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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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日本における予防原則の適用はなぜ難しいのか
みなさんあけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

さて,sekaiさんから,かなり前に書いた電磁波関連のエントリについてコメントをいただきました。どうもありがとうございます。

市民がその安全性について判断するには、海外政府や自治体がどう動いているかということも参考にします。
基準がどうであれ、低減対策をまともにとっていない、とってこないのは日本だけです。。”因果関係が証明されるまで”・野放しですね

たとえば、携帯電話もヨーロッパでは子供の使用に脳腫瘍などの心配があるかもとして、すでに警告や勧告を出していますし、フランスでは法規制までしたそうですが、日本は「脳腫瘍や白血病にかかりやすいかをこれから疫学調査する」ということで実験台です。アスベストにしろ何にしろ、日本は国家をあげての実験が好きなんですね。

なんで世界がこれだけ利害関係があるものにもかかわらず規制してるか?それはそれなりの懸念や根拠があるからでしょう。


個人的には,設定された基準には科学的に明確なエビデンスが存在し,そこからさらに安全係数をかけた値が設定されているわけですから,より明確なエビデンス無しに基準を厳しくする必要性を感じません。もちろん基準をクリアしている事例にも規制をかけたい,と言うご意見にも同調できかねます。

とは言え,欧州に比べ,この手の話についての日本の対応は遅すぎる,という批判は電磁波に限らず非常に多いです。

これは,経済性だけを重視しているとか大企業の陰謀だとか,日本の政治家や官僚が腐っているとかそう言う話ではなく,いわゆる「予防原則」というものをどの程度適用しようとするかどうか,と言う点が異なっているだけなのだと思っています。

欧州は世界中のどの地域と比べても,この予防原則を徹底的に適用しようとする傾向が強い地域で,RoHSやREACH規制を上げるまでもなく,化学関連や環境関連の規制も非常に厳しいことはよく知られています。もっとも,これらの規制が,おおっぴらに使える非関税障壁として機能している点も見逃せないわけですが,とにかくこの手の規制に欧州,というかEUが一番熱心なのは事実です。

先ほどあげた電磁波の記事にもコメントしてくださっているBEMSJさんは,ご自身のWebページで,長年電磁波の健康影響についてくわしく解説されているのですが,その中で「予防原則」についても,具体的な例を挙げながら,非常に詳しく説明されています。多少長いですが,非常に興味深い事例がたくさん紹介されており,このような話題に興味のある方であれば,必読だと思います。また,他のページでは今回話題にしている高圧送電線などから発生する電磁波(非電離放射線)の健康影響についての論文や報道に関する解説が,これも細かく書かれています。ぜひ,ご一読ください。

さて,sekaiさんご指摘の通り,EUでは(法的拘束力がないとは言え)警告や勧告などが出されているような問題(電磁波に限らず)についても,日本では「予防原則」が採用されないようなケースが多いように見えます。では,なぜ採用されないのでしょうか。やはり大企業の陰謀なのでしょうか。

結論から先に言います。

残念ながら,現在の我が国は「予防原則」を積極的に適用するような環境では無い,というのが一番の原因だと思います。

もちろん採用されにくい理由のひとつとして,経済的な影響を考えているという部分があるのは事実でしょうが,それは欧州でも同じはずです。ですから,陰謀論を捨てて冷静に考えれば,日本だけ二の足を踏み続けている理由とは考えにくく,何か他に理由や事情があるのではないかと考えるのが普通だと思います。

私は,先ほど紹介した予防原則のページにおいて,一番最初に指摘されているこの部分

「科学的な論拠が明確になっていない段階でも、政策の決定権限を持つものはこの予防原則に基づいて、危険を予防する。」というものです。 
但し、「一度予防原則に基づいて決定した方針であっても、関連する科学の研究を常にチェックし、必要に応じて、決定した方針は見直すべき」という条件が付加されています。


つまり,状況の変化=新たな科学的エビデンスの登場に応じて「適宜見直しをする」と言う部分が非常に苦手であることが,日本が予防原則を適用することに二の足を踏む大きな理由なのではないかと思っています。

「予防原則」を「予防原則」としてきちんと適用するためには,その規制が「あくまでも予防的措置である」ことのコンセンサスが取れていなければなりません。つまり,その規制は科学的なエビデンスがきちんと得られた時点で解除されるのが当然である,という理解です。

しかし,先日のエコナの事例を見るまでもなく,このようなコンセンサスは残念ながら今の日本の消費者には存在していないように感じます。たとえばエコナ問題についても,ちょっと検索してみれば解ると思いますが「後ろめたいことがあるから販売停止したんだろう」「販売停止したと言うことは,エコナに発がん性がある動かぬ証拠だ!」と弾劾する声ばかりで,私が以前のエントリで指摘したような「花王はリスクマネジメント的に安全側に振った=予防原則を適用しただけである」というような意見はほとんど見つけられません。

しかも,一番救いようがないと感じるのは,パニック状態にあった当時ならいざ知らず,十分にパニックが過ぎ去った現在においてすら,このような内容の報道も解説も,ほとんど無いということです。花王が,エコナをトクホに申請する際に,二年間の長期発がん性試験を行い,それをクリアしているという事実を報道したマスコミがあったでしょうか。ある程度冷静な解説が書かれたほとんど唯一と言って良い例である(すっかり紹介するタイミングを逸してしまいましたが)遺伝子組換え食品の話の時にも出てきた毎日新聞の小島記者のコラムですら,この事実には全く触れていません。しかも,私としてはまだまだ偏りが見えてしかたがないこのような記事ですら,「どうせ広告が欲しいだけだろ」と批難をする人は後を絶ちません(もっとも,毎日新聞の場合は,他の記者がアレ過ぎる記事を書きまくっていると言う点で,多少自業自得の部分があるように思います…,小島記者には災難なことですが(^^;)。

このような現状で,それこそ企業の息の根を止めかねないような判断を行政側がするのは,非常に勇気のいることだと言わざるを得ません。あまつさえ,今回話題としている高圧送電線や携帯電話から発生する電磁波(非電離放射線)が及ぼす健康影響などは,明確なエビデンスがほとんど存在していない上に,影響する範囲がとてつもなく広い問題です。正直,このような事例に厳格な予防原則を適用するのは,ちょっと考えられないくらいの冒険です。ろくなエビデンスもないのに,国や閣僚がうかつなことを言ったり規制したりするととんでもないことになるというのは,かの「O157 カイワレ事件」を思い出すまでもなく,多大な悪影響を社会に及ぼすのですから慎重になって当然だと思います。

また,日本で予防原則を積極的に適用するのは無理ではないか,と私が強く思わされる事例として一番わかりやすいのは,肉牛のBSE全頭検査に関する問題です。

肉牛に対する全頭検査も,ある意味予防原則に則って採用された対応策であったわけですが,この方策によりあり得ないレベルで起こっていたパニックが沈静化したのは事実です。しかし,現在すでに数々の科学的なエビデンスが全頭検査の不要を証明しています。それにもかかわらず,未だに各自治体では全頭検査が続けられ,貴重な税金が浪費されています。なぜでしょう。

それはもちろん「全頭検査が必要だ」と訴えている消費者が数多くいるからです。一応,マスコミ報道でも全頭検査が意味のないことであるという意味の内容が解説される時もあります。しかし,かつてBSEの危険性を訴え続けてきた時ほどの熱意はとても感じられません。また,すでに発祥国であるイギリスですらBSE由来のCJD(=vCJD:変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)による死亡者の発生はほぼ終息していることなんて,動物衛生研究所のWebページなどにしか情報がありません。これは,全頭検査などしなくても危険部位の除去だけでBSEの影響は抑えられるという事実を示す,大きなエビデンスです。それなのに,どうしてどこのマスコミも報道しないのでしょう。

ここには,「騒ぎと不安を煽るだけであっても,とにかく大きな話題になればよい」としか考えないマスコミの体質と,根強く広がるゼロリスク信仰,そして科学的リテラシーの不足リスクマネージメント的観点の欠如など,様々な問題がその理由としてあげられると思います。しかし,このような問題点が列挙できたとしても,これらを克服するのは,一朝一夕で出来ることではありません。

「予防原則」の理念は,我々の健康や安全を守る上で非常に重要な理念であることに異論はありません。しかし,強力であるが故に,使い方を間違えると痛い目に遭うどころか,害悪にしかならないこともあり得る諸刃の剣であることも事実です。

少なくとも,これほどまでに明確な事例であるBSE全頭検査の不要性ですら,社会一般からすんなりと受け入れてもらうことができず,またマスコミも積極的にその事実を広めようとしていないという状況を考えると,現在の我が国は「予防原則」を積極的に適用するような環境にないと判断せざるを得ないと思います。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 16:00:16 | Trackback(0) | Comments(11)

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