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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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歯磨き粉の中のラウリル硫酸ナトリウムはどのくらい怖いのか
ちぃさんから再びコメントをいただきました。結構大事なことだと思いますし,いつものように長くなりましたのでエントリにしました。

> ラウリル硫酸ナトリウム入りのシャンプーやボディーソープなどは
> あまり過敏にならなくてもいいというのは教えてもらいましたが、
> 歯磨き粉に使われてるものはどうなんでしょうか。
> http://www.genkimura.info/hamigakiko.htm
> ここのサイトに詳しく書いてあり、
> 「このような石油系化学物質が4%含まれている歯磨き粉を口に入れた
> 直後、 口内濃度が40000ppm(1ppmは0.0001%)の濃度になります。
> 0.45ppmでヒアユの50%が死んでしまったという実験結果もあります。」
> と具体的に書いてあったので、ちょっと気になりました。

非常にありがちな不安を煽るためのセールストークですね。まず,もう一度「毒性を判断するには量の概念が重要である」ことを思い出しましょう。

と言っても,今回は「4 %」とか「0.45 ppm」とか書いてあるので,一見すると量的な部分についてもきちんと言及しているまじめな業者のように見えてしまいます。でも,そう思ってしまったとしたら,その時点で相手の誘導に乗っかって騙されはじめている証拠です。

重要なのはここで出てきている数字は「濃度」であって「絶対量」ではないと言うことです。化学物質の毒性を議論する際には,体内に取り込まれた物質の「絶対量」が問題になります。そして,それ以前に(この辺は後述しますが)そもそも比較するものが間違ってます。さらに細かいことを言えば「口に入れた直後、口内濃度が40000ppm(1ppmは0.0001%)の濃度になります」なんて話は「濃度」という観点から言ってもちょっと間違っています。

最後の点に関しては,とっさに勘違いしてしまいやすい部分なので,一般の方々が間違ってしまうのはよくわかります。でも,もしも学生がこんなことを言い出したとしたら,居室に呼び出して二時間くらい説教したいレベルです。

なので,化学系の学生とかこの手のものを専門に扱う業者といった「専門家」あるいはこれに準じたレベルの人(あるいはそのように自称している人)であるにもかかわらず,こういうことをしれっと言う人がいたとしたら,その人は「濃度」という概念をそもそも理解していない専門家と呼ぶには値しないレベルの人であるか,

何かの理由で相手に誤解を与えたい人

だと思います。

本題に戻りましょう。

こちらはラウリル硫酸ナトリウムの製品安全データシート(MSDS)です。これによると,ラットにおけるラウリル硫酸ナトリウムの経口半致死量は1,288 mg/kg とあります。つまり体重50 kgの人の場合,1,288 x 50 = 64,400 mg = 64.4 gにほぼ相当すると考えられるわけです。たとえ4%含まれていたとしても,一回に使う練り歯磨きはせいぜい1 g程度です。ということは,その中に含まれる量は0.04 g = 40 mg程度というわけです。文字通り桁違いの値であることがご理解いただけると思います。

また,このMSDS中に「魚毒性:水生生物に有害」という項目が載っています。なんでわざわざ別項目になっているのでしょう。それは,水の中に生きる生き物と陸に生きる生き物では「毒としての働き方が違う場合がある」からです。そして,これがこのセールストーク最大の問題点なわけですが,ラウリル硫酸ナトリウムをはじめとする界面活性剤が魚などに対して毒性を発揮するシステムは,我々が普通イメージする「毒」の働き方とは全く違う,つまり水生生物と陸生生物で毒としての働き方が違う最も典型的な例であるということです。

つまり,どういうことかと言いますと,石鹸を含む界面活性剤は「界面活性」を持っている以上,水中に存在する固体を狙って吸着してしまいます。なので,当然魚介類のエラへも界面活性剤は選択的に吸着してきます。これによりエラ表面の性質が変化し,魚介類は酸素吸収を妨げられて窒息死するのです(参考PDF)。要するに「0.45ppmでヒアユの50%が死んでしまったという実験結果」は,

日頃からエラ呼吸をしている人間以外とは直接比較できない値

と言うわけです。

> 口の中だと粘膜吸収になるので、危険だと・・・。

というわけで,粘膜吸収だけであれば,前述いたしました経口半致死量64.4g(体重50kgの場合)と比較すればよいと思います。これだけの量のラウリル硫酸ナトリウムを,4 %しか含まないような練り歯磨きから摂取しようと思うと1,610 gの練り歯磨きを一度に食べなければいけないことになります。実際問題として,どれだけ膨大な量なのかはご理解いただけると思います。

> 親が使ってる歯磨き粉は、アムウェイのものです。
> どういう成分かはわからないけど、あわ立ちがいいので、必ずラウリル
> 硫酸Naは入っていると思います。
>
> 歯磨き粉には入ってないものを使うほうがいいでしょうか??
> 教えてください、お願いします。

というわけで,全く気にする必要はないと思います。個人的にはコストパフォーマンスと,味や香,あとは主にその時の気分で選んでいますが,だいたいその日の特売品を選んでいます(^^) ご参考になりましたでしょうか?

それにしても,本当にこの手のセールストークはよく考えられていると思います。今回のものについても,「歯磨き粉に石油系化学物質が4%含まれている」「0.45ppmでヒアユの50%が死んでしまったという実験結果がある」ということは(未確認ですが)瞬間的に嘘だと証明するのは難しいわけです(実験結果があるのであれば,論文を引用して欲しいと個人的には思いますが)。口内濃度の件についても,ちょっとした勘違いをしているレベルで済まされる程度でもあります。つまり,彼らがやっていることは何かというと,

「ラウリル硫酸ナトリウムを飲み込んだ時と,魚の住む水の中に入れた時では
毒性が働くシステムが違う」という一点だけを黙っている

だけなのです。これに「彼らの製品なら安全である」という結論を結びつけることによって大いなる誤解を消費者に与え,極めて高額な商品(100 gの歯磨きが2,100円というのは私には理解できません)に値段相応の価値があると思いこませることに成功してしまっているのですね。

本当に心の底から感心してしまいます。

また何か不安なことがあればいつでもどうぞ。

【追記】
ついでに,よく「ラウリル硫酸ナトリウムによって味蕾が破壊される」という記述をネット上で見かけます。確かに歯磨きをした直後にものを食べると不味く感じる経験をした人は多いでしょうから,この話に真実味を感じてしまう人も多いかと思います。

でも,この現象の犯人はラウリル硫酸ナトリウムではなくて,清涼剤として入っているメントールです。フリスクやミンティアと言ったものを食べたあと,他のものを食べてもおいしく感じませんよね。じゃあ,フリスクやミンティアにもラウリル硫酸ナトリウムが入っているんでしょうか? そんなわけはないですよね(^^;

大人になれば味覚が鈍感になる=苦いものでも食べられるようになるのは,ラウリル硫酸ナトリウム入りの歯磨きを使っているのが悪いのではなく,単純に味蕾が経年劣化で摩耗しているからです。江戸時代やその前の時代の人たちは,大人になっても子供の味覚のままだったんでしょうか?もしそうなら,そんな状態で今よりアクのたっぷり入った野菜を食べていたなんて,昔の人はどれだけ我慢強かったんでしょう?って,そんなこともないですよね。苦みのあるものや辛みのあるものが「大人の味」とされていたのは,昔から変わらないわけです。

このように,他のものが原因のことまでラウリル硫酸ナトリウムに責任を押しつけている人たちはたくさんいます。騙されないように気をつけていきたいものです。

【追記2】
このエントリではラウリル硫酸ナトリウムが味覚に与える影響は皆無であるかのような記述をしてしまいましたが,これは間違いでした。詳細はこちらのエントリにありますので,ご参照下さい。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 16:48:34 | Trackback(0) | Comments(10)

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