■プロフィール

ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

■最近の記事
■最近のコメント
■最近のトラックバック
■月別アーカイブ
■カテゴリー
■FC2カウンター

■ブロとも申請フォーム
■ブログ内検索

■RSSフィード
■リンク
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
無農薬野菜はどのくらい危険なのか
ちぃさんからまたコメントをいただきました。せっかくですので,エントリにします。

> 私はぷろどおむさんのこの記事を見るまで、無農薬野菜が危険といわれてるなんて全然知りませんでした。目からウロコを見て、農薬を使うことが悪いことではないというのはわかりましたが・・。それで、自分でネットで調べてみると、このサイトを見つけました。一度見てもらえますか?
> http://www.daichi.or.jp/blog/ebichan/2008/07/post-146.html
> ここの方は、無農薬の危険を認めながらも、でもやっぱり比較すると農薬を使うなら無農薬のほうがいいといってますよね?


読ませていただきました。この方の言ってることは非常にもっともで,「無農薬だから危険」なんて発想は,「農薬を使っているから危険だ」などと安易に判断するのと同じくらい間違ったことだと私も思います。もちろんこの方のように細心の注意を払って病虫害から作物を守ることが全ての無農薬・減農薬野菜について行われていれば,という前提もありますが(^^;; 生物農薬とか天然農薬などと呼ばれるもの(この方の指摘した研究で対象になったたんぱく質以外にも,様々な種類の低分子化合物(当然発ガン性が疑われている物質も含まれています)も知られています)の存在量も決して多いわけではないのも事実ですし,どちらがアレルギー症状の原因となるかも人それぞれでしょう。ぶっちゃけた話をすれば,どっちもどっちなわけです。あとはコストを支払う方の価値観の問題です。

「目からウロコ」の著者の方も仰っていますが,私自身がこの手の話をする必要性を感じる理由は「どう転んでもゼロリスクはあり得ない」ということを訴えるためです。要するに「無農薬だから安全,天然だから安全」という安易な発想こそが最も危険,と言うことです。「現状で正しい用法で用いれば十分な安全を確保できる農薬を『危険だ危険だ』と騒いでいる人が多いですが,無農薬にも同程度の危険が潜んでいるんですよ?どうします??」という論法はちょっと意地悪かもしれませんが,このような比較は本来必ず行わなければならないはずのものです。複数の並列した事象に対し,各々のリスクとベネフィットを比較して考えることこそ,リスクマネジメントの基本であり大前提です。

> こういうニュアンスの文章は、本当によく見かけます。同じものをまったく正反対の説を唱えて。。それは、どっちかが擁護して、どっちかが正論を言ってると思うんですが、私みたいに何も専門的な知識のない人には、どっちもが正しく聞こえるし、本当にわからなくなるんです。左右される自分にも嫌気がさしますが。。


少なくとも今回のケースに限って言えば「どちらが正しいのか。どちらが正論なのか。」ではなくて,「どちらの見方も正しい」が正解です。なぜなら「どちらも十分に安全であることにかわりはない」からです。混乱するのは「どちらかが完全に安全であって欲しい」と有りもしない「ゼロリスク」を求めてしまうからであって,正しく行えばどちらの方法で育てても十分な安全が確保されていることに違いはありません。

しかし,農薬を正しく用いることで,このブログの方ほど細心の注意を払わなくても基本的に効率よく大量に十分に安全な作物を安価に手に入れることが出来ますし,現在流通している栽培品種のほとんどが農薬使用を前提に作られた品種であることは動かしがたい事実です。もちろん多大な労力と細心の注意を持ってすれば,農薬無しでもそれらの栽培品種を一定以上の収率で収穫することが出来ます。しかし,当然ですが必要なコスト(労力含む)が膨大になるのは免れません。ですから,この点に置いて無農薬栽培は大きなディスアドバンテージを負ってしまうことになり,必然的に高価な商品になってしまいます。ですが,そのことに相応の価値が認められるのであれば,高価な商品であったとしても,それに見合った大きな安心が得られることになるのでしょう。

しかし,農薬を正しく使わないことで残留農薬問題や生育異常・品質劣化などが起きるように,無配慮な上っ面だけの無農薬・減農薬栽培は,消費者が高いコストを支払う価値のないものである可能性があると言うことも忘れてはならない,と言うのが今回の話における重要な論点です。また,本題とはちょっとずれますが,農薬や化学肥料の存在無しに,現在地球上に住む多くの人々が必要としている食料を確保するのは事実上不可能であり,労力をふんだんに使った非効率な生産様式である無農薬栽培による食糧供給は,非常に贅沢な行為であることも念のため指摘しておきます。

本題に戻りましょう。

結局のところ正しく農薬を使わないケースと細心の注意を払って行われた無農薬栽培で勝負すれば後者が勝り,正しく農薬が使われたケースと上っ面だけなぞった無農薬栽培で勝負すれば前者が勝る。ただそれだけの話です。正しく農薬を使われたケースと,細心の注意を払って行われた無農薬栽培で勝負すれば,こと「安全」という面だけを考えれば,あとは各消費者個人の好みの問題だと私は思っています。

しかし,再三注意をさせていただきますが,ラウリル硫酸ナトリウムにまつわる様々な業者の存在を見てもわかるとおり,「安全・安心」を求める消費者の心の隙間をついて小銭を稼ごうとする業者が後を絶たないのも事実です。

その商品が安全なのか,安心できるものなのかは,カテゴリー分けや一個や二個のパラメータで判断できるほど安易なものではなく,商品それぞれで判断しなければいけないものです。「ラウリル硫酸ナトリウムを使っているから安全」「使ってないから安全」などという安易なものではなく,商品それぞれについて判断することが求められていると思います。

商品それぞれについて安全・安心を見極めるというのは非常に難しいことではありますが,私なりの判断基準として持っているものを一つだけご紹介します。それは

他者(社)を貶めているセールストークは疑え

です。

自分(自社)の製品に自信があれば,その利点を訴えるだけで話は済みます。「この点は劣っているかもしれないが,この点にポイントを置いた商品を作っているんだ」などと自分たちの欠点を認めていれば,さらにポイントアップです。自分たちの商品に自信を持って誠実に向かい合っている人(会社)であれば,多少の欠点があっても動じないものです。

一方で他者を貶めることによって自分の相対評価を引き上げようとする態度は,自分自身への信頼の無さから引き起こされがちなものです。「このシャンプーを使うと髪が美しくなる」「この歯磨きを使うと歯が白くなって虫歯になりにくい」「この野菜はおいしい」「この商品は安い」などなど絶対的な自信を持って訴えることの出来るポイントがあれば,「よそのシャンプーを使うと羊水が臭くなる」「よその歯磨きを使うと癌になる」「よその野菜を食べるとアレルギーになる」なんてことは言わずに済むはずです。それなのに,どうして他者を貶める必要が出てきてしまうのか。それは言外に自分の製品が,消費者の支払うコストに対して分不相応であることを認めていることに繋がってはいないでしょうか。

まぁ,上記の判断基準は多分に私の偏見が混ざっているので,常に通用するとは限りません(^^;し,純粋に私の個人的な趣味・嗜好からの判断基準です。なので,みなさんがこの基準に従って行動したことで不利益を被ったとしても,とても補償できるようなものではありません。その点ご容赦くださいませ。

というわけで,相変わらず長い文章にお付き合い下さいましてありがとうございます。このところ,コメント欄での皆さんからの話題提供におんぶにだっこしている状況が続いておりますが,今後もそんな感じになるかと思います<ぉぃ ので,ご協力よろしく御願いいたします。

では,今日はこんなところで。

スポンサーサイト

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 20:05:53 | Trackback(0) | Comments(4)
ラウリル硫酸ナトリウム入り歯磨きは味覚を破壊するのか
とおりすがりさんからコメントをいただきました。ありがとうございます。またいつものように長くなったので,エントリを起こします。

> 私はラルリル硫酸ナトリウムが入っていないけども
> メントールは使っている歯磨き粉を使っています
> メントールが入っていますので、もちろん清涼感があります
> 口をゆすいだ後に飲食をしても味は全く変わりません
> 以前使っていたラウリル硫酸ナトリウムが入っている
> 歯磨き粉を使っていた時は、オレンジジュースを飲んだら
> 味が変わってしまい(苦くなる)感覚が戻るのに数十分かかっていました
>
> 現在の歯磨き粉に替えてからは、オレンジジュースを飲んでも
> 苦くなったりしません 
> その違いに驚いています
> 従って、私の感覚では
> メントールではなく、ラウリル硫酸ナトリウムによる
> たんぱく質変性作用(薬品やけど)だと思います

この手の業者が良く言っているように味覚の異常がたんぱく質変成作用が原因だとすると,数十分で回復するのはすごすぎると思うんですよね。そんなに急速に回復できるのに,長期的に利用すると味蕾が破壊されるというのは,にわかに信じがたいわけです。というわけで,とおりすがりさんがご利用になっているものについては,ちょうど良い量にメントールが調整されているのでは?と思いました。

ということでもう一度調べ直してみたら,そのものずばりの論文がありました。

味覚閾値に与える練歯磨及びその成分の影響
The journal of Wayo Women's University 24 pp.1-15 19830331
松下真実子,宮川豊美,川村一


というわけで,お詫びです。この論文の実験結果によると,確かにラウリル硫酸ナトリウムも味覚に影響を与えるようです。この論文の実験によると,甘味,塩味,苦味について約60 %,酸味でも25 %の人が味覚が鈍感になるという影響を受けています。

一応,味覚に一番影響を与えるのは含まれている香料(主にメントール)という結果が得られている(甘味と苦味については100%,酸味40 %,塩味20 %の人が影響を受けた)のも事実ではあるのですが,どうもその辺を間違って認識していたらしいです。大変申し訳ありませんでした。やはり記事を書く度に確認をしないといけませんね。反省します。

しかし,この論文の前半部分で1949年に行われた味覚閾値調査(味覚の鋭敏さを見る調査)と,今回行われた味覚閾値調査を比較しているのですが,その結果有意差が見られなかったとしております。

つまり,ラウリル硫酸ナトリウム入り練り歯磨きを長期間使用したことによる味覚異常の兆候は見られておらず,「現代人はラウリル硫酸ナトリウム入り歯磨きによって味覚が破壊されている」という一部業者の主張は明確に否定されていることになります。

また,練り歯磨きによる味覚閾値への影響のほとんどは閾値が高くなる=味覚に対して鈍感になる方向に働いています。それなのにとおりすがりさんのように「苦みを強く感じる」のはどうしてなのでしょう?

それはどうやら回復時間の差が影響しているようです。

論文中で行われた味覚回復時間についての結果によると,ラウリル硫酸ナトリウムによる味覚閾値上昇から回復する時間は,他の三成分が回復に15分~30分かかっているのに対し,酸味だけは3分以内に75 %の人が回復しています。つまり元々影響を受けにくい酸味が素早く回復するため,より酸味を強く感じすぎてしまうのではないでしょうか。そのために味のバランスが崩れ「変な味」と思ってしまう(なぜ「苦味」と感じるのはわかりませんが)のではないでしょうか。

香料による影響はどうでしょう?こちらは塩味と酸味が15分以内に100 %の人が回復していることから,酸味を強く感じすぎてしまうかもしれません。苦味への影響は15分以上続く場合もあることから,香料だけの使用では苦味を感じにくくなるのかもしれませんが,甘味の回復にも同程度の時間がかかっているので,やはり酸味を強く感じすぎる傾向になりそうです。とすると,やはり通りすがりさんが使われている歯磨きは,清涼感を感じつつも味覚に影響を与えにくい絶妙なブレンドがなされているのかもしれません。

では,最大の問題であるこの味覚の異常の原因はどこにあるのでしょうか。メントールを主成分とする香料が与える味覚への影響は,メントールそのものが持つ刺激性や冷涼感と嗅覚に与える影響で説明できそうな気がします。しかし,ラウリル硫酸ナトリウムはどうなのでしょうか?とおりすがりさんが仰るように,たんぱく質変成作用により味蕾が破壊されているのが原因なのでしょうか?

ここからはだいぶ推論が混じってきますので,突っ込み大歓迎なのですが,まず味蕾そのものが破壊されているという説には大きく異を唱えたいと思います。

理由の第一は,ラウリル硫酸ナトリウムが歯磨きに使用されていなかった時代と一般的に使用されている現代において味覚閾値に差が見られなかったことです。これにより,長期利用における味覚への影響は明確に否定することができます。

次に,味覚によって影響が異なっていることから,味蕾そのものではなく味覚を感じる受容体に個別の影響を与えていると推測できる点,また40 %もの人が味覚の異常を感じていないことから,それほど強力な作用が与えられるとは考えられないこと,さらに味覚の種類によっては短い時間で回復している点にも注目したいところです。

界面活性剤はこのブログでも何度か説明してきましたが,たんぱく質などの表面に吸着するという性質を持っています。ですので,この影響により一時的に受容体が妨害を受けているために味覚に変化が起きると考えるのが,一番筋が通っているように感じます。

ところで,人間はどのように味を感じているのでしょうか。こちらのサイトで詳しく説明されていますので,どうぞご覧下さい。

こちらの説明によりますと,塩味はナトリウムチャンネルが感じ,酸味はpHの影響(水素イオン濃度)を感じ,甘味と苦味についてはG蛋白共役受容体(G protein coupled receptor(GPCR))という部分が味覚成分をキャッチすることにより感じています。

ラウリル硫酸ナトリウム水溶液はほぼ中性ですので,pHにそれほど影響を与えません。そのため,酸味に強く影響を与えないという実験結果との間に大きな矛盾はないと思います。

また,ラウリル硫酸ナトリウムが舌表面に吸着していた場合,陰イオンである硫酸基を外側に向け,疎水性の高いアルキル鎖を舌表面にくっつけた形になっていることが想像できますので,陽イオンであるナトリウムと結びつき,塩味を感じにくくさせる効果が期待できます。水素イオンも陽イオンではありますが,硫酸基は強酸なので口中の条件下では解離しやすいため,酸味には影響を与えにくいのでしょう。

甘味や苦味はより嵩高い分子が味覚を感じる原因物質となることが多いので,純粋に立体的な妨害を受けていそうですし,疎水性総合作用による吸着をしているのであれば,味蕾表面から洗い流されるのにも時間がかかりそうです。

というわけで,歯磨きと味覚の関係についてまとめます。

1) ラウリル硫酸ナトリウム入り歯磨の長期使用による味覚鈍化などの影響は存在しない。
2) 歯磨き成分のうち味覚に最も影響を与えるのは香料(主成分メントール)。次がラウリル硫酸ナトリウム。
3) 香料は甘味と苦味,ラウリル硫酸ナトリウムは甘味,苦味,塩味を一時的に鈍感にする。
4) 一時的に味覚が鈍感になる理由は,香料の場合はメントールなどの持つ刺激作用と嗅覚に対する影響,ラウリル硫酸ナトリウムの場合は界面活性剤分子が味蕾表面に吸着するためと推測できる。



というわけで,個人的には長期的な影響は存在せず,短時間だけの影響と言うことであれば,オレンジジュースは歯磨き前に飲むようにするだけで,いろんな問題が解決しそうに思います。

まぁ,どうしても歯磨きをしてからオレンジジュースを呑みたいというのであれば別ですが,普通は飲食をする直前に歯を磨く人は少数派だと思いますので,実用上あんまり害は無いかと思います(^^) というわけで,あとはみなさまの趣味・嗜好とご予算にお任せします。

いつものようにこの件に関しても,ご意見・ご質問大歓迎です。どうかよろしくお願いいたします。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 18:07:22 | Trackback(0) | Comments(11)
ラウリル硫酸ナトリウムはどのくらい洗浄力が強いのか
浅葉さんからご質問をいただいたのですが,いつものように長くなったのでエントリにします。

> 最近こちらのブログにたどり着いたのですが、科学屋さんとして意見を伺えますか。

科学屋と言うほど知識の幅が広くない単なる化学屋ですが,がんばって回答させていただきます。

> シャンプー解析ドットコムの管理人さんは、ラウリル硫酸ナトリウムがベースのシャンプーは洗浄力が強すぎるのでよくないとおっしゃっています。これを示すような実験結果などはあるのでしょうか?

この手の話で「ラウリル硫酸ナトリウムは洗浄力が強い」根拠として良くあげられているのが,ラウリル硫酸ナトリウムが石油系の汚れを取り除くためにも使われている,と言う話です。こんな話を聞くと「そんなすごい汚れを取り除けるんだから,なんて強力な洗浄力を持っているんだろう。きっと皮脂なんてあっという間に全滅だ!」と思ってしまいそうになります。

しかし,忘れてはいけないのは

洗浄力は汚れと下地の性質により大きく異なる

という事実です。

ですから,一概に工業製品(=金属表面)に付着した油汚れを落とす能力が高いからと言って,皮膚上の汚れに対して高い洗浄力を発揮するとは言い切れないのです。この辺は,先日の歯磨きのケースでも出てきた「(伝える側にある何らかの事情により)あえて伝えられていない事実」です。

さて,このような事実をふまえた上で,一般的な洗浄能力についてもう少し考えましょう。洗浄という作業において界面活性剤が重要な働きをするのは,「浸透」「拡張」「分散・乳化・可溶化」などと言われております。今回の問題では皮膚上の汚れを落とす場合に皮脂を落としすぎるかどうかがポイントだと思いますので,主に汚れを固体表面(今回の場合は皮膚にあたります)から汚れを分離する「拡張」過程に焦点を置きます。ちなみに「浸透」は布の内部などに洗浄液が染みこんで内部の汚れに接触する過程,「分散・乳化・可溶化」は一度固体表面から引きはがした汚れを洗浄剤ミセル中に取り込んで再付着させない過程を指します。

さて,本題に戻ります。「拡張」過程とは具体的にどういう状況かというと,下地と汚れの間に界面活性剤が入り込み,汚れと洗浄液の間の界面張力を低下させる過程です。界面張力というのは,それぞれの物質の間に存在する「接触面積を小さくしようとする力」を指します。つまり,二相間の界面張力が小さくなるということはその両者が「よりなじみやすくなる」ことになり,この界面張力を低下させる働きが強いことを「界面活性能力が強い」と表現します。

洗浄液と汚れとの間に存在する界面張力が,汚れとその汚れが元々ついていた下地との間の界面張力よりも小さくなると,汚れは下地上から引きはがされて洗浄液の方に引きずり出されます。引きずり出された汚れは,界面活性剤が作るミセルの中に取り込まれ,洗浄液中に拡散されます。これが,大ざっぱな洗浄のシステムです。

さて,ここでラウリル硫酸ナトリウムとステアリン酸ナトリウム(石鹸の主成分)界面活性能を比較してみましょう。いろいろな条件にもよりますが,実は界面活性剤単独を比較すると,ラウリル硫酸ナトリウム水溶液よりもステアリン酸ナトリウム水溶液の方が小さな表面張力を持ちます

ついでに言うと「拡張」過程の次のステップである「可溶化」の能力もアルキル鎖の長いステアリン酸ナトリウムの方が大きいことが期待できますし,可溶化に必要なミセルのでき易さを示すCMC(臨界ミセル濃度)もステアリン酸ナトリウムの方が圧倒的に低い値(ラウリル硫酸ナトリウム 7~8 mM, ステアリン酸ナトリウム 0.34 mM)を示します(参考資料:新版 界面活性剤ハンドブック)。ということで,ステアリン酸ナトリウムの方がラウリル硫酸ナトリウムよりも,秘める可能性としてはより強い洗浄力が期待できるのです。

もちろん,これらのパラメータはかなり理想的な条件での測定値であり,実際洗浄が行われる場面でこのような能力をフルに発揮できるかどうかはわかりません。また,共存する「ビルダー」と呼ばれるものの存在により,洗浄力が飛躍的に増大することも良くあります。というか,様々な状況に置ける洗浄力の強弱はビルダーの種類や量に依存すると言っても過言ではありません。

たとえばこのような実験結果があります。こちらでの結論は「合成洗剤と石けんの比較は無意味。異なる種類の合成洗剤の間の洗浄力の差や異なる種類の石けんの洗浄力の差の方が、合成洗剤の平均的な洗浄力と石けんの平均的な洗浄力の差よりも大きいため。」というものです。ここで使われた合成洗剤の成分について詳細はわかりませんが,中性の合成洗剤であればラウリル硫酸ナトリウムが使われている可能性は高そうです。

つまり,これはどういうことかというと

主原料の界面活性剤の種類だけで製品全体の洗浄力は類推できない

ということです。

ラウリル硫酸ナトリウムを使用した洗剤の方が石けんよりも広く利用されているのは,「洗浄力の強弱が水の状態に依存しない」ことが大きな理由となります。ご存じの通り石鹸は硬水中ではほとんど洗浄力を発揮しないのに対し,ラウリル硫酸ナトリウムなどは硬水中でも十分な洗浄力を発揮します。また前述の通り金属表面の油汚れに対してもラウリル硫酸ナトリウムは大きな効果を発揮するでしょう。

しかし,人間の皮脂汚れであれば,条件さえ整えば石鹸の洗浄力も充分大きいです。特にタンパク質汚れなどは場合によってはアルカリ性の石鹸の方が強いかもしれません。要するに洗浄力の強弱なんて言うものは使い方しだい,対象しだいと言うことです。

もしどうしても気になるようであれば,シャンプー解析ドットコムの管理人さんにそのような記述をした根拠を伺った方が話が早いかもしれません。もし教えていただけた場合には,私にもその内容を教えていただけると助かります。

私の力不足で,大した回答が出来ずに申し訳ありません。他にも何かあればお気軽にどうぞ。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 16:00:56 | Trackback(0) | Comments(4)
美味しんぼvsコンシェルジュ
おもしろい比較をしているページを見つけたのでご紹介

★★はたしてどっちが正しい?


まぁ,無農薬野菜の危険性がはっきり指摘されはじめたのは比較的最近の話なので(その筋では昔からあったけど),美味しんぼの初期の頃であれば,知らなくても仕方がないかなーとは思いますが,コミックのような媒体ではっきりこういう話を紹介してくれるようになったというのは,ずいぶん認識が広がってきたのかな?と思います。

ちなみにこの手の話は「目からウロコの化学物質30話」の第16話「無農薬を求めることは……」や,ブログ「やさしいバイオテクノロジー」の「農薬栽培野菜・減農薬遺伝子組換え野菜・無農薬栽培野菜・有機栽培野菜 どれを選びますか?」に詳しく書かれていますので,そちらをご覧いただく方がよいかな?と思います。

余談ですが,先ほど紹介したブログ「やさしいバイオテクノロジー」の書籍版もお薦めです。値段もわりと安いので,興味のある方はぜひどうぞ。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 12:30:23 | Trackback(0) | Comments(3)
図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み
図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み (How‐nual Visual Guide Book)図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み (How‐nual Visual Guide Book)
(2009/04)
津村 ゆかり

商品詳細を見る


このブログを読んでくださっている方に必須かどうかは結構微妙だったりするかもですが,ネタ切れで困っているところで見つけた非常によい本なので,ご紹介です。

著者の津村さんは技術系サラリーマンの交差点というブログも書かれている方です。このブログは私も専門としている分析化学関連の話題を丁寧に書かれていまして,非常に勉強になるためいつも読ませていただいております。この本のこともブログに書かれていたので,早速購入させていただきました。

出版社がコンピュータ関連の本で有名な秀和システムということで,中身の方も一見するとExcelやWordの入門書っぽい体裁になっております。内容もブログで紹介されていたとおり,1テーマが見開き2ページで紹介されるという形式になっており,専門書を読み慣れた身からすると多少奇異に感じますが,その代わりに分析化学という極めて広い分野の概要を知るためには非常によい作りだと感じました。

構成としては,基本用語や基本概念の説明から,試料の前処理法,いわゆる簡易分析法,分光分析(分子分光,原子分光,X線・電子線,質量分析,NMR),分離分析,電気化学分析,データ解析法という流れになっています。著者のご専門がクロマトグラフィーということで,GCやLCは他の分析法と比べると重きを置かれている感じがありますが,分析化学,特に企業の分析部門などで使われている分析法を広く浅く最新のトピックを交えながら紹介されています。

しかし「広く浅く」とは言うものの,単に表面をなでただけの雑学本とは一味も二味も違っています。その象徴的な部分は,データ処理の項でしょう。統計的に扱うために必要な概念についての解説はもちろんのこと,具体的な検量線作成方法についての説明も詳しいです。また,最近話題の「バリデーション」「品質管理」「不確かさ」「トレーサビリティ(=計量学的トレーサビリティ)」についてもきちんと抑えられており,まさにこれから分析化学の世界に入ろうとしている人,またはこれから分析化学の世界を知りたいと思っている人にとって最適な入門書なのではないかと思います。

著者の方も「はじめに」の項で書かれておりましたが,世間一般にあふれている「分析化学」の教科書は,平衡計算(pHとか錯形成とか)や二相間分配などの理論や計算にあふれているものがほとんどです。もちろん「分析化学の研究者」になるためには,これらの理論を熟知している必要があるわけですが,「分析化学を使う」ためには数式よりも具体的な手法やそれぞれの手法の適用範囲,得手不得手などについての方が重要になってくるのは当然です。今回ご紹介したこの本は,まさに「分析化学を使う」ための最初の一歩になりうると同時に,なんとなく興味はあるけど「そもそも分析化学って何?」と思っていらっしゃる方にも,最初の一冊としてぜひお勧めしたいと思います。

(090601 追記)
著者である津村さんからいただいた御連絡によりますと,本書に関する正誤表(PDF:1MB)が出ているようです。

「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」正誤表掲載のお知らせとお詫び


このエントリでもものすごく丁寧なコメントをいただきましたが,こちらの「お知らせとお詫び」も,びっくりするくらい丁寧で(^^; 津村さんの誠実さが非常に良く伝わる内容となっております。

ざっと見た感じ,致命的な間違いという感じのものはないように思いますが,ご購入された方は念のためご確認下さい。

テーマ:紹介したい本 - ジャンル:本・雑誌

本紹介 | 13:32:24 | Trackback(0) | Comments(3)
歯磨き粉の中のラウリル硫酸ナトリウムはどのくらい怖いのか
ちぃさんから再びコメントをいただきました。結構大事なことだと思いますし,いつものように長くなりましたのでエントリにしました。

> ラウリル硫酸ナトリウム入りのシャンプーやボディーソープなどは
> あまり過敏にならなくてもいいというのは教えてもらいましたが、
> 歯磨き粉に使われてるものはどうなんでしょうか。
> http://www.genkimura.info/hamigakiko.htm
> ここのサイトに詳しく書いてあり、
> 「このような石油系化学物質が4%含まれている歯磨き粉を口に入れた
> 直後、 口内濃度が40000ppm(1ppmは0.0001%)の濃度になります。
> 0.45ppmでヒアユの50%が死んでしまったという実験結果もあります。」
> と具体的に書いてあったので、ちょっと気になりました。

非常にありがちな不安を煽るためのセールストークですね。まず,もう一度「毒性を判断するには量の概念が重要である」ことを思い出しましょう。

と言っても,今回は「4 %」とか「0.45 ppm」とか書いてあるので,一見すると量的な部分についてもきちんと言及しているまじめな業者のように見えてしまいます。でも,そう思ってしまったとしたら,その時点で相手の誘導に乗っかって騙されはじめている証拠です。

重要なのはここで出てきている数字は「濃度」であって「絶対量」ではないと言うことです。化学物質の毒性を議論する際には,体内に取り込まれた物質の「絶対量」が問題になります。そして,それ以前に(この辺は後述しますが)そもそも比較するものが間違ってます。さらに細かいことを言えば「口に入れた直後、口内濃度が40000ppm(1ppmは0.0001%)の濃度になります」なんて話は「濃度」という観点から言ってもちょっと間違っています。

最後の点に関しては,とっさに勘違いしてしまいやすい部分なので,一般の方々が間違ってしまうのはよくわかります。でも,もしも学生がこんなことを言い出したとしたら,居室に呼び出して二時間くらい説教したいレベルです。

なので,化学系の学生とかこの手のものを専門に扱う業者といった「専門家」あるいはこれに準じたレベルの人(あるいはそのように自称している人)であるにもかかわらず,こういうことをしれっと言う人がいたとしたら,その人は「濃度」という概念をそもそも理解していない専門家と呼ぶには値しないレベルの人であるか,

何かの理由で相手に誤解を与えたい人

だと思います。

本題に戻りましょう。

こちらはラウリル硫酸ナトリウムの製品安全データシート(MSDS)です。これによると,ラットにおけるラウリル硫酸ナトリウムの経口半致死量は1,288 mg/kg とあります。つまり体重50 kgの人の場合,1,288 x 50 = 64,400 mg = 64.4 gにほぼ相当すると考えられるわけです。たとえ4%含まれていたとしても,一回に使う練り歯磨きはせいぜい1 g程度です。ということは,その中に含まれる量は0.04 g = 40 mg程度というわけです。文字通り桁違いの値であることがご理解いただけると思います。

また,このMSDS中に「魚毒性:水生生物に有害」という項目が載っています。なんでわざわざ別項目になっているのでしょう。それは,水の中に生きる生き物と陸に生きる生き物では「毒としての働き方が違う場合がある」からです。そして,これがこのセールストーク最大の問題点なわけですが,ラウリル硫酸ナトリウムをはじめとする界面活性剤が魚などに対して毒性を発揮するシステムは,我々が普通イメージする「毒」の働き方とは全く違う,つまり水生生物と陸生生物で毒としての働き方が違う最も典型的な例であるということです。

つまり,どういうことかと言いますと,石鹸を含む界面活性剤は「界面活性」を持っている以上,水中に存在する固体を狙って吸着してしまいます。なので,当然魚介類のエラへも界面活性剤は選択的に吸着してきます。これによりエラ表面の性質が変化し,魚介類は酸素吸収を妨げられて窒息死するのです(参考PDF)。要するに「0.45ppmでヒアユの50%が死んでしまったという実験結果」は,

日頃からエラ呼吸をしている人間以外とは直接比較できない値

と言うわけです。

> 口の中だと粘膜吸収になるので、危険だと・・・。

というわけで,粘膜吸収だけであれば,前述いたしました経口半致死量64.4g(体重50kgの場合)と比較すればよいと思います。これだけの量のラウリル硫酸ナトリウムを,4 %しか含まないような練り歯磨きから摂取しようと思うと1,610 gの練り歯磨きを一度に食べなければいけないことになります。実際問題として,どれだけ膨大な量なのかはご理解いただけると思います。

> 親が使ってる歯磨き粉は、アムウェイのものです。
> どういう成分かはわからないけど、あわ立ちがいいので、必ずラウリル
> 硫酸Naは入っていると思います。
>
> 歯磨き粉には入ってないものを使うほうがいいでしょうか??
> 教えてください、お願いします。

というわけで,全く気にする必要はないと思います。個人的にはコストパフォーマンスと,味や香,あとは主にその時の気分で選んでいますが,だいたいその日の特売品を選んでいます(^^) ご参考になりましたでしょうか?

それにしても,本当にこの手のセールストークはよく考えられていると思います。今回のものについても,「歯磨き粉に石油系化学物質が4%含まれている」「0.45ppmでヒアユの50%が死んでしまったという実験結果がある」ということは(未確認ですが)瞬間的に嘘だと証明するのは難しいわけです(実験結果があるのであれば,論文を引用して欲しいと個人的には思いますが)。口内濃度の件についても,ちょっとした勘違いをしているレベルで済まされる程度でもあります。つまり,彼らがやっていることは何かというと,

「ラウリル硫酸ナトリウムを飲み込んだ時と,魚の住む水の中に入れた時では
毒性が働くシステムが違う」という一点だけを黙っている

だけなのです。これに「彼らの製品なら安全である」という結論を結びつけることによって大いなる誤解を消費者に与え,極めて高額な商品(100 gの歯磨きが2,100円というのは私には理解できません)に値段相応の価値があると思いこませることに成功してしまっているのですね。

本当に心の底から感心してしまいます。

また何か不安なことがあればいつでもどうぞ。

【追記】
ついでに,よく「ラウリル硫酸ナトリウムによって味蕾が破壊される」という記述をネット上で見かけます。確かに歯磨きをした直後にものを食べると不味く感じる経験をした人は多いでしょうから,この話に真実味を感じてしまう人も多いかと思います。

でも,この現象の犯人はラウリル硫酸ナトリウムではなくて,清涼剤として入っているメントールです。フリスクやミンティアと言ったものを食べたあと,他のものを食べてもおいしく感じませんよね。じゃあ,フリスクやミンティアにもラウリル硫酸ナトリウムが入っているんでしょうか? そんなわけはないですよね(^^;

大人になれば味覚が鈍感になる=苦いものでも食べられるようになるのは,ラウリル硫酸ナトリウム入りの歯磨きを使っているのが悪いのではなく,単純に味蕾が経年劣化で摩耗しているからです。江戸時代やその前の時代の人たちは,大人になっても子供の味覚のままだったんでしょうか?もしそうなら,そんな状態で今よりアクのたっぷり入った野菜を食べていたなんて,昔の人はどれだけ我慢強かったんでしょう?って,そんなこともないですよね。苦みのあるものや辛みのあるものが「大人の味」とされていたのは,昔から変わらないわけです。

このように,他のものが原因のことまでラウリル硫酸ナトリウムに責任を押しつけている人たちはたくさんいます。騙されないように気をつけていきたいものです。

【追記2】
このエントリではラウリル硫酸ナトリウムが味覚に与える影響は皆無であるかのような記述をしてしまいましたが,これは間違いでした。詳細はこちらのエントリにありますので,ご参照下さい。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 16:48:34 | Trackback(0) | Comments(10)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。