■プロフィール

ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

■最近の記事
■最近のコメント
■最近のトラックバック
■月別アーカイブ
■カテゴリー
■FC2カウンター

■ブロとも申請フォーム
■ブログ内検索

■RSSフィード
■リンク
300ベクレルのヨウ素131はどのくらい怖いのか
東京をはじめとする各地の水道でヨウ素131(I-131)が検出され,大騒ぎになっているようです。個人的には十分予想された範囲の出来事ですので,どちらかと言えば先日のほうれん草などの時のように「きちんとした監視態勢と周知体制が確立している証拠」と見ているのですが,やはりミネラルウォーターを買い占めるご老人の姿などをテレビでたくさん拝見することになってしまいました。


ということで,大人に対する制限値である300 ベクレル(Bq)のI-131が検出されたことがどういう意味を持つかを考えるために,一つ計算をしてみたいと思います。


Bqから人体への影響を表す単位シーベルト(Sv)への換算は,前回のエントリでもやりましたので今回は違うアプローチで攻めてみます。


今までも別のエントリでご紹介してきたとおり,Bqというのは一秒間に一回放射壊変が起きたことを表す単位です。ですので,300 Bqというのは一秒間に300回の放射壊変が起きていることを示します。


一秒間に300回というと非常に大きい数のように感じますが,元々化学物質の量を表す基本単位である1モル(mol)が6.02 × 10^23個という非常に大きな数を意味しますので,300というのは実はそれほど大きな数ではありません。


次に考えるのは半減期です。I-131は半減期8.02日でβ(-)壊変をし,原子番号が一つ大きくなったキセノン131(Xe-131)に変化します。この時β線と呼ばれる放射線(正体は電子)を放出します。昨日被曝した作業員が「β線熱傷の疑いがある」との報道がありましたが,これは高レベルのβ線に長時間さらされた場合に起こりうる外傷のことです。


さて,ちょっと話がそれましたが計算に入りましょう。まず半減期の値からI-131の壊変定数を求めます。一般に,ある放射性元素の壊変定数を λ,ある時間 t における放射性元素の個数をNとした時,以下のような常微分方程式が成り立つことが知られています。

-(dN/dt) = λN


これを解くとある時点での放射能の強さA(t)はt=0の時の放射能A(0)を用いると以下のように表されることになります。

A(t) = A(0) × e^(-λt)



ここから半減期t(1/2)と壊変定数λの関係は以下のようになります。


t(1/2) = (1/λ)ln(A/(A/2)) ≒0.693/λ



つまり半減期8.02日=692928秒のI-131の壊変定数は1.00×10^-6 s^-1となります。


ここで最初の式に戻りましょう。この式の左辺 -(dN/dt)は,単位時間当たりにどのくらい放射性元素が変化したかと言う事を意味しています。つまり,今回の場合1秒間に300個のI-131が放射壊変により減少していますので,ここが-300になります。


このことから,最初に存在していたI-131の個数Nは,


N = 300/λ = 3 × 10^8個


と言うことになります。これはmolで表すと4.98 × 10^-16 mol = 0.498 f(フェムト) mol = 0.000000000498 μmol です。濃度にすれば0.498 fmol/L と言うことになります。環境分析でよく使われるppm(百万分の一)やppt(一兆分の一)で表すとそれぞれ6.52 x 10^-9 ppm,0.00652 pptとなります。


どのくらい微量かと言う事を何となく感じていただけましたでしょうか?


ちなみに1 kg = 1 L分の水分子は (1000/18) × 6.02 × 10^23 = 3.34 × 10^25 個になりますので,水の分子数とI-131の原子数の比はだいたい10京分の1ということになるでしょうか。


これは,もちろんそのくらい微量でも放射線が検出できると言う事を意味しているわけですが,中には「こんなに微量でも危険なのか!」と思う方がいらっしゃるかもしれません。ですが,以前書いたエントリ「基準値の○倍!:食品安全基準の決め方」でも書いたとおり,このような基準は非常に大きく安全側に振って決められるのが常道です。実際,日本におけるI-131の安全基準は国際的な合意の元に決められた国際基準よりも1桁小さいより厳しい基準となっております。


「放射能」と言われるとやはりいろいろ不安になります。しかし,きちんとした知識を持って推論を丁寧に重ねるという作業を行えば,その不安は解消することができます。不安さえ解消すれば,冷静に対応することが可能になります。


もちろん私の記述を鵜呑みにしなさいなんてことは言いません。他にも情報を発信している人たちはたくさんいるでしょう。それらの情報(可能であればなるべく数値データなどの一次情報や一般的な用語解説)を一つ一つ丁寧に解釈し,どのように考えればより筋の通った話になるのか。より合理的な解釈をすることができるのか。そういう地道な作業を心がけていただければと思います。そして,このブログがその一助となればそれに勝る喜びはありません。


今現在この瞬間も,我々の安全を守るために,非常に危険な場所で危険な作業に従事していらっしゃる方々がおります。安全な場所にいる我々にできることは,落ち着いて,自分たちに何が起きているのか,何ができるのかを考えることだけだと思います。ぜひ一緒にいろいろ考えていきましょう。



スポンサーサイト

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 12:11:09 | Trackback(0) | Comments(13)

FC2Ad