少し脱線してしまいました。次は,少しおこがましいですがこの式の妥当性をもう少し検証してみましょう。私が最初に計算した式と,この文書の式では約30倍以上値に差が出ていますが,これをどう考えるべきでしょうか。

鍵は,預託線量の考え方にあります。

素直に告白しますと,要するに最初に私がやっていた計算が間違っていたために,過剰評価をしていたと言う事です。以下,正しい計算の考え方について説明します。

例えば,10日目に完全に消滅するような半減期を持った放射性元素を定常的に100 Bqずつ摂取し続けているとします。1日目はその100 Bq分の放射線を受けます。2日目は,1日分減少した1日目の分と新たに加えられた2日目の100 Bqからの放射線を受けます。同様に3日目には,2日分減少した1日目の分と1日分減少した2日目の分と3日目の100 Bqからの放射線を受けます。

これをどんどん繰り返していくと10日目に受ける放射線は,

9日分減少した1日目の分+8日分減少した2日目の分+7日分減少した3日目の分+6日分減少した4日目の分+5日分減少した5日目の分+4日分減少した6日目の分+3日分減少した7日目の分+2日分減少した8日目の分+1日分減少した9日目の分+10日目の分

になります。11日目以降は,1日目の分が完全に消滅しますので,この後はずっと同じ量の放射線を浴び続けることになりますが,この10日目以降にそれぞれ浴びる放射線から人体が受ける影響はある量の放射性物質が人体に与える影響の総量,つまり実効線量(あるいは等価当量)に等しくなります。ちなみに,300 Bq/L(乳児の場合は100 Bq/L)のよう素131が含まれた水を1日飲んだ場合の甲状腺預託等価線量は

成人で  300 Bq x 4.3E-4 mSv/Bq x 1.65 L = 0.212 mSv
乳児だと 100 Bq x 3.7E-3 mSv/Bq x 0.71 L = 0.263 mSv

となります。

もちろん規制値近傍の水を一日飲んだだけであれば,受ける甲状腺等価線量はこれだけで済みます。しかし,今回の問題はこれを365日間飲んだ場合ですので,t=0から,t=365dayまで積分する必要があります。

具体的にはある時間tにおける放射能は「A(t) = A(0) × e^(-λt)」で表現できますので,これをt=0からtについて積分します。すると「(1-exp(-λt))/λ」が得られます。見覚えありますよね?そう,私が365 day/yearをかけていた部分に,替わりで出てきていたあの項には,こういう意味ががちゃんと含まれていたのです。

このうち「(1-exp(-λt))」の項は,よう素131の場合には前述の通り「ほぼ1」となりますので,壊変定数の逆数「1/λ」だけが残り,t=365 dayの場合を求めるために壊変定数の単位もdayで揃えた0.0864を使えば,先ほどの計算結果が得られるわけです。

みなさん大丈夫でしょうか? というか,私のこの理解で大丈夫でしょうか???(^^;;;;;

だいたい私の感覚に近い値が出てますし,今回ご紹介した文書通りに計算すればこういう値になりますので,日本が基準を設定した時のやり方に沿ってはいると思うのですが,内容についての理解という部分では正直ちょっと自信がありません(^^; ということで,いつも以上にご指摘大歓迎です。どうかよろしくお願いいたします。

さて,次の課題としては50 mSv/yearの設定理由についてですね。これを理解するには最低でもICRP40などを読む必要がありそうですね。なんかいろいろ宿題がたまっている気がします(^^;

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 02:01:22 | Trackback(0) | Comments(4)

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