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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
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続々々・日本の基準は本当に緩いのか
たろうさんから,再びコメントをいただきました。

結論から言います。たろうさんが想定されている事態について,

完全に私の理解が間違っておりました


その辺についての詳しい説明としては,たぶん私がぐちゃぐちゃ書くよりもこちらのコラム「基準値の根拠を追う:放射性ヨウ素の暫定規制値のケース」をご覧いただいた方が理解が早いんじゃないかと思います。

そして,私が何を間違っていたのかという点なのですが,「汚染が発生する」という部分についての理解が不十分だったと言うことです。つまり,300 Bqの規制値を長期間超えるような汚染イベントには,大ざっぱに考えても二種類のものがあると言うことに考慮が至っていなかったと言うことです。

その二種類とは,

1) たとえば30,000 Bq/kgを超えるような極めて甚大な汚染が短期間に起きた場合
2) 300 Bq/kg近辺の汚染を生じるようなイベントが連続的に起きた場合



の二つです。

そして,たろうさんが常に危惧しておられたのは後者のパターンであり,今回設定されている基準値が想定しているのは前者のようなパターンであると言うことだったのですが,私がそこを混同し続けていたのが混乱の原因です。

そして,第二の間違いは,そういう混同した状態で無理矢理今設定されている基準値を理解しようとしたために,本来適用すべきでない後者の事態についても適用できると思い込んでいたことです。

というわけで,常時規制値の水を飲み続けた場合に受ける甲状腺等価線量の値は前回のエントリで「これはいくら何でも高すぎるのでは?」と却下した

成人で  300 Bq x 4.3E-4 mSv/Bq x 1.65 L/day x 365 day/year = 77.7 mSv/year
乳児だと 100 Bq x 3.7E-3 mSv/Bq x 0.71 L/day x 365 day/year = 95.9 mSv/year



の方が近いことになります。

年間で乳児が受ける線量が100 mSvに匹敵する値というのは,十分な安全マージンが取られているかというと確かに疑問を持たざるを得ませんので,確かにたろうさんが想定していたような連続的な汚染イベント発生時にはふさわしくない基準であると言えると思います。そして,たぶんこれが前回書いた「飲食物中の放射性物質が健康に悪影響を及ぼすかどうかという濃度基準ではなく,緊急事態における介入のレベル(防護対策指標)として,飲食物摂取制限措置を導入する際の判断の目安とする値である」という文章の本当の意味なんですね。誤解して考えていたようです。

もちろん今現在の状況と比較してと言う話になりますが,幸いなことに4/19現在の実測値を見ると,福島県内でも水道水でよう素131が検出されているところは,ほとんど無くなっているようです。なので,少なくとも現時点では現在設定されている基準が想定しているケースの範囲内に収まっていると考えてよいと思います。ですから,今この瞬間の安全は十分に担保されていると私は思っています。しかし,そもそもその思いが強すぎたのが理解を遅らせた原因でもあると思っていますので,今後はより一層注意をしていきたいと思います。

さて,それでは一年間常時摂取し続けても安心な値となる規制値はどのくらいがふさわしいのでしょう?先ほどのコラム中では「12 Bq/L」という値が紹介されていたように,もう一桁低い値を考える必要があるようにも思います。しかし,そういう方向で究極的に考えると当然WHOが出している通常時の値に限りなく近づいてしまい,緊急時の基準をどの程度に設定すべきかというそもそもの命題からどんどん逸脱してしまいます。しかし,基準値を設定すると言うことは,同時に摂取制限が解除されるタイミングを左右することになるわけですから,現在の規制値近傍の値が長く続くケースを考えると,このレベルの規制が必要になってくる必要性は十分に高いと思います。

ということで,正直どう考えるべきかという点についてはいろいろ考えましたが,よい考えがまとまりませんでした。現在の規制値が想定しているような爆発的に大規模流出が非連続的に起きているような状況であれば,現在よりも厳しい規制をしてもそれほど意味があるように思えません。ですから,規制解除のタイミングを上手く考慮する運用をすることで十分対応できるように思います。しかし,常時100 Bq/kg程度の汚染が続くような状況にどう対応すればよいのかというと,やはりその様な事態用の規制値を新たに設定するなり,その時々での状況を見つつ臨機応変に対応する以外の方法が私では思いつけませんでした。

蛇足にはなりますが,今回用いられている基準が「間違いである」という表現をしている方もいるようですが,それはちょっと違うのではないか,と思います。確かに基準値近傍の水「だけ」を一年間継続的に摂取すると,かなりダークなグレーゾーンに入る線量を浴びることになってしまいます。しかし,それは規制値が間違っているというわけではなく,何度も繰り返していますが,適用範囲というか,想定している状況が違うだけだと思います。そして,もちろん予断を許さない状況ではありますが,それでも現時点での状態であれば,今回の事故ではこの規制値が想定している範囲内の事象しか起きていないことも確かだと思います。

とは言え,何度も書いてあるとおり,残念ながら現在設定されている規制値は連続的に(3/15に起きたような)放射性物質の大規模流出が続くような状況に対応したものではなく,そのような状況に対応した規制値も存在しない状態であることは確かなようです。もちろんそのような状況が現実問題として起こりうるのか,という疑問もあるでしょうが,今回起きた様々な事象,特にあれだけ津波に対して警戒をしていた三陸沿岸の各地域が壊滅的な被害を受けてしまったという事実を見れば,ほとんど起きないと思われるような事象についても十分に起きうるものとして対応策を考えておかねばならない,ということの重要性や必要性は骨身にしみるものがあります。ですから,今後はこのような視点を持ってしっかりとした議論をしなければいけないと思います。

しかし,そうであったとしても,こういった規制値は無闇に厳しくすればよいと言うものでは無いのが難しいところです。

不必要に厳しい規制値は,不要な不安感を導き過剰な反応と経済的な打撃と,それより何より規制対象となる地域住民への過度の負担を強いることになります。なので,連続的な汚染イベントが発生した場合の規制値の決定には,これらの要因と健康被害の防止という,どちらもないがしろにするわけにはいかない極めて難しいバランスが要求されると思います。

今後のエネルギー供給をどのような戦略で進めていくのかという点も含め,関係機関には長期的な展望を持ってしっかりとした対応をしていただきたいと思います。

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気になる化学リスク | 11:48:36 | Trackback(0) | Comments(0)
続々・日本の安全基準は本当に緩いのか
たろうさんから再びコメントをいただきましたが,私がいろいろ勘違いをしていたことなどもありまた長くなってしまいましたので,エントリにいたします。話の流れについては前のエントリのコメント欄などを参照して下さい。

> 基本は甲状腺等価線量50mSv/年で、そのうち3分の1を割り当てたら300bq/L(ただしβ崩壊による減少を考慮する)になった、というところでしょう。
> > 300 Bq x 1.6E-5 mSv/Bq x 2 L/day x 365 day/year = 3.6 mSv/year
> やっぱりこれ、実効線量係数ではないですか?
> 表の下の方に甲状腺等価線量係数が記載されていると思いますが。


本当にお恥ずかしい。穴があったら入りたいという気分は今のような気持ちを言うんでしょうね。全くもって困ったものです。確かに私が使ったのは実効線量係数ですね。甲状腺等価線量係数はその下にちゃんと別枠でありました。本当に申し訳ありません。なんでいくら計算しても50 mSv/yearとはこんなにかけ離れているのかなぁ?と不思議には思って検算はしたのですが,そもそも表を読み間違えていることに気がつきませんでした。本当に申し訳ありません。

というわけで,この下の値を使うと(乳児は幼児の1/2,幼児は成人の1/2の摂取量でした。いろいろ間違い多くてすいません。)

成人で  300 Bq x 3.2E-4 mSv/Bq x 2 L/day x 365 day/year = 70 mSv/year
乳児だと 100 Bq x 2.8E-3 mSv/Bq x 0.5 L/day x 365 day/year = 51 mSv/year

………,また計算違いしてますか?(^^; いくらなんでもこれは多すぎる気がします。50 mSv/yearの2/3を三等分という話でしたから,10 mSv/year程度になるんだろうと予想していたのですが,これではあまりにも変ですよね。摂取水分量の設定が大きいんでしょうか。でも大人で一日200 mLは少ないですよね。何がいけないんでしょう?

というわけで,この辺の基準がどういう風に設定されたのかと言うことをもう一度頑張って調べてみたところ,当然なんですがちゃんとまとめられている文書が見つかりました。それがこちらの原子力発電所等周辺防災対策専門部会環境ワーキンググループが作成した「飲食物摂取制限に関する指標について(平成10年3月6日)」という資料です。

非常に興味深い資料なので全部きちんと解説したい気もするのですが,とりあえずよう素の基準がどのように設定されたかに焦点を絞って順を追ってみてみましょう。

まず今回かなり長い上にちょっとややこしい&私自身の理解が十分である自信がないというひどい状態ですので,一応最初にいくつか大切なことをまとめておきます。

1) 甲状腺等価線量50 mSv/yearという基準は,ICRPなどの国際機関で設定された値であり,日本だけの基準ではない(=日本だけが緩いわけではない)。(事実)
2) 水だけで50 mSv/yearというわけではなく,水・乳製品・野菜などで全体の2/3,残りで1/3とし,さらに最初の3群それぞれを等分にするので,飲料水から受ける甲状腺等価線量は最大11.1 mSv/year。(事実)
3) やはり年間通して規制値近傍の水を摂取し続けた場合を想定しているように思える。(私の推測)



まずICRPの持つ介入線量レベルについての考え方を整理しましょう。介入線量レベルとは,一般市民に対して放射線防護対策をすべきレベルのことで,ICRP40(大規模放射線事故の際の公衆の防護(1984))においてはこれ以上であれば必ず対策を取らなければいけない値である上限値とこれ以下の値では対策を取ることが正当化されない値である下限値という概念を設定しています。そして,事故後に対策を取るための実際の線量レベルはこの間で設定されるべきであるという考え方が提示されており,日本の基準もこれにしたがったものとされています(P.1)

また,この指標は「飲食物中の放射性物質が健康に悪影響を及ぼすかどうかという濃度基準ではなく,緊急事態における介入のレベル(防護対策指標)として,飲食物摂取制限措置を導入する際の判断の目安とする値である」ということも明記されています(P.2)。

放射性よう素に関する具体的な値については,ICRP63(放射線緊急時における公衆の防護のための介入に関する諸原則(1992))の77項で,「よう素剤による予防法は,0.5 Svが回避できればいつでも正当化することができ,最適化されるレベルはこれより低いだろうが,その1/10を下回ることはないだろう」という見解を示していることから,放射性よう素による甲状腺等価当量を 50 mSv/yearと設定したという記述がありました(P.2)。また,ICRP63の77項におけるこの見解の根拠となっているのは,ICRP40における介入についての下限レベルが50 mSvであることという記述もありますので,どうやらICRP40を読み解くのも重要な鍵となりそうです。

ちなみに飲食物の摂取量が表2(P.6)にまとめられていましたので,この文書中で設定されている甲状腺等価当量(表1,P.5)と共に計算し直してみます。

成人で  300 Bq x 4.3E-4 mSv/Bq x 1.65 L/day x 365 day/year = 77.7 mSv/year
乳児だと 100 Bq x 3.7E-3 mSv/Bq x 0.71 L/day x 365 day/year = 95.9 mSv/year

まだかなり高いですね。というか,最初の計算より増えてますね(^^; もうちょっと読み進めてみましょう。
するとちゃんと計算式が載ってます(P.8)。そう,これが欲しかったんです。見てみましょう。

誘導介入濃度Bq/kg = (介入線量レベル÷複数の食品群に別れた場合の分割比)/(年平均濃度とピーク濃度の比)・(食品群の一日の摂取量 kg)・(預託線量 mSv/Bq)・(核種存在比率)・(1-exp(-λt)・λ^-1



かなりややこしいので,今回に合わせて少し簡単にしてみます。今回求めたいのは,制限値の水を摂取し続けた場合の甲状腺等価線量がどのくらいの値に設定されているのかということですので,誘導介入濃度にあたる部分は 制限値に等しくなります。また年平均濃度とピーク濃度の比はよう素131の場合「1」とされています。また核種存在比率もよう素131は代表核種ですので,「1」と表せます。また,(1-exp(-λt))によう素131のλ:壊変定数(詳しくは後述)とt:食品摂取期間=365日を代入するとほぼ1となりますということで,まとめてみましょう。

設定甲状腺等価線量=制限値×各年齢の甲状腺等価線量×1日辺りの摂取量×よう素131の壊変定数の逆数



だいぶ簡単になりました(^^; ということで,私がやっていた計算と比較すると,私は1年365日をかけていたのに,こちらの式ではよう素の壊変定数の逆数をかけています。放射性物質の壊変定数は半減期t(1/2)から,t(1/2) = (1/λ)ln(A/(A/2)) ≒0.693/λと言う関係で求められることは以前にも書きました。この関係式から半減期8.02日のよう素131の壊変定数を時間の単位を「日」として(理由は後述)求めると0.0864となります。

おそらくたろうさんが仰っていた「放射性物質が一度だけ放出されて、次第に減少していくことを前提とした一時的な指標」とか,「β崩壊による現象を考慮する」というのは,このことを指しているのかな?と言う気がしているのですがいかがでしょうか?

ただ,よく考えると「次第に減少していくことを前提とした一時的な指標である」というのは,要するに「一年後には通常の値に近づいているのが前提の緊急時の値」というように考えれば,それはその通りなわけです。となると問題は「一度だけ」という部分ですね。私はこの「一度だけ」を「事故による短期間」という風に考えても十分同じ意味になるのではないかと思いますので,この「一時的」という言葉をどう解釈するかと言う事なのかな?と思っています。

しかし,先ほどの計算式の中には「F:年平均濃度とピーク濃度の比」というパラメータがあります。このパラメータは,前述の通りよう素同位体では「F=1」とされています。これはつまり,年間通してこの濃度であることを前提としていると言う意味のはずですから,やはり「一年間通して飲んでもこれ未満なら問題ないと考えられる」レベルとして,規制値が設定されていると考えるのが妥当ではないかと思います。

少し脱線してしまいました。

この式では,前述の通り私が365 day/yearをかけていた代わりに,壊変定数の逆数=1/0.0864 = 11.57 をかけています。実際に計算してみますと,

成人で  300 Bq x 4.3E-4 mSv/Bq x 1.65 L x 11.57 = 2.46 mSv
乳児だと 100 Bq x 3.7E-3 mSv/Bq x 0.71 L x 11.57 = 3.04 mSv

と,かなり小さくなります。

元文書では,50 mSv/yearの2/3の1/3が飲料水から許容できる放射線量ということで,11.1 mSvとなる放射性よう素の放射能として,成人で1270 Bq/L,乳児で322 Bq/Lという計算値を出しています(P.10 表6)。もちろんこちらはテルル133を含むよう素同位体全体についての計算ですので,私がやった簡易的な計算とはちょっと違うと思いますが,実際の規制値(成人で300 Bq/L,乳児で100 Bq/L)は当初想定していた線量よりも小さい値で設定されていると言って良いかと思います。

また少し脱線してしまいました。次は,少しおこがましいですがこの式の妥当性をもう少し検証してみましょう。私が最初に計算した式と,この文書の式では約30倍以上値に差が出ていますが,これをどう考えるべきでしょうか。

鍵は,預託線量の考え方にあります。

素直に告白しますと,要するに最初に私がやっていた計算が間違っていたために,過剰評価をしていたと言う事です。以下,正しい計算の考え方について説明します。

例えば,10日目に完全に消滅するような半減期を持った放射性元素を定常的に100 Bqずつ摂取し続けているとします。1日目はその100 Bq分の放射線を受けます。2日目は,1日分減少した1日目の分と新たに加えられた2日目の100 Bqからの放射線を受けます。同様に3日目には,2日分減少した1日目の分と1日分減少した2日目の分と3日目の100 Bqからの放射線を受けます。

これをどんどん繰り返していくと10日目に受ける放射線は,

9日分減少した1日目の分+8日分減少した2日目の分+7日分減少した3日目の分+6日分減少した4日目の分+5日分減少した5日目の分+4日分減少した6日目の分+3日分減少した7日目の分+2日分減少した8日目の分+1日分減少した9日目の分+10日目の分

になります。11日目以降は,1日目の分が完全に消滅しますので,この後はずっと同じ量の放射線を浴び続けることになりますが,この10日目以降にそれぞれ浴びる放射線から人体が受ける影響はある量の放射性物質が人体に与える影響の総量,つまり実効線量(あるいは等価当量)に等しくなります。ちなみに,300 Bq/L(乳児の場合は100 Bq/L)のよう素131が含まれた水を1日飲んだ場合の甲状腺預託等価線量は

成人で  300 Bq x 4.3E-4 mSv/Bq x 1.65 L = 0.212 mSv
乳児だと 100 Bq x 3.7E-3 mSv/Bq x 0.71 L = 0.263 mSv

となります。

もちろん規制値近傍の水を一日飲んだだけであれば,受ける甲状腺等価線量はこれだけで済みます。しかし,今回の問題はこれを365日間飲んだ場合ですので,t=0から,t=365dayまで積分する必要があります。

具体的にはある時間tにおける放射能は「A(t) = A(0) × e^(-λt)」で表現できますので,これをt=0からtについて積分します。すると「(1-exp(-λt))/λ」が得られます。見覚えありますよね?そう,私が365 day/yearをかけていた部分に,替わりで出てきていたあの項には,こういう意味ががちゃんと含まれていたのです。

このうち「(1-exp(-λt))」の項は,よう素131の場合には前述の通り「ほぼ1」となりますので,壊変定数の逆数「1/λ」だけが残り,t=365 dayの場合を求めるために壊変定数の単位もdayで揃えた0.0864を使えば,先ほどの計算結果が得られるわけです。

みなさん大丈夫でしょうか? というか,私のこの理解で大丈夫でしょうか???(^^;;;;;

だいたい私の感覚に近い値が出てますし,今回ご紹介した文書通りに計算すればこういう値になりますので,日本が基準を設定した時のやり方に沿ってはいると思うのですが,内容についての理解という部分では正直ちょっと自信がありません(^^; ということで,いつも以上にご指摘大歓迎です。どうかよろしくお願いいたします。

さて,次の課題としては50 mSv/yearの設定理由についてですね。これを理解するには最低でもICRP40などを読む必要がありそうですね。なんかいろいろ宿題がたまっている気がします(^^;

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気になる化学リスク | 02:01:22 | Trackback(0) | Comments(4)
続・日本の安全基準は本当に緩いのか?
たろうさんからコメントをいただきました。
様々な情報をいただきどうもありがとうございました。

コメント欄でお返事しようと思ったのですが,いつものように長くなりすぎましたのでエントリとさせていただきます。ご容赦下さい。

> > 過去一年以内に原子力事故が起きていない場合の基準値,
> (1)これは本当ですか?ソースを提示願います。

前回のコメントでもご紹介した「WHO飲料水品質ガイドライン」中のP.202に「事故直後の1年間は、BSS(IAEA, 1996)並びにその他のWHOおよびIAEAの関連刊行物(WHO, 1988; IAEA, 1997, 1999)に記載されているように、食材に関しての一般的アクションレベルが適用される。」という記述がありますので,このようにご紹介させていただきました。

> 原発事故が起きて1年以内等の緊急事態に限定した場合の閾値が100bq/Lではないんですか?
> (WHO Radiation Emergency Guidelines P13 Table 4.)

ご呈示いただいた「WHO Radiation Emergency Guidelines」は,恥ずかしながらまだチェックしておりませんでしたので是非読ませていただこうと思ったのですが,WHOのサイトからはリンク切れで読めませんでした。

そこで,こちらのwikiの記述を元に,「Table 4. Generic action levels for foodstuff」をキーワードとして探して見つけられたそれらしいものが,同じくWHOが出している「Environmental health in emergencies and disasters: a practical guide」という文書です。これの「ANNEX 5 Selected information from the International Basic Safety Standards for Protection against Ionizing Radiation and for the Safety of Radiation Sources」P.249に同じく「Table 4. Generic action levels for foodstuff」があり,その中で確かに飲料水などのI-131のアクションレベルとして「100」という数字があります。しかし,これの単位が「kBq/kg」になっているんですよね。これはすなわち100,000 Bq/kgですから日本の基準より300倍以上大きい値となってしまい,いただいた情報との整合性が取れません。もちろん単位の読み間違いによる誤解というのは良くある話ではあるのですが,なんとなくこの量をアクションレベルに設定するのはちょっと基準が緩すぎないだろうかという気もしますので,私が何か誤解をしているような気もします。ただ,リンクが切れる前に「WHO Radiation Emergency Guidelines」(たぶん提供いただいた文書と同じものだと思うのですが…)を訳されていた方がいらっしゃるのですが,その方の記述を見るとやっぱり単位は「kBq/kg」なんですよね(^^;;; ということで,正直どの情報が正しいのか判定しかねております。

その他関連しそうな文書をあたってみると,IAEAがチェルノブイリの後に出した「The use of Prussian Blue to reduce radiocaesium contamination of milk and meat produced on territories affected by the Chernobyl accident」という文書がありました。この中のP.9 「TABLE III. GUIDELINE LEVELS FOR RADIONUCLIDES IN FOODS FOLLOWING ACCIDENTAL NUCLEAR CONTAMINATION FOR USE IN INTERNATIONAL TRADE」において食料品などの輸出中に関する基準値として,「MILK AND INFANT FOODS(ミルクと幼児食)」中のI-131で100 Bq/kgと設定されているのを見つけることができました。ただし,同じ表中の「FOODS DESTINED FOR GENERAL CONSUMPTION」が1,000 Bq/kgとなっておりますし,見ずに関する記述も省かれていますので,これはただの牛乳と言うよりは,乳幼児向けの飲食物の場合と考える必要があるのかな?と思います。ただ,そうなるとやはりこちらもご呈示いただいた情報とは整合性がとれなくなり非常に悩ましいことになります。

というわけで,大変申し訳ありませんが私の力不足でせっかくご教示いただいた資料を見つけることができませんでした。大変申し訳ありませんが,どこかこの情報を得られる一次情報へのリンクをご呈示いただけませんでしょうか?どうかよろしくお願いいたします。

> > 「この値を下回れば乳幼児、子供、妊婦を含め、誰が飲んでも安全である」
> (2)OIL-6の意味を理解していますか?
> 「もう飲んではいけない限界の値」のことなんですが・・・。

本文中でもご紹介したIAEAの「Criteria for Use in Preparedness and Response for a Nuclear or Radiological Emergency」のP.52 11.36に「Below OIL6: Locally produced food, milk and water have been screened, and all members of the public, including infants, children and pregnant women, can safely drink the milk and water and eat the food during the emergency phase.」という記述がありましたので,このようにご紹介いたしました。ただ「during the emergency phase」という部分はもっと強調すべきだったかもしれません。申し訳ありませんでした。

> (3)ちなみに貴殿は、300bq/Lの飲料水指標が年間総被ばく量換算でどれくらいのレベルを想定しているか、ご存知ですか?

確か1 mSv/y程度であったと記憶していますが,間違っていたらご教示いただければと思います。

> > 世の中には放射線以上に健康を阻害するリスク要因があふれているからです。
> (4)これも本当ですか?
> 例えばBEIR VII 報告等は有名ですが、貴殿はこの報告についてどのような見解をお持ちですか?
> 閾値なしの直線モデルを考えれば、ある閾値をもって安全だとは言えませんが、これについては如何でしょう?

LNT仮説についての考察は,本文中でもご紹介させていただいた以前のエントリでも行っておりますのでご参照いただければと思います。その際,別要因からのリスクなどについても簡単に触れております。現在のところ,この時書いた内容と私自身の考え方はあまり変わっておりません。ご呈示いただいたBEIR VII 報告は,さすがに全文読み通すところまではしておりませんが,確かにLNT仮説に関する従来の議論に一石を投じたものと認識しています。しかし,ほぼ同時期にフランスでは閾値の存在を肯定するような報告も出ているなど,まだまだこれから議論を深める必要がある分野だと考えています。もちろんLNT仮説を念頭に置いた予防対策を立てることについては異存ありませんが,LNT仮説を用いてリスクを計算することそのものについては,私自身はまだ懐疑的です。ただ,実はちょうど次のエントリ用にICRPの文書群を再チェックしており,量が膨大なためなかなか十分な検討ができているとは言い難いのですが,当然その中にはBEIR VII 報告などを加味したLNT仮説についての検証などについての文書もありますので,調べた結果については近々まとめてご報告させていただきたいと思っています。

たださきほど紹介させていただいた以前のエントリ中でご紹介した放射線による発がんリスク0.05 /SvをLNT仮説に適用すると,喫煙以上のリスクが生じる可能性がある地域が出てきているのは確かです。100 mSv/yの被曝で約17年分の喫煙と同程度,20 mSv/yでも3年分以上の喫煙と同程度のリスクが生じる可能性が考えられます。また,ICRPも3/27に出した声明で,公衆の安全を守るために20~100 mSVの間にリファレンスレベルを設定するように勧告しています。私も,このような事態が予想される地域については十分な警戒と対応が必要だと思いますし,昨日国から発表された年間20 mSv以上の被曝が予想される地域への計画的な避難勧告は,この勧告にも準じたものであると思います。

しかし,東京はもちろんのこと,福島県内や隣県の茨城県でも十分に離れた距離にあり,現時点では年間の被曝量十分低いと予想されている地域については,まだ動揺する必要はないだろうというのは以前から訴えているところです。

と,ここまで書いて気がつきましたが,確かに以前の私の文章を読むと原発近傍を含めた全ての地域で安全であるようにも読めてしまいますね。これは私のミスです。大変申し訳ありませんでした。私がお伝えしたかったことは,正確にはこの直前に書いたような内容です。誤解を与えるような稚拙な文章を掲載してしまい,大変申し訳ありませんでした。深くお詫び申し上げます。元のエントリには,こちらへのリンクを張り両方読んでいただけるようにしたいと思います。ご指摘ありがとうございました。

ということで,ご回答になりましたでしょうか?おそらくまだまだ不十分なところがあるかと思いますので,ご指摘いただければと思います。どうかよろしくお願いいたします。

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気になる化学リスク | 18:36:42 | Trackback(0) | Comments(8)
放射線は何が怖いのか
最近書いているエントリに関してコメント以外でもいろいろとご指摘をいただいております。ご指摘を下さった皆さん,本当にありがとうございます。私自身に力不足な部分が多いため,皆様のこのようなご指摘は非常に助けになります。今後ともどうかよろしくお願いいたします。

さて,いろいろとお話を伺っておりますと,この辺の部分が曖昧のまま漠然とした不安感をもたれている方が非常に多いのかな?と言う印象を受けました。ということで,これまで書いた放射線に関する基礎的な知識などについてのエントリを引用しながら,放射線の性質について,放射線はどうしてどのように体に害を与えるのか,ということについてお話しをさせていただきたいと思います。一応できる限りわかりやすくと思っていますので,多少厳密さに欠ける表現になることをお許し下さい。

まず,最初に言葉の定義をもう一度おさらいしておきます。

放射線:原子核における放射壊変と共に放出されるものの総称。主にα線,β線,γ線の3種類に分類される。放射線の持つエネルギーはグレイ(Gy)という単位で表現される。
放射能:放射線を出す能力のこと。一秒間に一回放射線を出せる能力を1 ベクレル(Bq)と表す。
放射性物質:放射能を持つ物質の総称。より厳密には放射線を出しているのは「放射性元素」。放射性元素以外からは放射線は出ないので,放射性物質とは「放射性元素を含む物質(化合物)と考えても良い。
放射壊変:エネルギーが高く不安定な原子核が放射線を出すことで,より安定な原子核になる現象。崩壊の仕方により,α崩壊,β崩壊,γ崩壊などに分類され,それぞれα線,β線,γ線を主に放出する。
当量線量:線量(=放射線の持つエネルギー) Gy(グレイ)を元に計算される人体への影響を表す数値。単位はシーベルト(Sv)。線量の値に,放射線の種類や被曝の仕方などを考慮した放射線荷重係数をかけ算して求められる。



放射線が出る仕組みについては,以前三回シリーズで書かせていただきましたので割愛します。相当長いので読みにくいかもしれませんが,興味のある方はご参照下さい。また,放射線で使う単位についても簡単な説明をしたことがありますので,そちらのエントリにもリンクを張っておきます。

放射線が出てくる仕組み その1~原子と原子核
放射線が出てくる仕組み その2~放射壊変
放射線が出てくる仕組み その3~半減期

放射線に関する数字を読む~その強さをどう表すか(単位の話)



先ほどの定義のところでも赤字で書かせていただきましたが,

放射性元素以外からは放射線は出ない


というのは,ぜひ理解して下さい。「放射線に触れると放射能を持つ」とか,「放射線がどこかを漂っていたり貼り付いていたりする」とかそういうこともありません。これらについては,追って説明します。

まず放射性元素について理解を深めましょう。放射性元素が何故放射線を出すのかというと,それは「持っているエネルギーが過剰すぎて不安定だから」です。

こんな例えが適切かどうかわかりませんが,フラストレーションを抱えた思春期の子供がそのイライラを暴れたりすることで解消しているようなものです。思春期の子供もそのフラストレーションの度合いにより,校舎のガラスを割ったりバイクを乗り回したりする(発想が古いのはご容赦(^^;)子もいれば,親や友達に愚痴る程度で済む子もいるでしょう。放射性元素も似たようなものです。そして,暴れたりすることでフラストレーションが解消されればおとなしくなるのも同じような感じです。一回暴れればおとなしくなる分,思春期の子供より扱いやすいかもしれません<ぉぃ

というように,放射性元素は放射壊変をすることでエネルギー(貯まっていたフラストレーション)を外に放出して安定化(ちょっとすっきり)するのですが,安定化の度合いはそれぞれの放射性元素の種類によって違います。一回暴れれば満足して非放射性元素(安定同位体)になるものもありますが,まだ満足していないもの(別の放射性元素に変わったもの)は,もう一度別の放射壊変を行ってもう少しすっきりします。そんな感じで,十分満足する(安定同位体に変化する)まで放射壊変を繰り返します。

具体的に言うと,よう素131はβ壊変を行いキセノン131m(半減期11.8日)に変化し,γ線を出してキセノン131という安定同位体に変化します。セシウム137は,β崩壊によりバリウム137m(半減期2分)に変化し,γ線を出してバリウム137という安定同位体に変化します。安定同位体になれば,もう放射線は出しません。放射能が時間をおくと弱くなっていくというのは,このようにしてどんどん放射性元素がより安定な同位体に変化して放射線を出さなくなっているからです。

また,何度も放射壊変を繰り返すような場合でも,普通は放射壊変を繰り返す度に,出てくる放射線もどんどん弱いものになっていきます。なぜなら,外部からエネルギーを加えられない状態であれば,エネルギー保存則が成り立つからです。そして一個の放射性元素が元々持っていたエネルギーは当然有限ですから,放射線としてエネルギーを外部に放出すれば当然持っているエネルギーはどんどん小さくなり,外部に放出することのできるエネルギーも小さくなっていきます。なので,人体への影響はより小さくなります。


次に放射線そのものについて考えましょう。

放射線を考える上でややこしいけど重要なのが,放射線は3種類ある。ということです。これらはその正体も性質も全く違いますので,それぞれ区別して考えなければいけません。この辺りは先ほど紹介した三回シリーズにも書いてあるのですが,一番大きな性質の違いは大きさと重さです。α線(=Heの原子核)>>>β線(電子)>γ線(電磁波)位の差があります。

α線は大きく重いために大きなエネルギーを持ちます。その正体はHe(ヘリウム)の原子核で粒子としての性質が強いため,空気中ではほとんど飛ぶことができず,真空中でも紙一枚程度で遮ることができるので外部被曝はほとんど気にする必要がありません。しかし,前述の通りパワーが強いので,α線を出すような放射性元素を体の中に取り込んでしまった場合に起きる内部被曝には注意が必要です。

β線の正体は電子なので,α線よりは小さく軽いため空気などは通り抜けることができますが,やはり粒子としての性質を強く持つので,物質(数 mm程度のアルミ板やプラスチック板で十分)により遮ることが可能です。しかし,β線を出す核種が大量に含まれている水に触れたり,粉塵などが皮膚に付着したことによる外部被曝や,α線同様β線を出す放射性元素が体の中に入り込んだ時の内部被曝には注意が必要です。

これに対しγ線は電波などと同じ電磁波ですので,物質を通り抜ける力が強く,鉄や鉛,コンクリートなどを用いないと遮ることができませんし,空気中でも遠距離まで飛ぶことができますので,外部被曝のほとんどの原因はこのγ線です。ただし,人間の体をそのまま通り抜けていく力も強いのでα線に比べると人体への影響は小さく済みます。

厳密に言うと,この他にも中性子線などがありますが,これについては今のところ注意する必要はあまりないと思います。

さて,ここまでは良いでしょうか。

次に,放射線がどのように人体に影響を与えるかということについてですが,その前に一つ物質の運動エネルギーというものはどう表せるか思い出していただきましょう。たぶん高校の理科で習っているはずですが,運動エネルギーEは,物質の質量をm,速度をvとした時,

E = (mv^2) / 2


という式で表せます。つまり,重さが重ければ重いほど,スピードが速ければ速いほど大きなエネルギーを持つことになります。正確には位置エネルギーに相当するものもあるわけですが,すごく大ざっぱに言うとこのエネルギーがそのまま放射線が持つエネルギー(単位はグレイ)になります。

つまり放射壊変で発生したばかりの放射線は非常に大きな速度を持ち,そのまま何かにぶつかるまで進みます。そして何かにぶつかると弾かれたり何かする場合もありますが,放射線としては大きい方のα線(α粒子)でも原子核としては小さい方なので,普通は持っていた大きなエネルギーを相手に与えて止まります。つまり,スピードがゼロになります。この時相手に与えたエネルギーの大きさが衝突相手へのダメージとなるため,重たいα線の方がダメージは大きくなるわけです。しかし,当然衝突後の運動エネルギーはゼロになるので,それ以上何かに衝突することはできなくなります。つまり,α線はただのふわふわ浮かぶヘリウムの原子核になり,β線はただの電子になり,元々ただの電磁波だったγ線はエネルギーごと相手に吸収されて消えてしまいます。

これは要するに「一個の放射線が衝突相手にダメージを与えられるのは1回だけ」ということを意味しています。ですから,何かの理由で外部から放射線を一回浴びたからと言って,その放射線が体の中に残留することは無いのです。このことは最初にお話しした一個の放射性元素が放射線を出せるのも一回だけということと,セットで覚えておいて下さい。

現在福島や近県で空気中の放射線量が通常よりもやや高い値を示していますが,それは「放射線」が空気中を漂っているのではなく,「放射性元素」が空気中を漂いながら放射線を出しているだけです。そして,空気中を漂っている「放射性元素」は,放射線を出しながらどんどん壊れて安定同位体に変化します。

それでは出てきた放射線はどうなっているのでしょう?先ほどまで説明したとおり,放射線は何かにぶつかって止められると,「放射線」としての性質を失います。この時ぶつかる相手は,確率的には空気とか水とか壁の場合の方が非常に多いわけですが,もちろん人間の体にあたってしまうこともあるわけですが,もし人間の体にぶつかってしまった時には何が起きるのでしょうか?

と,ここまで書いたところで相変わらずかなり長くなってしまいましたので,とりあえず続きは次のエントリに回します。次回は,放射線がDNAをはじめとする人体に与える影響について書きたいと思いますが,もしリクエストなどがあればコメントにどうぞ。できる範囲で対応させていただきたいと思います。

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気になる化学リスク | 13:15:17 | Trackback(0) | Comments(0)
日本の安全基準は本当に緩いのか?
<2011/04/12追記:このエントリ中で一部表現に不十分なところがあります。それらについての補足説明などを別エントリに上げておりますので,そちらもご参照下さい>

もるもるさんからコメントをいただきました。ちょっと長くなりそうなので,エントリにして少しずつコメントを付けさせていただきたいと思います。

かなり、ウソが書かれているような気がします。
日本が定めた暫定基準値は、国際指標の緊急時の摂取基準値すら上回っていますし、暫定基準値は平時の基準値と比べれば数百倍といった所です。暫定基準値とは、1日2日ならば影響はないが1年も食べたら影響が出るかもしれないと言う極めて危険な数値です。


ここで仰っている緊急時の摂取基準値とはどこの何という基準値を指していらっしゃるのでしょうか?ちなみにWHOから正式に出ているコメントでは,ヨウ素131についてIAEA の定める原子力危機の際の運用上の介入レベルは3000 Bq/kgであり,日本の基準はそれよりも厳しいものである紹介されていますが,一応元々の文書もご紹介(リンク先PDF P.43)しておきます。これらの値はご指摘の通りこれ以上高い値のものを1年以上摂取し続けると健康にリスクを生じる可能性があるレベルとして設定されている値です。なので,もるもるさんのご覧になっているものと同じ基準から設定された基準値を見ているはずなのですが,このように食い違ってしまっているのは何故でしょう?コメントをいただいた私のエントリは,このIAEAの基準値を参考に話をさせていただいておりますが,もしよろしければもるもるさんご指摘の「国際指標」についてご教示いただければと思います。

ただし,現実問題としてこのエントリで話題にした東京の水道水も一時的に,さきほどご紹介したIAEAの基準値より一桁下の独自基準よりさらに下の乳幼児向けの基準値を超えましたが,翌日にはその独自基準値を下回りました。唯一成人への独自基準値を超えた福島の川俣村も現在では基準値を下回り,すでに飲用可能であるという話を聞いております。ですので,もるもるさんがご心配している「一年以上摂取し続けなければならない」という状況は,今後原子炉が大爆発するような事態がなければ回避されるのではないかと思います。

また,ついでですからご紹介しておきますが,当初「WHOの基準は1 Bqだ」などという話が出回りましたが,こちらはおそらくこの文書の内容が誤解された結果だと思います。こちらのPDFでP.202から先の部分で「ガイダンスレベル」についての説明があり,P.203の表9-3中でI-131は 10 Bq/kgと紹介されております。またP.204では「これ以下では対策を取る必要がない放射線レベル」として「全β放射能1 Bq/L」という値が紹介されています。おそらく最初の話はこの両者がどこかで混同されて伝わった話なのではないかな?と推測しています。しかし,これらの値は最低でも過去一年以内に原子力事故が起きていない場合の基準値,及び核種毎の存在量分析などの特別な対応を開始するための基準値ですので,今回のような事例に適用するのは不適切です。また,今回のような緊急時に用いるべきとされているIAEAのOIL-6という基準ですが,こちらの値についても「この値を下回れば乳幼児、子供、妊婦を含め、誰が飲んでも安全である」と明記されています(P.52 11.36)。また,仮にこの値を上回ったとしても,代替となる安全な食糧,牛乳,水が入手不可能なために,摂取制限すると深刻な栄養失調や脱水症状が起こしまうのであれば,代替となるものが入手可能になるまでの短期間摂取しても良い,という記述(P.52 11.37)があります。そして,このOIL-6の値は全ての食料・牛乳・水が汚染されていることを前提にし,最も弱いもの(乳児,妊婦)などの安全を守るために設定された値であり,これを超えたら全ての人にとってすぐに危険であるとは限らないという意味のことも書かれています(P.52 11.38)。

私は以上のような情報を元に判断し,現時点で流通している食品に関しては十分安全が担保されていると認識しております。ご理解いただけましたでしょうか?

次の話題に移ります。

福島とチェルノブイリを比較した場合、ほぼ同じ量の放射性物質の飛散がありますし、外部被ばくに過ぎない宇宙線の影響と内部被曝のおそれがある放射性物質の飛散を混同することは危険な事です。


この辺りは誤解されている方が多いのですが,外部被曝にしろ内部被曝にしろ「シーベルト(Sv)」という値を使って比較すれば,体へのダメージは数値だけでその大小を表現できます

というか,様々な種類の放射線や被曝形態を比較するために産まれ,活用されているのが「シーベルト」という単位ですので,せっかくシーベルトを単位として使っているのに比較できないと逆におかしい話になってしまいます。もちろんベクレルからシーベルトに換算する際にどのような被曝をしたかを想定したかによって出てくる値も違ってしまいますが,基本的にこのブログでは,食品等に関する放射能(Bq)を当量線量(Sv)に換算する際にはこちらのエントリのように,経口摂取して内部被曝をしたことを想定して計算しています。ですから,これらの値をそのまま比較していただいてかまいません。

最後の話題に移ります。

臨床データが殆どないわけですので、少なくとも半減期が短い放射性ヨウ素の影響が少なくなるまでは安全だと煽る行為は無責任な行為に映ります。安全かどうかわからないので安全だと煽るのではなく、危険かもしれないので自己責任で行動せよと言うのが正しいんじゃないでしょうか?危険かどうか誰もわからないのですから・・・


残念ながら,過去の人類の歴史で発生したいくつかの事例により,それなりの臨床データが存在しています。特に今回参考になるのはチェルノブイリでの事例でしょう。チェルノブイリの場合,福島とは異なり短期間に集中的に極めて大量の放射性物質が爆散しました。その結果,当時周辺で生産された牛乳を飲んだ子供たちの間に無視できない割合でI-131由来と思われる甲状腺ガンが多発したという事例が見られています。これは大変に不幸なことではありましたが,同時にそれ以外の核種が影響を及ぼしたと考えられる事例も今のところ見いだされていないのも事実です(参考記事)。またチェルノブイリ事故で被曝治療に当たった専門家からのこのようなコメントもあります。また多少状況は異なりますが,広島・長崎から得られた知見はこちらを参照して下さい。

最初の参考記事中でも話が出ていますが,低線量被曝の健康影響については今現在確固たる見解が出ていないのは事実です。私も以前低線量被曝に関するエントリを書かせていただきました。もしお時間がありましたらそちらも参照していただきたいのですが,ではなぜ低線量被曝の健康影響についての研究が進んでいないのでしょう?原発を推進したい人たちの陰謀なのでしょうか?それとも研究者たちの怠慢なのでしょうか???

いいえ。それは世の中には放射線以上に健康を阻害するリスク要因があふれているからです。

放射線によるリスクとして最も注目を浴びているのはやはり発がんリスクでしょう。しかし,その発がんリスクとして最も代表的なのは,放射線などではなく喫煙や飲酒です。また排気ガスなどに代表される(放射線以外の)環境汚染も上げられます。もちろん一番無視できない要因は「加齢」ですが,低線量被曝から発生するリスクは,これら我々が生活をしていく上で非常に避けにくい様々な要因の中に埋もれて見えなくなってしまう程度のリスクでしかない,というのは低線量被曝の健康影響を研究している人たちの中での共通認識であると理解しています。

現在国内外問わず,様々なスクリーニングや環境モニタリングが行われています。そして,そこから得られるデータはいずれも,現時点では以前から存在していた様々なリスク要因を大きく超えるほどのリスクは発生していないことを示しています。

もちろん,いつも言っていますが,これは未来永劫大きなリスクが発生しないことを保証するものでは無いことは確かです。しかし,お茶碗からお米を二口や三口分取り除いたからと言ってダイエットには何の効果もないことと同様に,大騒ぎする必要のないリスクを針小棒大に取り上げて大騒ぎしても無駄な風評被害が広がり不必要な苦しみを与えられる人が増えるだけで何のメリットもありません。

現在の状況は,非常に憂慮すべき状態で決して楽観できるものではないという認識については同意いたします。このような状況下では「安心」できないという方が大勢いるであろうことも理解いたします。しかし,現在示されているデータの全ては,「安全」は十分に担保されていると考えるべき範囲のものです。

現状がいろいろな不安に駆られる状況であることは間違いありません。このブログはその様な不安を少しでも解消するための一助となれば,と言う思いで書き綴っております。説明が足りなかったり,表現が稚拙だったりでご理解いただけない部分も多いかとは思いますが,その様な場合には,またコメントいただければと思います。もるもるさん以外の方でもかまいません。私でできる限りの対応をさせていただきたいと思っております。どうかよろしく御願いいたします。


<2011/04/12追記:このエントリ中で一部表現に不十分なところがあります。それらについての補足説明などを別エントリに上げておりますので,そちらもご参照下さい>

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気になる化学リスク | 12:56:56 | Trackback(0) | Comments(7)
生体濃縮についてもう一度
福島第一原発において,低レベル放射性排水の放出が行われました。以下に毎日新聞の記事を引用します。

福島第1原発:低濃度汚染水、海に放出 1万1500トン
 東京電力は4日、東日本大震災で被災した福島第1原発の施設内にある、低レベルの放射性汚染水計1万1500トンを海へ放出すると発表した。(中略)
東電によると、放出される汚染水の放射能は法令基準の約500倍(最大値)に当たる。全体の放射能は約1700億ベクレルで、2号機の汚染水約10リットル分に相当する。東電は環境への影響について「2号機の高レベル汚染水が流れ続けるよりは軽微」としている。(後略)



1700億ベクレルとか言われると,かなりどっきりしますね。1.7E11 Bq=0.17 T(テラ)Bqなんて言われたら,さらにこんがらがりそうです。

ただし,同時に排出される水の量が11,500トン=11500000 Lですので,換算すると約15,000 Bq/kgということになりますので,先日のほうれん草と同レベルの放射能を持っていると言う事になります。もちろん,今回放出されるのはそれなりに長期保存されていた放射性排水のようですので,おそらくヨウ素131はほとんど含まれていないと思いますが,実はヨウ素131よりも大きな実効線量係数を持っている放射性元素はそれほど多くありませんので,シーベルトに換算すれば先日のほうれん草から受ける影響よりも小さくなることが期待できると思います。それに,これがさらに海で希釈されるわけですから,健康被害については心配する必要はまだ無さそうです。

それよりも遙かに高い放射能を持つ2号機の汚染水が漏れる方がより心配ですので,致し方ない処置であると思うしかないでしょう。

さて,こういう事態を受けて世の中では「生体濃縮」という言葉が良く聞かれるようになってきましたが,一部誤解が生じている部分もあるようなので,再度解説してみたいと思います。

生体濃縮については以前も触れたことがあるわけですが,その時きちんと説明し損ねた部分がありましたので,最近見かけた誤解についてその辺りを補完しながら説明していきたいと思います。

1) 生体濃縮により,食物連鎖上位の生物の中にはより多くの放射性物質が濃縮される

誤解です

というか,より正確に表現すれば常に正しいとは限らないということになるでしょうか。典型的なのは今回最も話題に上っているヨウ素です。先ほど紹介したエントリ中でも紹介しているとおりヨウ素は,海藻中により多く濃縮されます。食物連鎖の流れを考えるとこれは非常に不思議に思えますが,コメントの方でも書いたとおりこれはそもそも海藻は自分の体の中に大量のヨウ素をため込んでいるからです。

これを理解するためには,生体濃縮には大きく分けて二つのパターンがあることを理解する必要があるかと思います。まず第一のパターンは,水俣病で有名になり,最近ではマグロ中の含有量が話題に上がった有機水銀のように,水に溶けにくいような物質が体内の脂肪分に蓄積されていく場合です。このような場合には,一般的に食物連鎖上位の生物になればなるほど,その濃縮倍率は上昇し,通常食物連鎖の最上位に君臨している人間に一番大きな被害が生じる可能性が高くなります。

このパターンで濃縮されやすいのは,前述の通り嵩高く水に溶けにくい化合物です。水俣病の場合は水銀が有機化合物とくっついてできた有機水銀化合物が魚の脂肪分に濃縮され,それを食べ続けた人間に健康被害が生じました。

これに対する第二のパターンは,その生物が特異的にある元素もしくは化合物を体内に貯め込む特徴を持っている場合。元素の場合で有名なものとしては,ワカメやコンブ中のヨウ素,ヒジキ中のひ素,ホヤ中のバナジウムなどがあります。人間などの内骨格生物も,カルシウムなどを自然界から大量に濃縮して骨として利用していますし,ナトリウムやカリウムも大量に貯め込み,様々な用途に使っています。

こういうパターンで濃縮されるのは,元素の場合が多く,その種類によって貯め込む元素の種類も大きく異なっていることが普通です。ヨウ素の場合はこの例に該当しているため,食物連鎖では上位にあるものの元々それほど大量のヨウ素を体に貯め込まない魚では濃縮倍率が低くなるのです。

2) ヨウ素131の半減期は8.02日だが,人体に入ると甲状腺に濃縮され半減期は80日となる

誤解です


たぶんヨウ素の生物学的半減期をどこかで見てきた結果の誤解だと思います。これはヨウ素原子が体内に取り込まれて甲状腺内に残留した場合の生物学的半減期としては正しいです。しかし,生物学的半減期はヨウ素という元素に対する体内の代謝反応,つまり化学的な反応の結果としての値ですので,物理現象である放射性ヨウ素131の半減期に対して何の影響も与えません。ですので,半減期の長いヨウ素129などは生物学的半減期80日で減少していくことになるでしょうが,半減期の短いヨウ素131はそれ自身の持つ物理学的半減期8.02日で減少することになります。




今後も残念ながら放射性物質の流出はしばらく続きそうな気配を見せております。その様な中で我々が注目すべき情報は,周辺および自分たちが居住している地域の環境放射線量,周辺地域や居住区域で採取された野菜や水,海水,魚などの実測値です。

今後,突然原子炉が大爆発をするようなことさえ起きなければ,突然放射線量や様々なものに含まれる放射能が激増することはないと考えられますので,増加傾向にあるか減少傾向にあるか,その推移を注視することは非常に重要になります。

何度でも言いますが,現時点では原子炉周辺部以外で,健康被害が生じるような放射線量や放射能は検出されておりません。もちろんそれは未来永劫検出されないことを保証しているわけではないのは言うまでもありませんが,前述したとおりある日突然激増する可能性は極めて低いと思って間違いないと思います。ですからこそ,冷静に推移を見守る必要があるかと思います。

個人的には,周辺地域の野菜や魚に含まれる放射能があと2桁大きくなり,常時数百万Bq/kgを超えるレベルで推移するような状況になると相当警戒を強めなければいけないとは思っていますが,1桁上くらいまでならまだそれほど心配する必要はないだろうと思っています。

チェルノブイリの事故は人類史上最悪の原子力関連事故でした。しかし,そこから何を監視しなければいけないのか,どのような点に注意すればよいのかという数多くの教訓を得ることもできました。残念ながら旧ソ連の隠蔽体質もあり,チェルノブイリの事故直後に行われた当局の監視態勢や作業員・周辺住民に対する被曝線量管理態勢は杜撰の一言で片付けられないほどひどいものでした。しかし,今の日本ではこれだけの規模の事故であるにもかかわらず,現時点では作業員の人たちの線量管理も完璧とは言わないまでも十分に行われておりますし,野菜や原乳,水,魚などのモニタリング態勢も間違いなく機能しています。

楽観しすぎることは残念ながらできかねる状況ではありますが,まだ冷静さを持って状況の推移を見守っていられるレベルであるのも事実です。

私自身も今後も注意して状況を見つめていきたいと思います。

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気になる化学リスク | 17:57:30 | Trackback(0) | Comments(2)
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