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ぷろどおむ

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元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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生体濃縮についてもう一度
福島第一原発において,低レベル放射性排水の放出が行われました。以下に毎日新聞の記事を引用します。

福島第1原発:低濃度汚染水、海に放出 1万1500トン
 東京電力は4日、東日本大震災で被災した福島第1原発の施設内にある、低レベルの放射性汚染水計1万1500トンを海へ放出すると発表した。(中略)
東電によると、放出される汚染水の放射能は法令基準の約500倍(最大値)に当たる。全体の放射能は約1700億ベクレルで、2号機の汚染水約10リットル分に相当する。東電は環境への影響について「2号機の高レベル汚染水が流れ続けるよりは軽微」としている。(後略)



1700億ベクレルとか言われると,かなりどっきりしますね。1.7E11 Bq=0.17 T(テラ)Bqなんて言われたら,さらにこんがらがりそうです。

ただし,同時に排出される水の量が11,500トン=11500000 Lですので,換算すると約15,000 Bq/kgということになりますので,先日のほうれん草と同レベルの放射能を持っていると言う事になります。もちろん,今回放出されるのはそれなりに長期保存されていた放射性排水のようですので,おそらくヨウ素131はほとんど含まれていないと思いますが,実はヨウ素131よりも大きな実効線量係数を持っている放射性元素はそれほど多くありませんので,シーベルトに換算すれば先日のほうれん草から受ける影響よりも小さくなることが期待できると思います。それに,これがさらに海で希釈されるわけですから,健康被害については心配する必要はまだ無さそうです。

それよりも遙かに高い放射能を持つ2号機の汚染水が漏れる方がより心配ですので,致し方ない処置であると思うしかないでしょう。

さて,こういう事態を受けて世の中では「生体濃縮」という言葉が良く聞かれるようになってきましたが,一部誤解が生じている部分もあるようなので,再度解説してみたいと思います。

生体濃縮については以前も触れたことがあるわけですが,その時きちんと説明し損ねた部分がありましたので,最近見かけた誤解についてその辺りを補完しながら説明していきたいと思います。

1) 生体濃縮により,食物連鎖上位の生物の中にはより多くの放射性物質が濃縮される

誤解です

というか,より正確に表現すれば常に正しいとは限らないということになるでしょうか。典型的なのは今回最も話題に上っているヨウ素です。先ほど紹介したエントリ中でも紹介しているとおりヨウ素は,海藻中により多く濃縮されます。食物連鎖の流れを考えるとこれは非常に不思議に思えますが,コメントの方でも書いたとおりこれはそもそも海藻は自分の体の中に大量のヨウ素をため込んでいるからです。

これを理解するためには,生体濃縮には大きく分けて二つのパターンがあることを理解する必要があるかと思います。まず第一のパターンは,水俣病で有名になり,最近ではマグロ中の含有量が話題に上がった有機水銀のように,水に溶けにくいような物質が体内の脂肪分に蓄積されていく場合です。このような場合には,一般的に食物連鎖上位の生物になればなるほど,その濃縮倍率は上昇し,通常食物連鎖の最上位に君臨している人間に一番大きな被害が生じる可能性が高くなります。

このパターンで濃縮されやすいのは,前述の通り嵩高く水に溶けにくい化合物です。水俣病の場合は水銀が有機化合物とくっついてできた有機水銀化合物が魚の脂肪分に濃縮され,それを食べ続けた人間に健康被害が生じました。

これに対する第二のパターンは,その生物が特異的にある元素もしくは化合物を体内に貯め込む特徴を持っている場合。元素の場合で有名なものとしては,ワカメやコンブ中のヨウ素,ヒジキ中のひ素,ホヤ中のバナジウムなどがあります。人間などの内骨格生物も,カルシウムなどを自然界から大量に濃縮して骨として利用していますし,ナトリウムやカリウムも大量に貯め込み,様々な用途に使っています。

こういうパターンで濃縮されるのは,元素の場合が多く,その種類によって貯め込む元素の種類も大きく異なっていることが普通です。ヨウ素の場合はこの例に該当しているため,食物連鎖では上位にあるものの元々それほど大量のヨウ素を体に貯め込まない魚では濃縮倍率が低くなるのです。

2) ヨウ素131の半減期は8.02日だが,人体に入ると甲状腺に濃縮され半減期は80日となる

誤解です


たぶんヨウ素の生物学的半減期をどこかで見てきた結果の誤解だと思います。これはヨウ素原子が体内に取り込まれて甲状腺内に残留した場合の生物学的半減期としては正しいです。しかし,生物学的半減期はヨウ素という元素に対する体内の代謝反応,つまり化学的な反応の結果としての値ですので,物理現象である放射性ヨウ素131の半減期に対して何の影響も与えません。ですので,半減期の長いヨウ素129などは生物学的半減期80日で減少していくことになるでしょうが,半減期の短いヨウ素131はそれ自身の持つ物理学的半減期8.02日で減少することになります。




今後も残念ながら放射性物質の流出はしばらく続きそうな気配を見せております。その様な中で我々が注目すべき情報は,周辺および自分たちが居住している地域の環境放射線量,周辺地域や居住区域で採取された野菜や水,海水,魚などの実測値です。

今後,突然原子炉が大爆発をするようなことさえ起きなければ,突然放射線量や様々なものに含まれる放射能が激増することはないと考えられますので,増加傾向にあるか減少傾向にあるか,その推移を注視することは非常に重要になります。

何度でも言いますが,現時点では原子炉周辺部以外で,健康被害が生じるような放射線量や放射能は検出されておりません。もちろんそれは未来永劫検出されないことを保証しているわけではないのは言うまでもありませんが,前述したとおりある日突然激増する可能性は極めて低いと思って間違いないと思います。ですからこそ,冷静に推移を見守る必要があるかと思います。

個人的には,周辺地域の野菜や魚に含まれる放射能があと2桁大きくなり,常時数百万Bq/kgを超えるレベルで推移するような状況になると相当警戒を強めなければいけないとは思っていますが,1桁上くらいまでならまだそれほど心配する必要はないだろうと思っています。

チェルノブイリの事故は人類史上最悪の原子力関連事故でした。しかし,そこから何を監視しなければいけないのか,どのような点に注意すればよいのかという数多くの教訓を得ることもできました。残念ながら旧ソ連の隠蔽体質もあり,チェルノブイリの事故直後に行われた当局の監視態勢や作業員・周辺住民に対する被曝線量管理態勢は杜撰の一言で片付けられないほどひどいものでした。しかし,今の日本ではこれだけの規模の事故であるにもかかわらず,現時点では作業員の人たちの線量管理も完璧とは言わないまでも十分に行われておりますし,野菜や原乳,水,魚などのモニタリング態勢も間違いなく機能しています。

楽観しすぎることは残念ながらできかねる状況ではありますが,まだ冷静さを持って状況の推移を見守っていられるレベルであるのも事実です。

私自身も今後も注意して状況を見つめていきたいと思います。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 17:57:30 | Trackback(0) | Comments(2)

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