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ぷろどおむ

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元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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疫学:バイアスって何?
さて,今回は「バイアス」についてお話しさせていただきます。

「バイアス」というのは,日本語では「系統誤差」なんて訳されておりまして,ある特定の測定方法をとった時に「常に生じている真の値からのずれ」のことを言います。

この言葉は,単に疫学だけの用語ではなく物理的な長さや重さの測定,私に近い分野で行きますと分析化学の分野でもほぼ同様の意味合いで使われています。

普通一般的に「誤差(計測科学などの分野では,最近は「不確かさ」という言葉を使うことになってますが)」という言葉を聞くと,いわゆる「ばらつき」をイメージされる方が多いんじゃないかと思いますが,そちらは「偶然誤差」と呼ばれており「バイアス=系統誤差」とは明確に区別されて使われています。分析化学の講義などでは必ず最初に習うんですが,この辺の話は「精度」と「確度」の違いとしても説明されます。すなわち,「精度が高い」という場合は「ばらつきが小さい」ことを意味し,「確度が高い」という場合は「真の値からのずれが小さい」ことを意味します。

一見,どちらも同じく真の値からのずれを表しているように思えますが,偶然誤差は調査の対象とする標本の数(=測定数)を増やすことで,得られる値の精度を高めることが可能となります。それに対し,系統誤差は「生じる原因を突き止めなければ解消できない」ずれを発生させるため,測定方法を注意深く検討する以外に対処法がありません。

さて,それでは疫学調査の場合どのような原因でバイアスが生じるのでしょう。バイアスはその発生原因によって,いくつかのものに分類されます。ものの本によりますと,57種類もの多くに渡って分類をした研究もあり「たぶんそれでも足りないだろう」などといった記述もあるのですが,さすがに疫学を生業としていない我々にはそこまで細かな分類は理解の妨げになるだけです。なので,ごくごく大ざっぱに分類し,主立ったものについて,そのバイアスがどのような場合に生じるのか,簡単に説明させていただきたいと思います。

選択バイアス
(1) 自己選択バイアス:疫学調査をする際には,どうしても被験者に対するインタビューが重要な要素となります。そして,その調査に協力してくれるかどうかという部分については,ほとんどの場合被験者の意志が存在します。そのため,実際に研究の対象としている母集団よりも,よりその問題に対して積極的に興味を持っている層が抽出される可能性が高くなり,結果に対しても何らかのずれが生じる可能性があります。
(2) 健康人バイアス:たとえばディスプレイから発生する電磁波の影響を調査しようとした場合,その対照群となる集団は必然的に現在労働に従事していない人たちが多く含まれることになります。社会全体を母集団として考えた時,「元気で働いてる人」「元気だけど働いていない人」「元気ではないので働けない人」の集団は多数存在しますが,「元気ではないけど働いている人」という集団は非常にまれです。そのため,「働いている人」と「働いていない人」の集団に分けた場合,必然的に「働いている人の方が健康である確率が高い」ことになります。特にこれは肉体労働系の人たちを対象にした場合顕著に表れることが知られています。
(3) 検出バイアス:ある集団を特定する際に,何らかの条件が必要な場合に生じやすいバイアスです。たとえばCTスキャンの結果,初めてわかるような症例の患者について,その症例と医療放射線被曝の関係を調べようとしても,当然ですがその症例を持たない患者よりも被曝量は大きく出ます。しかし,この結果をみて,医療放射線被曝がその症例の原因であると断定するのは大きな間違いであることも,すぐにわかると思います。
(4)罹患者ー有病者バイアス(Neymanバイアス):ある症例の原因ではないかと考えられる要因に暴露した後,長期間にわたって調査をした場合に死亡した人や回復した人が調査から漏れてしまうバイアスです。例えばアメリカで行われた,精神分裂病により入院している患者の数年後についての調査では,非常に悲観的な結果が報告されていたりもします。しかし,初回通院患者を対象に同様の調査を行うと8割前後の人が回復し,通常の社会生活を営んでいるという調査結果も知られています。

また,この他ボランティアとして積極的に調査に参加してくれる人は,比較的収入が高く健康的で文化的な生活を送っており,医師などの指示に対しても従順であることも知られており,このような要素がバイアスの原因となることも指摘されています。

情報バイアス
(1) 想起バイアス前回のエントリでも少し触れましたが,その暴露が自分の経験した事例の原因であるという仮説を調査対象者が知っていた場合などに起こる,ねじ曲げられた過去の記憶により生じるバイアスです。もちろん単純な覚え違いなど,基本的に曖昧にならざるを得ない「記憶」というものに頼って調査をする以上避けることが難しいバイアスになりますが,実はこのバイアスは非常に危険です。なぜなら,これは本人の知識や偏見などにより発生すると同時に「測定者の質問の内容・形式などからも発生しうる」バイアスであるからです。悪意のある測定者が,利用しようと思えば,容易に利用することのできるバイアスであることを我々は覚えておくべきだと思います。
(2) 誤分類バイアス:診断や要因推定の誤りが引き起こすバイアスです。誤診断により,症例であるべきものが非症例として分類されたり,その逆が引き起こされる可能性があります。
(3) 回帰希釈バイアス:要因の暴露量や症状の重さを数値として測定できるような場合,その測定値が持つばらつきの大きさが,両者の相関関係を見かけ上弱いものとしてしまうようなバイアスが生じます。

交絡バイアス
たとえばAという要因とBという症例に対して調査を行った場合,関連性があるように見えたとします。しかし,実はその結果はAの要因とBの症例に関与する第三の要因Cが関係していることがあります。この時Cを「交絡因子」と呼び,これにより生じるずれを「交絡バイアス」と呼びます。

交互作用バイアス
しばしば交絡バイアスと混同される場合があるようですが,本来は二つの要因AとBが同時に起きた場合に症例Cに対する影響が大きく変化するような事例を指します。

この他にも,ある集団(年齢層など)に特異的な影響が存在している場合に生じるコホートバイアスや,生態学的研究デザインを採用した場合に生じやすいバイアスなど,様々なバイアスが調査結果には付随してきます。そして,そのバイアスをどうやって減らすかということを疫学者の人たちは日々考えて実施しています。しかし,これまで勉強してきたとおり,コストの面や調査時間の制約など様々な要因により完璧な調査を行うのは非常に困難です。

ですので,我々が疫学調査結果を見る場合には,その調査がどのようにして行われたのかに注意をしなければいけません。

まず第一に,調査対象となった人数(標本数)はどのくらいなのか,症例者と非症例者の割合はどうなっているのか。暴露群と対照群の割合は。前向き研究なのか,後ろ向き研究なのか。どのような手法(インタビューによる調査なのか,公的な統計データを利用したものなのか)により得られたデータなのか。最低限この位のことを知ってから,眉につばを塗るかどうか決めても決して遅くはありません

むやみにマスコミの煽り報道に踊らされたりしない冷静な消費者でありたいものですね。

というわけで,次回はいよいよ電磁波に関する疫学調査の結果について,いくつか見て行ければいいなと思います。

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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

雑学 | 18:53:57 | Trackback(1) | Comments(0)

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