■プロフィール

ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

■最近の記事
■最近のコメント
■最近のトラックバック
■月別アーカイブ
■カテゴリー
■FC2カウンター

■ブロとも申請フォーム
■ブログ内検索

■RSSフィード
■リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
疫学はなぜ必要なのか
この辺でお約束した疫学の話です。だいぶ間が空いてしまってすいませんでした。いつものようにかなり長くなっておりますので,前置き無しに早速始めましょう。

と言いつつ,いきなり疫学の話には入りません。まずは自然科学というものがどういう構造をしているのかをご理解いただこうかと思います。ここをご理解いただいた方が,疫学がどうして必要され,生み出されてきたのかがより一層理解しやすくなると思います。

さて,「いわゆる自然科学は積み重ねの学問であり,その根底にあるのは数学である。」と言う認識に異議を唱える方は,そんなに多くはないのではないかと思います。数学は純粋に理論的な部分を扱う唯一の学問であり,現実に存在しているかしていないかを問いません。

現実という足かせを持たず純粋で自由な理論数学から,ある意味現実に歩み寄りを見せている分野が応用数学や理論物理学と呼ばれる分野です。理論物理学でも現実に存在しているかどうかが不明なものを扱う場合がありますが,基本的には「この理論が正しければ現実でも成立するはず」というストーリーで話が進んでいきます。

実験物理学は,現実という足かせを大いに受ける分野であり,理論物理学が提案した理論を実証するために全力を尽くします。ただ,現実ではありますが限りなく理想的な状態を実現させることを目指し,その中で理論が成立するかどうかを確かめることが多いです。

そこからさらに現実に踏み込んだのが化学の世界です。

物理と化学の境界領域である物理化学の分野でも比較的理想状態の構築を目指しますが,見ている対象は分子であり,分子の反応になってきます。理論化学の分野においても,実際の反応が行われる場を前提条件として,理論の構築を目指します。もちろん物理化学以外の化学においてはなおさらです。現実に存在する反応空間においてどのような現象が起きているのかを知り,利用するわけです。

と,ここまでは比較的一本道なのですが,ここから先は一気にばらけ,現実にある個々の現象に密接した生物学・地学・工学・医学など様々な分野が存在し,それぞれにおいて,その場面における現実を意識した学問へと発展しています。

しかし,それぞれの分野において実際に起きていることは化学反応であり,その化学反応の元になっているのは個々の分子の持つ物理的性質や場の物理的特性であり,それらを最終的に説明するために用いられる言語は数学です。つまりすべての自然科学は最終的に数学に帰結すると言っても過言ではないわけです。

では,全ての事象が最終的に数学で説明することが出来るのなら他の学問は必要ないのでしょうか?

極論を言えば,答えはYesであり,Noでもあります。

自然科学がこのまま無限に発展し続ければ,いつの日かすべてが数学で説明できる世の中になると自然科学者は考えています。だからこの答えはいつの日かYesになります。

でも,現実問題として数学だけで何とかなるのかと言えば,もちろんNoです。

私の専門に近い分野で言えば,(ちょっと古い話になりますが)ノーベル賞を取った田中耕一さんの専門である質量分析と呼ばれるテクニックは,様々な分野で今では無くてはならない重要な分析手法の一つとなっています。しかし,質量分析計の中で起きている化学反応は,理論的に完全に証明されているわけではありません。経験的に「このような条件ではこのような反応が起こりやすいようだ」と知られてはいますが,実験をする前に完全に結果を予測することはまだ出来ません。また質量分析計とセットで用いられることの多いクロマトグラフィーと呼ばれる分離分析手法があります。こちらも分析を行うラボならたいてい一台はあるものですが,そのような手法ですら実験を行う前に中で起きる挙動を完全に予測することは不可能です。

結局のところ,数学だけでは説明できない複雑な条件の絡んでくる事象を説明するために,物理や化学をはじめとする様々な学問分野が産まれてきたのです。なので,この分野は優れていて信用できるが,この分野は信用できないなどと言う議論をすることそのものがナンセンスなのです。そして,今観測された事象,あるいは今主張されている現象や理論は本当に現実に存在する現象なのかどうかを検証せずに鵜呑みにすることはかなり誤ったことではありますが,その存在が厳密に証明された事象を「数学的に解明されていないから」と言って一蹴するのも,明らかに誤った態度です。

結局のところ,どのような土俵ではどの分野の議論を用いるのが適正か,という選択の問題に過ぎず,大切なのはそれぞれの分野が持つ能力の限界を正しく知り,その境界を正しく判断することなのです。

数学はすべての自然科学の基本言語であり,数学により記述することで様々な事象に対する個々の事例を,より本質を捉えた抽象的な形で理解することが可能となります。しかし,現段階においては,数学と現実を結びつけるためのステップとして物理や化学が必要であり,物理や化学が見つめるミクロな事象を超えたマクロな事象を扱うその他の様々な分野の存在が必要不可欠です。

と,ここまではご理解いただけましたでしょうか。ではいよいよ,本題である疫学の必要性の話をいたしましょう。

疫学の定義は「特定の集団における健康に関連する状況あるいは事象の、分布あるいは規定因子に関する研究。また、健康問題を制御するために疫学を応用すること。」となっているとおり,疫病や公害による影響などを調べ,その原因を類推することに特化された学問です。

では,なぜその様な学問・考え方が必要になったのか。答えは簡単。それは「疫学以前の考え方では解決できない問題があったから」です。

これは,数学だけでは解決できない分野をより深く知るために,物理学や化学が生まれてその方面に特化し,これらが扱える領域を超えた事象を扱うために,さらに様々な分野が産み出されていったのと,まったく同じです。

病理学と呼ばれる分野は,病気の原因を細胞、組織、臓器のレベルから調べ,病気の発生するシステムを解明し,診断などに利用するための学問です。生物学における知見を医学診断・治療などに繋げるための分野であり,この分野において解明がなされれば,病気の診断・治療・予防などは飛躍的に促進される可能性が高いです。

しかし,この分野が対象としているのは個体レベル以下のミクロな世界であり,ウイルスや病原菌が細胞内でどのような挙動を示すのかはわかっても,その結果もたらされる伝染病がどのような形で社会に蔓延していくのかはわかりません。ある化学物質により細胞が腫瘍化することはわかっても,その化学物質がどのような形で取り込まれるのかもわかりません。

また,最大の問題は,病理学というものはある事象に対する「一対一」の関係を知ることが基本であり,複数の原因が絡み合うような問題を解決することは不向きな点です。化学の分野でいくら体内で行われている個々の化学反応が理解されたとしても,様々な化学反応が絡み合って出来ている生物個体全体で起きている事象を理解することが不可能なのと同じです。ましてや個体を超えたレベルのマクロな社会や,閉鎖されていないオープンな環境条件まで原因に絡んでくるとなると,完全にお手上げです。

そのため,疫病や公害による健康被害,環境汚染と言ったよりマクロな事象を病理学だけで解明しようとするのは無理がありすぎ,このような問題を解決するために導き出された方法論こそが「疫学」なのです。

疫学は,基本的にマクロな事象で観察される数々の状況証拠から因果関係を導き出そうとする学問です。このような方法論から健康問題に対してアプローチを行う学問は他には存在せず,それ故にマクロな事象における原因を導き出すためには,疫学的な方法論は必要不可欠となります。逆に言えば疫学的な方法論を度外視して行われたマクロな事象に対する議論は意味が無いのです。

もちろん,数多くの原因が存在するマクロな現象を扱うわけですから,一個の研究から因果関係そのものを導き出すのは非常に難しく,出てくるのは相関関係止まりの場合が多いために,一個の研究から明確な結論を導き出すのも困難な場合が多いです。

では,やはり疫学は信用できない学問なのでしょうか?

そう思った方は自然科学の研究者をなめています。

我々みたいな門外漢の素人が思い当たるような弱点を,その道に人生を捧げた専門家が気づかないわけがありません。ですから,そのような弱点を克服するための方策はもちろん検討されているわけです。

そのような手法の最右翼として注目され,用いられているのが同じテーマに対して行われた複数の研究を網羅的に取り扱うメタアナリシスと呼ばれる手法です。

というわけで,予想通りバカみたいに長くなりましたので,メタアナリシスの話はまた次の機会にさせていただきたいと思いますが,とりあえず「ああ,疫学って必要なんだな」と思っていただけましたでしょうか。

もちろん疫学は根本原理と言うよりは,わかりにくい事象をわかりやすくするためのツールに近いものです。ですから,「疫学的な方法論を使うとわかりやすくなる場面があるのだな」と言う理解でも十分ですので,ぜひよろしくお願いします。

というわけで,次回はこういう理解をしてもらったのを前提の上で話をさせていただこうかと思います。

スポンサーサイト

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

雑学 | 12:00:02 | Trackback(0) | Comments(0)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。