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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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エコナはどのくらい危険なのか
拍手コメントでリクエストをいただきました。

今回、エコナが発売自粛しましたよね。発がん性の恐れのある「グリシドール脂肪酸エステル」か基準より多く含まれているとのことで・・。この件をとりあげてください(T_T) トクホマークがついてたのに、こんなのって・・。使ってたのに、ショックです。今からやめても間に合うでしょうか><

結構話題になっているようですね。

私も新聞報道では知っていたのですが「花王も大変だねぇ」くらいの軽い感想しか抱きませんでした。なので,リクエストをいただいて検索してみたら意外と,というか予想以上に軽いパニック状態になっている方がいることに驚いてしまいました。

いつものようにこの後長い話が続きますので,結論だけ先に列挙します。

1. 今からエコナの使用を中止しても十分に間に合います。
2. 今回問題になっているグリシドールに対する感受性がずば抜けて強い体質のヒトでない限り,エコナだけが原因で癌になるとは考えにくいです。
3. 今回の販売停止は,あくまでもリスク管理上の問題であり,この段階で販売停止を決めた花王はとても良心的な会社であると考えた方が自然です。

個人的にはここまでの騒ぎになる理由が良くわからないのですが,「トクホ」というラベルに全幅の信頼を置いてる人が多いと言うことの表れなのか,「ゼロリスク信仰」の強さというものなのかどちらなんだろう,というのが正直な感想です。

というわけで多少調べてみたわけなんですが,すでにすばらしい解説を書かれているところがありましたので,こちらをご紹介させていただきます。

エコナの件有機化学美術館・分館

正直,こちらを読んでいただくだけで充分と言う気がしている訳なんですが,一応引用しながら蛇足を付け足していきます。

 このジアシルグリセロールが分解してできる「グリシドール脂肪酸エステル」はエコナにたくさん含まれており、これが体内で酵素などによって切断されると発ガン物質の「グリシドール」を生じるかもしれない、というのが今回の騒動の原因です。

本文中では「分解して」となっておりますが,どうも話を聞くとこの分解が起きるのは製造段階(精製段階?)で起きているようで,植物油一般で起きる事例のようです。ただ,エコナの場合は主成分が通常の植物油とは異なるジアシルグリセロールであるため,不純物として問題のグリシドール脂肪酸エステルが大量に生成し,製品中にも他の植物油とは文字通り桁違いに混入してしまっているようです。

整理しておきますと、グリシドール脂肪酸エステル(水色)には発ガン性はないと考えられます。またグリシドールは、Fischerラットと呼ばれるガンを発生しやすいラットに対し、体重1kgあたり37.5mgを投与するとガンを発生したとのことです。ヒトでは発ガン性が確かめられていませんが、このラットでの数字を適用すれば体重60kgの人が毎日2.25gのグリシドールを摂取するとガンを発生することになります。

 エコナに含まれるグリシドール脂肪酸エステルの濃度は370ppmだそうですので、ガンを発生するために必要なエコナの摂取量は1日約6kg、ざっと一升瓶4本分を飲む必要があるということになります。実際にはこういう食生活を送っている人はあまりいないのではないか、と思います(もし計算が間違っていたらご指摘下さい)。

ということで,量的にものすごく問題があるというわけではありません。ただ,ドイツで乳幼児用ミルクにも入っている油脂(パーム油)中にグリシドール脂肪酸エステルが検出され,最悪のケースを考えると健康上躊躇すべきであると判定された例があるため,それより多くの量が含まれているエコナについても規制する必要があるだろうという意見があり(後述),今回の発売自粛措置は,その意見に従ったものと言えるかと思います。

で,今回の問題で一番のポイントは次の部分なんです。

 もちろんラットとヒトは違いますから、通常こういう場合動物実験で得られたデータに100倍の安全係数をとることになっています。であるとすると1日60gですから、絶対安全とは言えないかも、というラインになります。まあこれだけ油をとっていたら、いくらエコナが脂肪になりにくくても、ガン発生以前に何か重い病気にかかるのではないかと思いますが


要するに,リスク評価をどうするかという問題なんです。確かにリスク管理上,エコナをこれ以上このままの使用で販売し続けることは問題ないとは言い切れません。しかし,通常の使用範囲内では「おそらく」問題がないだろう,と言えるのも事実(理由後述)なんです。
そして,「おそらく」大丈夫であろうというものにコストをかけることで,「確実に」大丈夫であるというものにする必要があるかどうか,と判断するのはリスクマネージメントの領域です。今回,花王は問題とされた「グリシドール脂肪酸エステル」を充分低いレベルまで取り除き,「確実に」安全であると言える仕様へ変更することにコストをかけることを決断しました。この一点において,花王は十分に良心的な会社であると評価できると思います。

たぶんこの問題のきっかけとなったのは,時期的に言っても食品安全委員会新開発食品(第62回)・添加物(第75回)合同専門調査会における議論だと思われます。ここの資料5:DAG 評価書の修正に関する意見(菅野専門委員提出資料)[PDF]に,グリシドールの話が出ています。

ここからは,この資料を読み取っていきましょう。

通常食品添加物などの基準を作成する時にADI(一日の許容暴露量)という値(この辺の話はだいぶ前のエントリでも書きましたが)を決めます。この値は,ここまでなら毒性を発揮しないという量(無毒性量)を元に算出されるのですが,この無毒性量の根拠が動物実験だった場合「ヒトと動物の種族間差」として,安全係数10,さらに「ヒト間の個人差」の安全係数として10をかけ,全体として「安全係数100」を乗じて算出します。

Wikipedia

グリシドールについて健康上の危惧が無いと考えられるmargin of exposure (MoE)値は動物実験の結果から10,000である。エコナのMoE値は250程度であり、健康上の危惧が無いと考えられるMoE値から約40 倍の隔たりがあり、数倍の誤差の可能性を見込んでも、食品安全委員会としてはDAG 油を主たる油脂として日々摂取する国民においては、健康上の危惧が存在しないとはいえない、との指摘である。

と言う記述があります。

ここで使われているMoE(暴露マージン)という数字についての説明はこちらが詳しいです。ここにも書かれている通り,算出されたMoEから危険度を判断するためには,UFs(不確実係数積)との比較が不可欠です。

UFsにどのような値を使うかというと,通常試験がきちんと行われている物質に関しては,先ほどもあげた「ヒトと動物の種族間差」と「ヒト間の個人差」に由来する100という値が使われます。しかし,今回問題となっているグリシドールはNOAEL(無毒性量)ではなく, LOAEL(最小毒性量)に相当する量から換算しています(後述)ので,さらに10を,そしてその他の理由によりさらに10をかけてUFs=10,000という値を設定しているものと思われます。

さて,先ほどの資料5の脚注2を見ると

BfR の資料において、最も感受性の高い発がん指標として雄ラットの鞘膜および腹膜での中皮 腫誘発に基づく T25 値(直線外挿に基づく 25%腫瘍誘発用量)が 10.2mg/kg であると算出されて いる(NTP の発がん実験データによる)。この T25 値は BMDL10 としては、T25/2.5 に相当するとの 経験則を用いて、仮想的ながらBMDL10を10.2/2.5=4mg/kg と算定している

とあります。

BMDというのは,ベンチマークドーズ(Benchmark Dose)の略です。元々の意味は「基準(Benchmark)となる用量」という意味です。ここで使われていてるBMDL10という値は,バックグラウンドレベルの有害影響に比べ,10%の増分をもたらす用量を意味しており,この値をNOAEL相当のものとして使用することができます。旧来は実験計画で決めた用量がそのまま NOAEL・LOAEL等の値となってしまい,統計的に正確であるのかどうか言い難い部分が残っていたのですが,この値の方が生物学的にも統計学的にも,より確からしい値として様々な判断の基準と出来ると考えられています。

さて,続けて読み解いていきましょう。ここで示されていた換算を採用すると,暫定的にNOAELは4mg/kgとすることができます。すでにエコナ中に含まれるグリシドール脂肪酸エステルは370pppm程度であるとの報告がありますので,これがすべて分解したとすれば,生成するグリシドールは80ppm程度となります。

先ほどの委員会ページの資料1新開発食品・添加物評価書(案)「高濃度にジアシルグリセロールを含む食品の安全性について」[PDF]のp.48に一日摂取量の推定があります。ここでは

日本人の一日あたりの脂質平均摂取量 54.1 g のうち植 物性食品由来の脂質は 27.2 g となっており、これをすべて DAG 油として摂 取したとすると、一日推定摂取量は 27.2 g/人/日(体重 50 kg として 544 mg/kg 体重/日)となる。

という推定がされています。(DAG=エコナの主成分ジアシルグリセロール)

同時にエコナのシェアから考えた平均摂取量は6.1 g/人/日(体重 50 kg として 120 mg/kg 体重/日),食用油、マヨネーズ、ドレッシング等の DAG 油が使用される可能性の高い加工食品中から摂取される脂質すべてに DAG 油を用いたと仮定した時の、一日推定摂取量は 18.0 g/人/日(体重 50 kg として 360 mg/kg 体重 /日)とも推定されていますので,資料5の脚注4で使われている「一日 10g 摂取」するというストーリーは妥当な値だと思われます。

そして,「このように最大限大きなリスクを見込んだストーリーで算出されたMoEが250であり,確実に安全であると考え得るMoE10,000とは40倍もの開きがあるので,絶対に安全であるとは言い切れない」というのが,今回の話なのです。

ここまで読み取ってきた上で,考えなければならないポイントはいくつかありますが,最大のポイントは

グリシドール脂肪酸エステルは,
実際どのくらいグリシドールに変化しているのか。
どのくらい吸収されているのか。


という点です。普通に考えて100%分解されているというのは考えにくいです。さらに生成したグリシドール自体の安定性が問題です。

グリシドールの化学式は「C3H6O2」と比較的小さなアルコールです。炭素2つと酸素の3つが環のように繋がっているエポキシ構造を持っている(参考:Wikipedia)辺りが,嫌らしいのでたぶんこの辺が発がん性に関与しているのでしょう。

ただ,ここ常用なポイントです。私はこの構造を見て「嫌らしい」と感じました。これはたぶん化学をかじった人間なら,わりと共感していただける感覚だと思います。でも,なぜそう感じたんでしょうか。

それは「エポキシ構造は反応性が高い」からです。反応性が高いため,様々な物質と反応し,いろんなものを創り出します。なので,有機合成を行う際に,中間体として非常に重宝されたりする構造なんですが,反応性が高すぎるために,期待していないものとでも反応してしまいます。おそらく,何らかの経路で細胞中に取り込まれたグリシドールがDNAなどと反応しているのが,発がん性などの原因なのでしょう。

しかし「反応性が高い=安定性が悪い」という意味でもあります。

反応性が高すぎていろいろなものと反応してしまうと書きましたが,エポキシ構造は本当にいろんなものと反応します。なので「酸触媒下で水とも簡単に反応して,違うものになってしまう」んですね。ということは,胃液=塩酸と水が大量に存在している状況下で,グリシドールが安定に存在していられるのか??という素朴な疑問が生じるわけです。

この辺が明らかになると,MoEは大きく変化してくるんじゃないかと思います。正直最終的に体内への吸収量は,摂取したグリシドール脂肪酸エステルの1%以下になるんじゃないかと思っています。完全に勘ですけど(^^;;;

でも,ppmオーダーになっても不思議じゃないとは思いますが,10%になることはないだろうと思います。

もし吸収される量が1%であれば,MoEは250から25,000となり,確実に安全であると考えられる10,000を遙かに超える値になります。

以上,非常に長くなってしまいました。読んでくださった方ありがとうございます。

この話題については,今後どのようなデータが出てくるか,興味を持って待ってみたいと思います。

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テーマ:気になるニュース - ジャンル:ニュース

気になる化学リスク | 14:54:26 | Trackback(0) | Comments(8)

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