投稿日:2007-11-16 Fri
できます。ただし「ものすごく大量に使えば」ですが(^^;;
いわゆる石けん本の中には,「水酸化ナトリウム溶液をこぼしても,お酢をかければ大丈夫」という記述があったりするようですが,家庭で使われている食酢を多少振りかけたくらいではどうにもなりません。
仕事が忙しくて一ヶ月以上にわたって放置してしまっておりましたが,リハビリをかねて今回はこのお話について,少々説明させていただきます。
アルカリの影響を消すためには「中和」をしなければいけないのは皆様ご存じの通りですが,それに必要な酸の量は純粋に「物質量(分子数,モル数)×価数」で決まります。
物質の量を表すために用いられる単位としては,一般的には「重さ」を使うのが普通だと思います。しかし,化学の世界で,特に中和反応をはじめとする化学反応を考えるためには重さで考えていては,なかなか理解できない場面が多くなります。
ここで,出てくるのが「モル(mol)」という単位です。
モルという単語を聞くと「化学嫌い」を自称されている方の中には,もうこれだけで嫌になってくる方もいらっしゃるかもしれません。でも,化学を理解する上で「モル」という概念は非常に画期的なことでしたし,それほど難しい話というわけでもないんです。「鉛筆1ダースは,鉛筆12本のこと」ということが理解できていれば,モルの概念も必ず理解できます。
さて,化学黎明期の頃,物質同士を反応させた時に起こる現象の量的な関係を「重さ」だけで考えていては理解できないことがわかりました。そこから,様々な研究が進められた結果,世の中に存在するもの全てはいくつかの原子が組み合わされてできる「分子」から構成されていると言う概念が成立し,化学反応はその分子同士により起こっているという考え方が広がりました。そのため,様々な化学物質の量を「重さではなく数で把握する」必要が生じてきたのです。
そこで当時すでに測定されていた原子量をそれぞれの分子の構成に基づいて足し算し,得られた「分子量」に重さの単位である「グラム(g)」をつけ,その重さの中に含まれる分子の数を「1モル(mol)」と定義しました。
物質1 mol中の分子数は一定で,6.02 x 10^23 個と測定されており,この数を「アボガドロ数」と呼びます。(現在,モルはSI単位系の基準である7単位の一つとして認定されており,アボガドロ数も「アボガドロ定数」と呼ばれています。)
ですので,簡単にモル数を求めるには,その物質の重さを分子量で割ってあげれば良いことになります。たとえば苛性ソーダは分子量が40(=Na 23+O 16+H 1)なので,500gの苛性ソーダは500÷40=12.5 molとなります。これに対し,酢酸の分子量は60と苛性ソーダより少し大きいため,同じ500 gの酢酸を持ってきても約8.3 molにしかならないので,中和しきれないことになります。
と,書きましたが最初に書いた式の中に入れた「価数」の事をまだ触れていませんでしたね。価数というのは,その酸あるいはアルカリ一分子が,いくつの水素イオン(H+)あるいは水酸化物イオン(OH-)を放出するかという意味になります。酢酸と苛性ソーダは,それぞれ一個ずつ放出しますので,一価の酸と一価のアルカリと言うことになります。なので,特に何も考えなくてもこの両者で起こる中和反応については,モル数だけで考えることができます。
しかし,クエン酸のように二個の水素イオンを放出することができる二価の酸などが絡んでくると話が別です。この場合は,先ほど話の出た12.5molの苛性ソーダを中和するのに必要なクエン酸は12.5÷2=6.25molとなります。
というわけで,苛性ソーダ500 gを溶かした溶液を中和する時に必要な酢酸の重さは,60×12.5=750 g,苛性ソーダ10 g辺り15 gの酢酸で中和することができます。
た・だ・し,
ここで勘違いしてはいけないのは,家庭で使われている食酢中には通常
ということです。
つまりお酢1 L中には30 g程度しか酢酸が含まれていませんので,30÷60(酢酸の分子量)=)0.5 mol。つまり,これを使って12.5 molのアルカリを中和するためには(12.5 mol÷0.5 mol/L=)
ちなみに時々「苛性ソーダは強アルカリで,酢酸は弱酸だからどうやっても中和できない」と誤解されている方もいるようなのですが,強アルカリと弱アルカリというのは,水に溶かし込んだ時に,入れた量のうちどのくらいが解離してOH-イオンを発生させるかということを表現しています。たとえば,苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)は,水に入れると100%解離して全てがOH-を作り出すので強アルカリ,アンモニアなどは一部分しか解離しないので弱アルカリに分類されます。
酸の場合も同様で,お酢の原料である酢酸は水に溶かしても一部分しか解離しないために弱酸と呼ばれているだけです。なので,酢酸も苛性ソーダのような強アルカリと反応させれば,酢酸がどんどん中和されて反応が進み,存在する全ての酢酸が中和が終了するまで使われます。これは塩酸などの強酸と全く同じです。なので,「加えた量が十分であれば」酢酸でも苛性ソーダの中和は可能です。例えば,氷酢酸と呼ばれる非常に濃い酢酸(98%以上)なら765g前後と,十分現実的な量で中和が可能です。
なお,水酸化ナトリウムの希釈に必要な水の量について,別のエントリで計算してます。よろしければご一読ください。
ちなみに,今回はあえて「同位体」の話とか,イオン結合性化合物や金属などの場合の「分子量(?)」とかそういう話は簡単のために無視しております。というわけで,この手のキーワード絡みでの突っ込みは,なにとぞご理解ご容赦をお願いいたします(^^;;;;;;;
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