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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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続・ベクレルとシーベルト(訂正有り)
なんとなく気が向いてアクセスログを見ていたら,こんなエントリを見つけました。

劣化ウランと原発用濃縮ウランの放射能は大して違わない(さつきのブログ「科学と認識」)

思いっきりタイトルにひかれて,読ませていただきました。というわけで,最後のまとめのぶぶんをざっくりと引用。

天然ウラン:
天然に存在するウランの意味だが、ウランだけでなく、ウラン起源の種々の中間娘核種を含んだ総体の意味に用いられる。ウランは、ウラン238が99.2745%、ウラン235が0.72%、残りの0.0055%がウラン234からなるが、ウラン234はウラン238系列の中間娘核種で、独立したものではない。天然に長期間放置された結果、全ての中間娘核種が放射平衡に達し、親核種と同じ頻度で放射壊変を起こす永続平衡の状態となっている。その結果、放射能強度をベクレル(Bq)で表せば、ウラン系列についてはウラン238単独の放射能の14倍となり、アクチニウム系列はウラン235単独の放射能の11倍となる。

天然比ウラン:
ウラン鉱石からウランだけを化学的に精製したもので、その同位体比は天然ウランに等しい。精製後数ヶ月を経つと、ウラン系列の中間娘核種であるトリウム234、プロトアクチニウム234、ウラン234、およびアクチニウム系列(ウラン235起源)のトリウム231が放射平衡に達するので、実際上これらの放射性元素を含んでいる。その結果、ウラン系列についてはウラン238単独の放射能の4倍となり、アクチニウム系列はウラン235単独の放射能の2倍となる。

濃縮ウラン:
ここでは通常の原発の燃料として一般的に用いられるウラン235が3%、ウラン238が97%程度のものを指す。主成分は依然としてウラン238であることに注意。これも、天然比ウランと同じくウラン234の他、ウラン以外の3種類の中間娘核種を含んでいる。放射能強度は、各系列について天然比ウランと同様の倍率を考慮する。

劣化ウラン:
濃縮ウランを精製した残りカスとして排出される、いわば産業廃棄物である。ウラン235が0.3%程度、ウラン238が99.7%程度となっており、天然比ウランと同じくウラン234の他、ウラン以外の3種類の中間娘核種を含んでいる。放射能強度は、各系列について天然比ウランと同様の倍率を考慮する。

以上を基礎に、壊変定数から計算されるそれぞれの放射能強度は、天然比ウランの放射能を1とした場合に、天然ウランが3.55、濃縮ウランが1.05、劣化ウランが0.99、となる。すなわち、表題に示したとおりである。原子力基本法では濃縮ウランも劣化ウランもともに「核燃料物質」と定義され、その取り扱いは厳しく制限されている



で,どうやらこの記事のきっかけ(?)となっている昔のエントリからも胆と思われる部分を引用します。

 確かにウラン238はα線とごく弱いγ線しか出さないが、これから生じる嬢核種が劣化ウラン中で次第に増えて、β線の放射も増加する。その強度を1秒当たりの壊変頻度の単位であるベクレルで計算すると、嬢核種の半減期の5倍ほどの期間を経過した時点で、ウラン238の壊変頻度と同じレベルに達することがわかる。つまり、精製後数ヶ月後には、トリウム234とプロトアクチニウム234からの高エネルギーのβ線がウラン238からのα放射と同じ頻度でおこることになる。この状態を放射平衡と呼ぶ。次のウラン234は半減期が25万年と長いので、これ以降の中間嬢核種からの放射線はとりあえずは無視してよい。つまり劣化ウランは、精製後数ヶ月を経るとウラン238からのα線の2倍の頻度でβ線を放射する物質へとその性質を変える。したがって、劣化ウランの放射線の危険性を言う場合、α線よりβ線に注目しなければならないのであって、前掲2者のグループが劣化ウランの放射能の本質についてα線だけに注目しているのは理解不足と言わねばならない。



とここまで読んでいただいたところで,今回のエントリがなぜ「続・ベクレルとシーベルト」かわかっていただけたかと思いますが,劣化ウランが人体にとって有害かどうかを議論しているはずなのに,シーベルトに対する言及がまるでないんですね。

不精者なので検算はしてませんが,おそらく「放射能(=ベクレル)」ベースでは,この話は正しいと思います。というか,正しいのだろうと信じて話を進めます。しかし,劣化ウランの放射能がなぜ問題なのかという根本的な問題を考えれば,シーベルトで話をしなければ意味がありません。

というわけで,関連する核種の実効線量係数から換算してベクレルをシーベルトに変換してみましょう。使うのはいつもの表です。濃縮ウランには劣化ウランの10倍以上の235Uが含まれています(劣化ウラン中0.3 %,濃縮ウラン中3 %)ので,濃縮ウランと劣化ウランそれぞれに含まれるウランからの実効線量を大ざっぱに見積もってみましょう。


さてこの換算表を使う前に,まずそれぞれの崩壊係数を「崩壊定数×半減期=0.693(=ln2:lnは自然対数)」から求めます。235Uと238Uの半減期はそれぞれ7.038E8年,4.468E9年ですので,以前のエントリの時と同様の計算をすると,それぞれの崩壊係数は235Uで3.12E-17,238Uで4.91E-18となります。

次に。「放射能の強さ(単位:ベクレル)=原子の数×崩壊定数」から,それぞれ1 molあたりの放射能の強さを求めると,それぞれの核種1 molあたりの放射能は235Uで1.88E7 Bq238Uで2.96E6 Bqです。ここまでのところから行くと,確かに5~6倍程度しか違わないですね。存在量の差から考えると,劣化ウランと濃縮ウランが与える影響は確かに同じくらいのように思えてきます。

それでは,いつもの表から関与する部分を抜粋してみましょう。劣化ウラン弾で問題になるのは発生した粉塵が呼吸器系から体内に侵入した際の内部被曝です。なので,吸入摂取した場合の実行線量係数を見ることにします。それでは,まずウランです。普通に考えて,弾丸に使おうという素材が熱や水分に弱い組成になっているとは考えにくいので,不溶物と同等の様式で人体に影響を与えると考えます。

(追記:以下の議論の元になった238Uの実効線量係数が間違っていました。訂正の詳細は別エントリとさせていただきました。もうしわけありません)すると,

235U 二酸化ウラン、八酸化三ウラン等の不溶性の化合物 6.1E-3 mSv/Bq
238U 二酸化ウラン、八酸化三ウラン等の不溶性の化合物 5.7E-6 mSv/Bq


となります。なんと3桁も人体に与える影響が違っています。ここから計算すると,それぞれの核種1 molを吸入摂取した場合の実効線量は

235U:1.88E7 Bq x 6.1E-3 mSv/Bq = 115 Sv
238U:2.96E6 Bq x 5.7E-6 mSv/Bq = 1.69E-4 Sv

となります。ということで,濃縮ウランと劣化ウラン1 molを吸入摂取した時,それぞれの場合における実効線量は

濃縮ウラン:1.69E-4 Sv x 0.97 + 115 Sv x 0.03 = 3.45 Sv
劣化ウラン:1.69E-4 Sv x 0.997 + 115 Sv x 0.003 = 0.345 Sv

ということで,一桁違う結果になります。というか,

238U由来の実効線量が完全に無視されている

ことにお気づきでしょうか(^^;


ちなみにこのブログ主さんが問題にしているトリウム234、プロトアクチニウム234の吸入摂取時における実効線量係数は次のようになります。

234Th 酸化物及び水酸化物以外の化合物 5.3E-6 mSv/Bq
234Th 酸化物及び水酸化物 5.8E-6 mSv/Bq(半減期 24.1 day)
234Pa 酸化物及び水酸化物以外の化合物 5.5E-7 mSv/Bq(半減期 6.75 h)
234Pa 酸化物及び水酸化物 5.8E-7 mSv/Bq


ご覧の通り,どちらも238Uと同等かそれ以下です。

ちなみにウラン由来のBq値を単純に比較すると,

濃縮ウラン:2.96E6 Bq x 0.97 + 1.88E7 Bq x 0.03 = 3.44E6 Bq
劣化ウラン:2.96E6 Bq x 0.997 + 1.88E7 Bq x 0.003 = 3.01E6 Bq


となります。エントリ中に

ウラン系列についてはウラン238単独の放射能の4倍となり、アクチニウム系列はウラン235単独の放射能の2倍となる。



とありますが,たとえベクレルベースで4倍の値を持ったとしても,実効線量係数が238Uと同程度の核種からの放射線では,235Uと比較するとほとんど無視出来る程度の影響しか与えられないのは先ほどの計算の通りです。

ただ,この計算に使った表を良く読まれた方ならお気づきの通り,238Uの化学形態によっては(水溶性などの場合)235Uと同レベルの実効線量係数を持つ場合もあります。そうなくるとだいぶ計算が違ってきますので,劣化ウランと濃縮ウランの差はここまでないでしょう。ただ「劣化ウラン弾」ということであれば,今回の条件で比較することに特に問題はないと思いますし,238Uの持つ実効線量が大きいケースであれば,さらにβ核種の崩壊の影響を議論することには意味が無くなります。

つまり,

劣化ウランの放射線の危険性を言う場合、α線よりβ線に注目しなければならないのであって、前掲2者のグループが劣化ウランの放射能の本質についてα線だけに注目しているのは理解不足と言わねばならない。


という指摘に対しては,α線だけに注目しているのは理解不足なのではなくて,放射線の危険性(≠放射能)」を考慮する場合には考えても意味がないからである,という反論が成立します。

ところで,今回計算で出てきた実効線量の値がいつもよりかなり大きい値であることに驚いた方もいると思いますが,235U 1molは235 gに相当するためで,普段このブログで扱っているものとは根本的に量が違いすぎるからです。念のため。

というわけで,両者の間で「放射能がほとんど変わらない」のは確かに事実かも知れません。劣化ウランの有害性についても今回は議論しません(劣化ウランが人体に与える影響を議論するためには,劣化ウラン弾を使用することによりどの程度の粉塵などが発生し,どのような形でどのくらいの量の放射性物質が体内に吸収されているのかという定量的な議論が不可欠だからです。とても,今回のように「同量の濃縮ウランと劣化ウランが吸収されたら」などというあり得ないケースの場合を想定して済む話ではないからです)。もちろん,劣化ウランの有害性を主張する活動も否定しません。

しかし,劣化ウランの有害性を強調したいがために,濃縮ウランと同等の危険性を持つものとして扱うようなレトリックはやり過ぎではないか?と感じます。濃縮ウランは間違いなく危険なものですし,放射線のことだけ考えても気軽に取り扱えるような代物ではありません。それに濃縮ウランの危険性は放射線の影響だけで済む話でもありません。

というわけで,今回はこの辺で終了です。もちろん,ご意見ご質問大歓迎です。…………,それにしてもどうしてベクレルで話をするのが好きな人が多いのでしょう。人体への影響はシーベルトで話をしないと意味がないんですけどね………。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 16:41:20 | Trackback(0) | Comments(0)

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