■プロフィール

ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

■最近の記事
■最近のコメント
■最近のトラックバック
■月別アーカイブ
■カテゴリー
■FC2カウンター

■ブロとも申請フォーム
■ブログ内検索

■RSSフィード
■リンク
茨城のほうれん草や福島の牛乳はどのくらい怖いのか
ぽん太 さんからご質問をいただきました(対応が遅くなってすいません。)。


> 質問ですが、事故により福島の原乳や茨城のほうれん草からも基準値を超える放射能が検出されたようです。しかし、その単位はどのメディアでもベクレルを使っており、どれほど危険なのかはわかりません。
>
> そこで、今回の野菜や原乳から検出された基準値を越える放射能は、どの程度人体に影響を与えるものなのかお教え願えたら幸いです。




残念ながら放射性物質の影響が周辺の農作物にも生じてしまったようです。そして危惧していたとおり,ものすごい勢いで風評被害が広がっています。同じ茨城県でも県西部や県南部に同様の影響があるとも思えないのに一律に出荷制限をかけた国の対応もあまりに大ざっぱに感じますが,どこの県産品かを考慮せずにほうれん草は全部ダメ,と叫ぶ人たちや,秋に収穫されたはずのお米も忌避する人まで出てくると,激しい憤りと無力感を感じます。しかし,こうして不安を抱えながらも質問してきて下さるぽん太さんのような方や,このところ非常にたくさんの方が「ベクレル シーベルト 換算」などの検索キーワードでおいでいただいていることを考えると,その中の幾人かの方でも不安を解消し,福島や茨城の農水産物を守ってくれるのであればこのブログの存在意味があると信じることにしました。

前置き長くてすいません。本題に入ります。ベクレルからシーベルトへの換算には,たとえばこのエントリの時にご紹介したこういう表を用います。


具体的に最初に検出された値はこちらの記事によると

茨城県高萩市のホウレンソウからは放射性ヨウ素が1キログラム当たり1万5020ベクレルで、同省の基準値(同2000ベクレル)の7倍強。放射性セシウムも同524ベクレルを検出され、基準値(同500ベクレル)をわずかに上回った。


福島県川俣町で採取された原乳からは放射性ヨウ素が同932~1510ベクレルが検出され、基準値(同300ベクレル)の3~5倍だった。一部の原乳からは放射性セシウムも基準値(同200ベクレル)を下回るものの、同18.4ベクレルを検出した。



ということでした。

別の報道で今回検出されたのはヨウ素131(I-131)とセシウム134(Cs-134)が主であると言う事でしたので,これらの核種について先ほどの表を使って換算します。

今回の状況を考えるとI-131が取っている化学形態はよう化メチル以外の化合物である可能性が高いと思われますので,この状態における経口摂取時の実効線量係数は2.2×10^-5 mSv/Bqとなっています。ですので,高萩のほうれん草の場合は

15,020 Bq / kg × 2.2 × 10^-5 mSv/Bq = 0.33 mSv/kg


福島の原乳の場合は

1,510 Bq / kg × 2.2 × 10^-5 mSv/Bq = 0.033 mSv/kg


となります。

またCs-134における経口摂取時の実効線量係数は1.9×10^-5 mSv/Bqになります。報道によるとセシウム137(Cs-137)も検出されたようですが,こちらの経口摂取時の実効線量係数は1.3×10^-5 mSv/Bqとやや小さいものですので,すべてCs-134であるとして計算します。すると

524 Bq / kg × 1.9 × 10^-5 mSv/Bq = 0.00996 mSv/kg


となります。


次にこの値をどう評価するかと言う事になりますが,まずこれら全ての値が「1kg辺り」であることに注意しましょう。牛乳1kgは1Lですので,もしかするとロッキー・バルボアのように生卵と一緒に一気飲みするのを日課にしている方もいるかもしれませんが,ほうれん草1kgを一度に食べると言う事はさすがのポパイでもやっていなかったような気がします。


ということで,実質問題として基準を超えた原乳やほうれん草が市場に出回っている可能性は非常に低いですし,こちらのページによるとほうれん草は一把だいたい300~400 gということですので,万が一基準を超えたものが紛れ込み,それを全て一人で食べてしまった場合でも今計算した値の1/3程度で済むと言う事になり,多くても0.2 mSv程度の被曝量で済むことになります。これがどの程度の量かと言えば,航空機で東京都ニューヨークを往復するときに浴びる量とだいたい似たようなものです。ですので,個人的には全く気にする必要のないレベルであると考えます。そして,これより一桁小さい原乳の影響やCsの影響は言わずもがなですね


ですから,今回の報道を聞いた時の正しい反応は「放射性物質が食品にも混入してしまったどうしよう!」ではなく,


「これだけ影響が少ない量でもきちんと検出して対応してくれるのだから,今売っているものは安心だ」



となるべきです。


放射線の検出というのは,その辺の化学物質を検出するよりも遙かに簡単に遙かに感度良く行えます。ほとんど前処理をする必要も無く,迅速に容易に分析を行うことができます。


正直言えば,これだけの事故です。格納容器内から外部へのベントも複数回行われています。ですから,どちらかというと検出されない方がおかしい状態です。そして先週末から被災地周辺では雨が降っております。ですから,雨によって地上に降下してきた粉塵中の放射性物質が吸収され,野菜や牧草を食べた牛の乳から検出されたというのは,かなり予想通りの事態です。この状況下でも全く何も検出されなかったとなると,正直ちゃんと検査をしているんだろうかという疑念が逆に湧いてきたところではありましたが,無事検出されたということで,どちらかと言えば検出されたことにより水際で防ぐ態勢がきちんと機能していると思って安心するところだと思います。


幸いにも福島第一原発における懸命の復旧作業により,徐々に状況は改善され,現場の放射線量の推移を見る限り(放射線量がI-131の半減期パターンとほぼ同一のラインで減少しているので,さらなる放射線源の供給はされていないと考えられる)最初期に流出した以後は,放射性物質の外部流出も抑えられているようです。


今,一番苦しい状況にいる被災地の方々は口々に

このまま風評被害が広がれば,戻れたとしても生活が成り立たない。もう町を捨てるしかないのではないか」

と絶望にさいなまれています。この方々は自分たちの町が放射線に侵されてしまったなどという心配はしていません。町に戻って元の生活に戻ったとしても「自分たちが作った農水産物が消費者に受け入れられない」ことを心配しています。

現地へのボランティアに行けなくても,たくさんの義捐金を出せなくても,日常生活の中で自分が必要としている分の野菜や魚を,被災地の人たちが頑張って作ってくれたものから買うことで,それ以上ないくらい大切な貢献をすることができます。

ぜひ,皆さんのご協力をお願いいたします。

スポンサーサイト

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 11:08:22 | Trackback(0) | Comments(10)

FC2Ad