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ぷろどおむ

Author:ぷろどおむ
元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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「食べたら死ぬ」ほどの放射能とはどのくらいなのか

懸念していたとおり,新潟産の魚介類に対する風評被害が広がっているようですね。個人的にはそこまで気にするのであれば,ラドン温泉の利用は全国的に停止した方がいいと思います。


ところで,「食べたら死ぬ」くらいの放射能を日常食べている程度の量の食品から得るためには,どのくらいの放射能が含まれた食材を食べればよいのでしょう。また,その規模の被害が起きるためには,どのくらい大きな放射能漏れが起きる必要があるのでしょうか。多少不謹慎な気がしますが,がんばって計算してみましょう。


最初,「食べた瞬間に死ぬ」くらいの放射能を持っている食材について計算しようと思ったのですが,そんなにすごい放射能を持った状態(100%致死量が7 Svと言われています)で,お米(稲)や野菜,魚,肉(豚,牛)などが生きて収穫され,食卓にやってこれるとは到底思えないことに気がつきました。


なので,今回は慢性的に放射能を摂取し続けた場合について考えてみます。


とりあえずお米。だいたい1合が150gで、一膳が0.5合くらい。ということで,一日に1.5合=225 g食べるとすると,一年間では約82 kg。原発や再処理工場からの影響ということで考えると、混入してくる核種で一番実効線量が高いのがセシウム137の1.30E-05 mSv/Bq。


原子力関係の仕事に従事していない一般人の年間線量限度が1 mSvなので,ここに達するために必要な放射能は


1 mSv / 1.30E-05 mSv/Bq = 7.69E04 Bq


この線量をお米 82kgから得るとすると,お米1 kgに含まれる必要のある放射能は


7.69E04 Bq / 82 kg = 938 Bq / kq (ただしセシウム137として)


この状態のお米は,常に1秒間に938回も放射壊変をして放射線を出します。お米10 kgなら,その10倍ですから9380回。ガイガーカウンターを近づければ間違いなく検出できます。


しかし,セシウムの環境から植物への移行は開花期に処理した場合0.74%、実がついてからでは0.42%移行することがわかっていますし,葉等から転流により放射能が移行する確率は低いと考えられています。(参考


お米の平均収穫量は10アール(=1000平方メートル)あたり512 kg(平成12年)というデータがありますので,10アールのお米を汚染するために必要なセシウム137は


938 Bq / kg x 512 kg / 0.74 % = 64.9 MBq (M=メガ=1E06=1,000,000)


となります。ちなみに一人が食べるお米82kg分に必要なセシウム137は,放射能にして10.4 MBq分です。これだけの放射能を持つ放射性物質が,特定の田んぼに集中して漏れる必要があります。この時に発生する線量は,10アール汚染された時で843 mSv,一人分でも135 mSvです。


環境モニタリングシステムが測定している空間線量率の単位がnGy/hですので,γ線として考えると通常の100万倍以上の放射線が観測されるはず,ということになります。比較的長時間にわたって漏れ続けたとしても,通常の1万倍以上の放射線が検出されるでしょう。


しかも,これだけの放射能漏れ,正確には放射性物質漏れが起き,その漏れた放射性物質がすべて特定の水田に注ぎ込んだというあり得ない条件を与えて計算し,なおかつこの大量の放射線を浴びた稲が生き残って収穫され,すべての検査をかいくぐって食卓に運ばれ,その汚染されたお米だけを選択的に一年間食べ続けたと考えても汚染した食材から得られる放射線量はたったの1 mSvです。


「たった」などというと,眉をひそめる方もいるかもしれませんが,日本の場合、医療で受ける放射線の量は、国民一人当たりにすると年間で平均約2.4 mSv程度。自然放射線から受ける線量の年間平均(世界平均)が2.4 mSv(日本では0.99 mSv,ブラジルのガラバリでは10 mSv)などという事実を考えると,1 mSvという値は決して大きくはありません。なので,これだけがんばっても


この程度の線量であれば死なずに済みそうです


ということで,食材からの放射能汚染だけの影響で命に危険をもたらすのがどれだけ難しいかイメージしていただけたでしょうか。


しかも,今回風評被害に遭っている新潟産の魚介類の場合,大量に存在する海水による拡散の影響まで加味しなければいけません。ですので,今回お米で計算した場合よりもさらに100万倍以上の放射能漏れが起こらない限り,ちょっとやそっと食べたからと言ってどうなるという程度の影響を出せそうにありません。そして,そんなレベルの放射能漏れが万が一起きてしまった場合,残念ながらその時点で,原子力発電所の敷地内にいて生き残ることのできる人は皆無なのではないでしょうか。


放射線というと,ごく微量でも命に関わると思っている人が非常に多いのが現状ですが,こうして一つ一つ面倒がらずに考えていくだけで,そう簡単にどうこうなるものではないことがよくわかると思います。そして,我々の健康に被害が及ぶレベルでの放射能漏れが起きたりしたら,どんなにがんばっても隠蔽できるような代物ではないことも覚えておいた方がいいと思います。


「東電のモニタリングシステムが,地震直後データの提供が止まっていた。あれは事故の影響を隠蔽しているのだ。」という話がネット上の至る所で散見されています。


事実,地震直後東電が提供しているモニタリングシステムは停止していました。しかし,原子力発電所近傍に設置されている新潟県提供のモニタリングシステムは正常に稼働を続け,周辺環境に異常がないというデータをリアルタイムで送り続けていました


原子力発電がもたらす危機に関する警鐘を鳴らすことは絶対に必要なことです。しかし,事実をゆがめてまで世論を自分たちの思うがままに操作しようなどというのは,単なる卑怯者です。


放射線の発生と,その影響は純粋な物理学の分野の話です。正しいデータと知識をもたずに,イメージだけで判断するのは大きな間違いを生むだけです。原子力発電に反対する側こそ,このことを肝に銘じて行動しなければいけないと思います。



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テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 18:13:26 | Trackback(0) | Comments(4)

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