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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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続・エコナはどのくらい危険なのか
たたたた さんからコメントをいただきましたが,いつものように長くなったのでエントリにします。

2006年から問題があるのではないかと言われて、データ公開を拒否してきたので、 http://www.mynewsjapan.com/reports/412 大文字で「花王は十分に良心的な会社である」とはとても言えないのではないでしょうか?
それに「花王は…」の前の一文「この一点において」も気になる言い方です。
まるで「花王は十分に良心的な会社である」と書くためだけにわざわざ書いているように見えます。


まず話の後半部分から。「まるで「花王は十分に良心的な会社である」と書くためだけにわざわざ書いているように見えます。」というところですが,この点に関してはご推察の通りです。私には花王の一連の対応には,とてもこれだけの規模で非難されるような部分を感じませんでしたので,あえて強調させていただきました。ですから,そういう感想を持っていただけたのであれば願ったりかなったりです。

さて,話は戻って前半部分ですが,リンク先読ませていただきました。

たぶん当然ご理解されているとは思いますが,この話は今回問題になっている「グリシドール脂肪酸エステル」の話ではなく,主成分である「1,3-ジアシルグリセロール(1,3-DAG)」の話です。確かに1,3-DAGの安全性についての議論は,2003年頃から始まっております。議論の経緯については,食品安全委員会の出しているQ&A(PDF)にも書かれていますが,あとで簡単に説明します。でも,こちらについても現時点ではDAGには健康問題になるような重大な問題がないという結論でまとまりそうです。

さて問題のグリシドールですが,これについてドイツの連邦リスク評価研究所(BfR)の初期評価についての文書の日付が2009年の3月10日。粉ミルクに関する勧告を出したのは,4月です。それに伴い,エコナ中のグリシドール脂肪酸エステル含有量が調べられたのが6月。その結果,370pppm程度であることが7月に報告され,今年の9月に行われた委員会上での意見を踏まえて販売停止に踏み切ったわけです。正直言って,これは十分に早い対応であったのでは無いでしょうか。

今回花王がこれだけ迅速な対応をした理由として考えられるのは,「1,2-DAGや1,3-DAG由来の発がん性については未確認」であるという状況は異なり,現在までに「グリシドールが発ガン性物質である可能性が非常に高いことが確認済であること」があげられると思います。もちろん前回のエントリにも書いた通り,グリシドール脂肪酸エステルからどのくらいのグリシドールが生成され,吸収されるかは全くの未知数です。しかし「ワーストシナリオを考えた場合のリスクを考えると,無視するのは問題がある」と花王が判断したため,現在のような状況になったわけです。

花王としては,現在かなりの売り上げとなっているエコナについてこのような対応を行えば,非常に大きなダメージを被ることがわかっていたわけですし,現実として過剰なまでのバッシングを受けています。それにも関わらず,このような決断を行ったと言うことを考えると,「花王は十分に良心的である」と感じるのが普通じゃないかと思うのですが,いかがでしょう。今後の検討結果しだいではありますが「無罪」となる可能性の方が十分に高いわけですしね。

さて,せっかくだからDAGの話もしましょう。

1,3-DAGの「1,3]というのは,グリセリンが持つ三本足のうち,端から1本目と3本目の足に脂肪鎖が付いているという意味です。

余談ではありますが,エコナ絡みの話で,エコナの主成分をDAGとだけ表記しているケースをよく見かけるのですが,この表記はちょっと不正確に感じます。

同じDAGの仲間である1,2-DAG(三本足のうち,端の一本と真ん中に脂肪鎖が付いている)は普通の食用油の主成分であるトリアシルグリセロール(TAG;三本の足全部に脂肪鎖が付いている状態)が生分解されてできてくる化合物です。1,2-DAGは,さらに2-モノアシルグリセロール(2-MAG)に分解されることで体内に吸収され,巡り巡って体内でTAG(大ざっぱに言えば体脂肪)が生合成されるために必要な原料となります。これが一番単純な脂肪分吸収のシステムです。

これに対しエコナの主成分である1,3-DAGからは,2-MAGが生成しません。できるのは,1-モノアシルグリセロール(1-MAG)です。エコナを摂取すると体脂肪がつきにくいという話のミソは,この「1-MAGがTAGの原料となりにくい」という部分ですので,明確に区別して話をした方がよいと思っています。ですが,エコナ自身の中にも30~40%程度1,2-DAGが含まれていることもあり,基本的には一括してDAGと呼んで取り扱っているようです。

閑話休題。

そもそもなぜエコナの発がん性が問題視されるようになったかと言えば,それはエコナの主成分である1,3-DAGではなく,天然にも存在する「1,2-DAGが発がんプロモーター(発がんを促進する物質)として働く可能性があることが知られていた」からです。

動物の細胞膜を構成しているりん脂質から1,2-DAGが生成されることはよく知られていますが,この時1,2-DAGがプロテインキナーゼC(PKC)と呼ばれる酵素を活性化させて様々な反応を起こし,結果として発がんプロモーターとして作用してしまう可能性があることが知られていました。

通常の場合,りん脂質から生成した1,2-DAGはDAGキナーゼ(DGK)と呼ばれる酵素の作用で速やかに分解し,PKC活性化作用を失います。なので,一個の細胞だけならいざ知らず,ヒトなどの動物では特に大きな問題にはならないのですが,エコナの場合は1,2-DAGの量が非常に多いため,何か問題が起きる可能性があるのではないか,と指摘されたのがそもそもの発端です。

トクホとしての審査には当然発がん性試験も含まれており,この試験において問題が見られるようなこともありませんでした。しかし,上記のような特殊事情により,特別に「遺伝子変異によりガンを起こしやすい体質を持つラットなどによる試験」を行い,報告するように指示が出ました。これが2003年6月27日です。

この時の指示で厚労省が行った一連の実験に関する「中間報告」が出たのが,2005年8月4日の第106回食品安全委員会で,議事録14ページに軽い報告が出ています。そして,その後議論の場は食品安全委員会内に設けられた「新開発食品・添加物専門調査会合同ワーキンググループ(WG)」に移り,現在に至っているわけです。

この辺の議論やら中間報告の資料は「食品安全委員会 添加物専門調査会」のページを漁ると山のように出てきます。現在は,合同WGとしての結論が2009年の2月にまとめられたのを踏まえた上で,添加物専門調査会において最終評価が行われている最中です。

実際,なんでこんなに時間がかかったんだ,と言う批判は当然あるんでしょうが,この手の仕事をやってる現場の人間から言わせていただければ,充分がんばってる方だと感じます。そもそも発がん性試験を一回行うだけでも数週間から数ヶ月の時間がかかります。試験内容の目的に適切な遺伝子を持ったラットやマウスを必要数そろえるのにだって,数週間じゃすまないことなんてざらなわけです。思いつきで実験やってみるだけならすぐ取りかかれますが,なるべく穴の無いように適切な実験計画を立てようと思えば,それなりの時間がかかりますし,神ならぬ人間のやることですから,どうしたって想定し切れていない条件を見落としてしまうこともあります。そして,こういう公的な委員会での審査が必要,かつそこの意向や指示に従いながらの試験となれば,さらに時間はかかってしまうわけです。

………,ちょっと身につまされる部分があったので,関係ないところで熱くなってしまいました。すいません(^^;

さて,たたたたさんがリンクを貼ってくださった記事に戻って見てみましょう。

この記事中では

この試験報告書は、食品安全委員会に提出され、「ジアシルグリセロール(DAG エコナの主成分)の安全性資料」の添付資料となっている。

 しかし報告書の全文は委員会のメンバーのみに配布されただけで、傍聴した我々には様々な試験結果を要約した一覧表だけしか配布されなかった。


このデータを入手するに当たっては、実は別の問題も浮上している。食品安全委員会に行き、データの閲覧を申し込んだところ、閲覧は可能だがコピーや写真撮影などは禁止だ、というのだ。理由を尋ねたところ「著作権の侵害になるから」という。

 おかげで、食品安全委員会で約2時間、報告書の中のデータや、めぼしい箇所を、ノートに手書きで書き写した。またそれを再びパソコンに打ち直して表にする作業で2時間。合計4時間の時間をかけてしまった。とても全文は書き写せなかった。

 しかし、なぜコピーができないのだろうか?食品安全委員会にすでに提出されているデータについて、我々市民が調べようとしても十分にアクセスできないのは問題ではないのか?少なくとも食品安全委員会は著作権者である花王に対して、一般公開できるように求めてほしいものだ。



と糾弾されており,たたたたさんが「花王は良心的ではない」と感じられた理由もここでしょう。

しかし,ここで報告されている各試験の詳細は,そのほとんどが現在では論文になっている(こちら(PDF)のp.60以降にある<参照>などをご覧下さい)ようです。もちろん,この著者がスクープ(?)として出している「DIMS医科学研究所」による報告も論文(Food and Chemical Toxicology 2008; 46: 157-167)になっています。

つまりどういう事かと言いますと,別に秘密にしたいから隠していたいわけではなくて,

まとめて論文にしたいから,もうちょっと待ってくれ


と言っていただけなんですね(^^;

まぁ,なんというか………。研究者としてはごく一般的な対応だと思います(^^;;;;;; もちろん批判したくなる方はいるとは思いますが,研究者という職業は,ある意味論文発表をすることで初めて生計を立てることができるわけです。いくら記者会見でセンセーショナルな発表をしようと,きちんと外部の人間の審査が存在している論文誌に投稿しなければ,その研究内容が認められることはありません。研究内容が認められなければ,その研究者や研究組織の信用が高まることもなく,当然生計を立てる事なんて不可能になるわけです。

最近は話題にならないと予算が付きにくかったりする泣きそうな事情もあって,プレスリリースをする研究者はどんどん増えているわけですが,論文にもなっていない時点で「詳細な数値データ」まで全部公表するような人はいません。だって,ちょっと考えてみてください。万が一集まった記者の中に同分野の研究者,もしくは研究者に近しい人が混ざっていたとして,その人が記者会見で知り得た詳細データを使って,プレスリリースをした人よりも早い段階で論文にしてしまう可能性がないと誰が言い切れますか?

今回のDIMS医科学研究所は,花王から研究委託を受けて実験を行っています。そこには当然契約が存在しているので,花王は全データを把握する権利を持っています。しかし,それを花王が自由に外部に公開することが出来るかと言えば,それは話が違います。普通はデータ公開の範囲は,契約により厳密に制限されているはずです。

このようなのは,もちろん他の実験についても同様です。厚労省が行った一連の実験も,そのほとんどは論文になっており,参考資料としてリストアップされています。こういうのはごく普通のことです。もちろん論文として投稿するのであれば,投稿以前に公開できる情報の範囲は非常に限られてしまいますので,最初に出てくる報告書の内容はどうしても概略のみになってしまいがちです。しかし,逆に言えば検討結果を論文として投稿し,外部の審査期間により認められることは,最終的にまとめ上げられるはずの報告書上では,各データの信頼性を向上させている結果に繋がります。今回のケースなどは,まさにその典型的なものでしょう。だから中間報告の時点で詳細なデータを公表しないのは,ごく当然と言っても過言ではないと思います。

厳にDIMSはこのデータを論文として投稿し,花王側もその論文を参考資料として委員会に提出しています。ですから,この時点で非公開にする意図があったとすれば,それはDIMS側の事情でしょう。「著作権の問題」というのは,そう言うことです。

こんな事を書くと,この研究者はなんてひどい奴だというかもしれませんが,普通はそういう事態を避けるためにプレスリリースは論文になって初めて行うわけです。もちろんこの時にも論文の詳細を自由にコピーさせたりなんてしません。だって,できあがった論文の著作権は論文誌にあり,論文誌を発行している学会や出版社は,その論文を売って生計を立てているんですから当然ですよね。そもそも論文を書いた本人ですら,自分が書いて掲載された論文を自由にコピーすることは出来ません。出版された論文を知人やお世話になった先生なんからに配ろうと思ったら,「別刷り」という自分が書いた論文が載ったページの部分を購入する必要があるんです,それなりのお値段で(^^;;;;ご存じでしたか?万が一,勝手にコピーしてばらまいたり何かしたら,出版社などから告訴される可能性だってありますし。

でも,この人たちは,そういうリスクを全部かぶった上で,論文にするより前に,ある程度のレベルまでの結果を公表し,手書きとは言え詳細なメモを取ることすら許可しているのです。これを良心的と言わず,何を良心的と言うべきでしょうか。

というわけで,ちょっと長くなりすぎたのでDAGの発がん性についての話は,また次回にします。

先ほどの記事の最後は,花王が記者の植田さんに対する対応を始めたところで有料ゾーンに突入し,花王側がどういう対応をしたのかが非常に興味のある部分なんですが,肝心のその部分の情報公開がされていなくて非常に残念です。ぜひ,データの公開を御願いしたいところです。

でも,この手のニュースサイトも情報の売買で生計を立てている以上致し方ないですね。だからきっと,本当は植田さんも「論文を書くために情報公開を止めている」ことを批難するなんてことはしたくないんじゃないかな?と思っています。

では,続きはまたそのうち。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 14:42:44 | Trackback(1) | Comments(4)

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