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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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DAGはどのくらい危険なのか(続々・エコナはどのくらい危険なのか)
さて,お約束していたDAGの話です。

どういう話のしかたでまとめようかと思いましたが,基本的に2009年9月2日に開催された「食品安全委員会新開発食品(第63回)・添加物(第76回)合同専門調査会」において提出された資料1:「高濃度にジアシルグリセロールを含む食品の安全性について」 -中間取りまとめ-(案)[PDF]の内容を解説する形で話を進めることにします。

こういう進め方をすると不満を持つ方がいるかもしれませんが,ここに示されている一連の研究についてのまとめ以上に,詳細な研究群は私には見つけられませんでしたので,ご勘弁ください。もし,他にもっと良い研究群があれば,ご紹介いただければと思います。

さて,この資料ですがPDFを開いて見た方ならわかる通り,ものすごい勢いで訂正やら意見やらが入りまくってます。そもそも中間とりまとめだからしかたがないのですが,読みにくいことこの上ないわけです。ただ,がんばって読めば同じ研究結果からでも,各委員によりそれぞれ異なった表現を要求している場合が多いことが良くわかります。さらに過去の履歴も全部添加物専門調査会のページから漁ることが出来ますので,興味のある人はどういう風に報告書が変化しているのかを見ると面白いと思います。

この手の国がまとめた研究報告は,官僚だの大企業だののお手盛りだと思い込んでいる人がわりと多いようなのですが,中ではちゃんと議論しているのだということが,これを見るだけでも良く解るんじゃないかと思います。

閑話休題。

それでは,がんばって読み解いていきましょう。ただ,繰り返しますがこれは「中間とりまとめ」ですので,今後新しい知見が得られることによって結論の方向が変わる怖れは十分にありますのでご注意ください。

さて,まずこの報告書を見る上でちゃんとわかっていなければならない点があります。それは,エコナ(本文中ではDAG油)は,トクホとして認定される以前に

遺伝毒性試験と2年間発がん性試験をクリアしている

ということです。(p.36)

ですから,通常の使用条件の範囲内であれば,エコナを使用することによって明確な健康被害は起きないであろうと言うことはすでに確認されていると考えて良いわけなんですね。ここ重要なことです。

では,なぜここまで一生懸命長い期間をかけて検討が積み重ねられているのか。それはすべて本当に安全な量を見極めるため」に必要なことであり,ここで行われている様々な実験はそのための作業なんですね。

エコナに発がんプロモーターとしての作用が疑われたそもそものきっかけは,昨日のエントリでも書きましたが,エコナに比較的大量に含まれている成分である1,2-DAG(主成分は1,3-DAG)にPKCと呼ばれる酵素を活性化させる作用があることが知られており,それにより発がんが促進される可能性が指摘されていたからです。

しかし,実はこのPKC絡みの発がんプロモーションも,はっきりわかっているのはフォルボールエステル(TPA)と呼ばれる物質が,PKCを活性化させることにより強い発がんプロモーター作用を持つ,ということだけであって,PKCの活性化=発がんプロモーター作用を持つ,と言い切れるのかどうかすらわかっていないのが現状です。

というか,PKCが活性化することによって生きていくために必要な反応が開始されているのも事実なので, 適度にPKCが活性化されるのは生命活動において必要なことです。ただ,生理活性物質として体内で生産される1,2-DAGとは異なり,TPAは生分解性を受けにくく残存してPKCを過剰に活性化させてしまいます。そのため発がんプロモーター作用が生じてしまっているわけなんです。

しかし,酵素化学的な実験において1,2-DAGがPKCを活性化させることは確実だとわかっています。さらに,1,2-DAGは二つ持っている脂肪酸のうち,どちらか一つが不飽和脂肪酸の場合にPKCを活性化することができるのですが,エコナの場合は構成する脂肪酸の90%が長鎖不飽和脂肪酸です。つまり,エコナはPKCを活性化しうる1,2-DAGを大量に含んでいることになりますので,過剰にPKCを活性化させてしまう可能性は無いとは言えません。となれば,きちんと確かめる必要があります。というわけで,一連の実験が始まったわけなんですね。

ただ,ちゃんとわかっていなければならないのは,これが「酵素化学的な実験から得られた知見」であることです。

つまり細胞を構成する他の成分から守られていないむき出しのたんぱく質を反応させると,このような現象が起きる,と言うことしかわかっていないということです。ここは重要なことなので,ぜひ理解してください。

実際の細胞を考えれば,エコナに含まれる脂肪鎖はオレイン酸やリノール酸,リノレン酸などの長鎖脂肪酸がメインであるため,エコナに含まれる1,2-DAGが細胞膜を乗り越えて細胞内に入り込むことは,普通に考えるとかなり困難です。また,当然ですが細胞一個だけの状態と個体レベルでも話が全然違います。

もちろんですが,普通は酵素むき出しの状態より細胞の状態,細胞一個だけの状態より個体レベルになった方が,影響は受けにくくなりがんにもなりにくくなります。ですから,単純に考えれば,食事で摂取するレベルの量の1,2-DAGが,大きな問題となるような影響を人体に与えるかどうかと言えば,非常に考えにくいわけです。でも本当に安全な量を見極めようという想いが,ここまでさせているわけですね。

なんか,もう。ここまでの段階でどれだけ安全側に振って仕事をしているんだろう,と関係者の努力に頭が下がりっぱなしなんですが,さらに読み進めます。

さて,そんなこんなで最初に行われた研究が「ジアシルグリセロールの発がんプロモーション作用に関する研究(実験A)」(p.15)です。

これは時系列的に考えると,たぶん たたたた さんからご紹介いただいたこの記事で取り上げられている研究と同一だと想います。

こちらの記事では

比較する対照である普通の油(TAG)を投与した群で、すでにガンやその前症状が多数発生しているのだ。これではエコナのDAGの群で増えても統計的に有意な差が出にくい。つまり、できるだけエコナは危険だという結論が出にくい実験条件になっているのだ。

と批判されています。

これだけ聞くと「なんだよそれ,そんな実験条件おかしいだろ」と感じる方も多いでしょう。でも,ここに大いなる誤解があるんですね。

というのは,これは「発がんプロモーション作用」を調べるための実験であり,比較対象となるラットには「発がんイニシエーション処置=がんを人為的に発生させる処置」が行われている必要があるんですね。だから,対象となるラットでもがんが発生するのは当然,というか発生してくれないと比較対象にならないんです。

「なんでそんなことを!」と思う人も多いかと思いますが,今回見たいのは「がんの発生が1,2-DAGで促進されるのかどうか」という点です。ですから,まず「何も処置を行っていない状態のラット」,それから「イニシエーターによりがんを発生させられたラット」を比較対象として用意します。その上でそれぞれのラットの群に対して「DAG油(エコナ)を摂取したラット」と「TAG油(普通の食用油)を摂取したラット」を作り,全部で4群(実際には1,2-DAGとTAGの混合比を変えたラット群を併せて6群)のラットについて発がんの状態を比較しています。

これらを比較することで,

1) イニシエーターによりがんはどのくらい強く発生するのか(イニシエーター有りと無しを比較)
2) DAG油はTAG油と比べ,どのくらい強いイニシエーターとして働いているのか(イニシエーター無しのDAG油とTAG油を比較)
3) DAG油はTAG油と比べ,どのくらい強いプロモーターとして働いているのか(イニシエーター有りのDAG油とTAG油を比較)

ということがわかります。

つまり,「イニシエーターがない状態=比較対象となるラットが全くがんにならない状態では,肝心要のDAG油が持つプロモーター作用の強さがさっぱりわからない」という事になり,そんな実験計画では全く意味がない実験をすることになってしまうわけです。

さらに先ほどのMyNewsJapanの記事では,

さらにこの試験でおもしろいのは、高リノレン酸、高オレイン酸、中鎖脂肪酸など他の油も一緒に試験している点だ。発ガン促進作用が指摘されていないこれらの油でも、なぜか腫瘍が増えている。

 それが何を意味しているのかは、今のところ不明だ。可能性は二つある。他の油も危険性があるということなのか、それとも安全な油でも片っ端からガンを起こしてしまう、いいかげんな試験だということなのか。

 花王は頼まれもしないのに、何故、他の油も試験しているのか?「エコナが問題にされるとすれば、他社の製品も道連れだ」という花王の殺気も感じられるデータだ。



などと揶揄されていますが,著者の植田さんが大いなる誤解をしていることは,みなさんもうご理解いただけましたよね。もしかすると「イニシエータ-」の意味がわからなかったのかな?などと勘ぐってしまったりもするわけなんですが,安全と言われている油でもがんになってくれるような条件でなければ,この実験の意味は大きく減ってしまいます。そして,ここまで読み進めてくださった方であれば,通常使われている食用油と比較する実験をしなかったら,この研究には何の意味も無くなってしまっていたことも,充分ご理解いただけているんじゃないかと思います。

さらに,この研究ではどんなかすかな発がんの兆候も見逃さなくて済むように,遺伝的にがんになりやすいラット(これがTgラットと呼ばれるもの)も使い,こちらも同様に6群編成にして比較しています。

実験の結果,イニシエーターを与えられなかったラットでは,Tgラットも普通のラット(野生ラット)もがんの発生はありませんでした。この実験が行われる以前に行われた研究でも,DAG油(=エコナ)を最長二年間投与し続けても,すべての臓器において野生ラットではがんの発生が認められていません(p.13)。この実験結果も以前の結果を再現しています。さらに,この実験では発がん性に対して感度の高いTgラットにおいても発がんが認められていないわけです。このことはDAG油に発がんイニシエーター能力はほとんどないことを示しているつまり,現状のグリシドール脂肪酸エステル混入率でも実質的な問題はない)と言っても良いように思います。

そして,イニシエーターを与えられたラットでは,期待通りがんの発生が見られました。ただ,性別や遺伝子変異の違いにより発がんの傾向が違って出てきたわけなんですが,何となくエコナをたくさん使うとがんの発生率が上がっているように見えないこともないが,トータルとして整合性のあるデータにはならなかった(本来ならTgラットの方ががんになりやすいはずなのに,雌の場合Tgラットではがんが発生しなかったイニシエータ+TAG油という条件が,野生ラットではがんの発生率が一番高かったりした(p.17))んです。そのため,残念ながらこの実験では「結論は保留」と言うことになってしまいました。

また,はっきりとした結論は出せないが,量的な相関性がありそう(雄野生ラットなどでDAG油含有量が増えるとがんが発生している=閾値が存在していそう)なこと。また,この実験ではイニシエーターとプロモーター候補(DAG油とTAG油)を同時に与えてしまったため,本来の意味でのプロモーション作用を検定しにくいのではないか。という指摘があったことなどの理由により,さらに条件を変えた追加実験を行うように指示が出されたんです。

つまり,先ほどの記事ではあたかも「対照群のラットにまでがんが発生しているのはおかしい」から,再実験になったかのように書かれていますが,ここにも誤解があるんですね。実際には「もっと統計的に処理が容易に行えるように個体数を増やした方がいい」というのは記事通りなんですが,「(対照群にがんが発生するのは当然だけど)がんを発生させるやり方に問題がありそうだから」という理由で追加実験になっているんです。実際,今回紹介した「中間とりまとめ」では,記事に取り上げられている部分についての記述はありません。

というところで,またもや長くなりすぎました。

この後行われた追加実験の内容については,また次回。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 19:21:18 | Trackback(0) | Comments(1)

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