中でも大々的に報じられているのが,スーパーコンピュータ関連予算なわけですが,「世界一じゃなくてもいいじゃないか」という結論に賛否両論出てるようです。
もちろん,この分野は日進月歩なので,世界一の座を一時的に獲得したとしても,早晩追い抜かれてしまうのは当然なんですが,それと同じセリフが,世界記録を目指して日々努力しているアスリートにも言えるのか?という素朴な疑問はあるわけです。
科学技術というものは,継続性の有無がその優劣を決めると言っても過言ではありません。特に発展のスピードが速い分野であればあるほど,継続しているか否かの重要性は高まります。革新的なブレイクスルーが,まったく無関係の分野から突然現れる可能性はゼロではありませんが,それを期待するのはあまりに科学を嘗めていますし,無関係な分野の発明・発見をその分野に応用できることに気がつくのは,多くの場合日々その分野に精魂を傾けている人です。
世界一の性能や世界初の成果を目指して日々努力をしていることにより,その分野における実力が維持できるという一面がきちんと理解されていたからこそ,国策としてこれまで様々な科学分野の研究が支えられてきました。
休耕田が再びまともな耕地になるには時間がかかるように,科学技術も一旦止めてしまえば,世界の潮流には全く追いつけなくなります。
かつての日本は,世界有数の航空機技術を持つ国でした。しかし,敗戦後航空機開発に関する研究は全てストップされたため,現在この分野はほとんど国外の企業に抑えられてしまっています。高額のライセンス料金を支払ってライセンス生産を行うことで,かろうじて最低限の技術力を保っているだけです。
同じことはロケットの分野でも言えるわけです。やっと世界レベルに追いつきかけたこの時期に,GXロケットの開発を止めるなんて自殺行為に他なりません。
耕作可能な土地も少なく,資源も少ない日本が,金融を骨抜きにされ,今度は科学技術の芽が摘み取られようとしています。現政権は,50年後,100年後,いったいどうやってこの国を成り立たせていくつもりなのでしょうか。
環境立国なんて大層なお題目を掲げていたりもしますが,今現在ある環境技術と呼ばれるもののほとんどが,先端科学技術の粋を集めたものであることを理解していないのでしょうか。もちろん先端的な科学技術だけではなく,環境への影響や,現状把握はもちろんのこと,実施された方策の効果を判定するためには詳細で地道な実地調査,幅の広い生態系の調査など,様々な基礎科学分野の知識を集積させなければいけません。さらに言えば,そのように地道な作業により得られたミクロな事象を総括し,マクロな現象として網羅的に把握・理解をする時に,スーパーコンピュータがどれほどの威力を発揮するのか。また,より高い精度での理解を深めるためには,どれだけ高い能力のスーパーコンピュータが必要なのか。そのように高い能力のものが,「作りたい」と思った時にすぐ作れるようなものなのか。とてもじゃないですが,現在の事業仕分けにおいて,このような細かい現実が考慮に入っているとはとても思えませんし,こういった側面を理解しようと思っているようにも全く見えません。
結局のところ,今回の事業仕分け自体が財務省のお手盛りであったという報道もあります。
事業仕分けで極秘マニュアル=財務省の視点を指南−政治主導に逆行・行政刷新会議(時事通信)
政府の行政刷新会議が2010年度予算概算要求の無駄を洗い出す「事業仕分け」で、事務局が極秘の査定マニュアルを作成し、民間有識者など仕分け人に配布していたことが17日、明らかになった。財務省の視点に基づき、仕分け対象事業の問題点を列挙、各担当省庁の主張に対する反論方法まで具体的に指南する内容。政治主導を掲げた事業仕分けが、財務省主導で進んでいる実態が明らかになった格好だ。
事業仕分けは、予算圧縮に向けて国会議員や民間有識者ら仕分け人が、各省庁が要求した事業項目を外部の目を通じ、「財務省には無い視点」(枝野幸男ワーキンググループ統括)でチェックする仕組み。すべて公開で実施され、鳩山政権初の予算編成に当たって導入された。
査定マニュアルは、事業仕分け前に「参考メモ」として仕分け人に配布され、事業ごとに「論点」を提示し、問題点などが個条書きされている。マニュアルに従えば、対象事業に詳しくない仕分け人でも、厳しく問題点を指摘できる仕組みだ。
財務省としても,与党から厳命されている「マニフェストの完全実施」「国債発行額の減額」という相反するオーダーを実現するためには,このように切れそうな理由が少しでもあるところから切っていく以外の方策はなかったのでしょう。しかし,それによって得られる「高速道路無料化」とか「子供手当」などのマニフェストに上がっている政策との有益性の比較がなぜされないのか。この点に大きな不満を持っています。
担当者のプレゼン技術や戦術のつたなさを批判する声もあるようです。もちろん,これだけ科学技術の恩恵にあずかっている国も時代もこれまで無かったであろう,と言う現代において,その国のトップに立っている人たちがこれほどまでに科学技術に理解がなかったということを想定していなかったことが,甘かったと言われればそれまでかもしれません。しかし,声の大きいもの,弁の立つものだけが重視される,そんなことで本当によいのでしょうか。
国策として,日本にロケットはいらない,スーパーコンピュータはいらない,というのであれば,そう宣言すればよいのです。国策として,日本には基礎科学なんていらないというのであれば,そう宣言すればよいのです。それが本来の「政治主導」というものでしょう。
「政治主導」というものは,単に政治家が我が儘を言ったり,格好をつけたりするためのものではなく,全責任を政治家が取るという意思の表れであるべきです。
その様に宣言して,それによる不利益も政治が全てかぶる,でもそうすれば国全体としては大きな利益が得られるのだ,というのであれば,納得します。しょせん基礎科学研究なんてパトロンのお目こぼしあってのものです。おとなしく従いましょう。国策によって大量生産されたPDの行く先が無くなってしまったとしても,「お前らの実力が足りないのが悪い」と言われれば,返す言葉もありません。
しかし,そのような覚悟もなく,不都合があれば己の不見識を棚に上げて責任を全て官僚に押しつけ,この国の行く末を決めるような大仕事ですら,このような茶番で片をつけようというのでは,口が裂けても「政治主導」などと言って欲しくありません。
我々が血を流した結果,何が得られるのかを説明して下さい。我々の首を切るのであれば,切られた本人が納得できるような理由を教えて下さい。たとえそれが,「お前らが無能だからだ」でも良いのです。
でも
と言われたら,いくら本音だったとしてもさすがにキレるかもしれません。
質問なるほドリ:遺伝子組み換え作物って、安全なの?=回答・遠藤和行(毎日新聞)
◆遺伝子組み換え作物って、安全なの?
◇「健康被害」の懸念、根強く 農作物99品種のみ流通認可
最初のタイトルからいきなり恣意的です。読み始めた人にマイナスイメージを持たせようという意図がひしひしと感じられます。実際審査基準には安全性以外にもカルタヘナ法に基づく環境への対応も含まれていますし,これだけの情報では99品種というのは多いのか少ないのか判断も出来ません。にもかかわらず「99種のみ」と書くことで,遺伝子組換え作物の大部分が危険であるかのような印象を持たせています。さすがプロの物書きは違う,と感服してしまいます。
なるほドリ スーパーで買った納豆に「遺伝子組み換え大豆は使っていません」って書いてあったけど、何のこと?
記者 他の生物から取り出した遺伝子を組み入れて品種改良した大豆のことですね。同じ種どうしを交配させる改良は時間がかかり、失敗も多くありました。それが技術の進歩で異なる種の遺伝子を利用できるようになり、約13年前から登場しました。
Q どんな作物があるの?
A 例えば害虫に強いトウモロコシは、土壌中の細菌から取り出した遺伝子の一部を細胞の核に入れて生まれました。組み込まれた遺伝子によってできるたんぱく質を害虫が食べると、消化機能が働かず餓死します。強い品種の登場で農作物の収穫量が増えれば、深刻化が予想される食料問題の解決につながるとの期待もあります。
Q 虫が食べて死ぬ作物を食べるなんて不安だなあ。
A 動物実験では、組み換え作物を食べて健康障害が出たとの結果がある一方で、安全性を確認した研究も数多くあります。日本の厚生労働省も「害虫だけに働きかけるもので、人間には影響ない」との考えです。それでも、自然界にない特性を持たせた食物のため「現在の科学では分からない健康被害が生じるのでは」「栽培すると周辺環境に影響が出ないか」といった声が根強いことなどから、国内では生産されていません。
最初の質問への回答が,なんだかわかったようなわからないようなよくわからない中身のない文章であるのに対し,二つ目の質問から先は,まるで別人のような怒濤の攻撃が展開されます。
中でも「どんな作物があるの?」という質問に対し,様々な種類のある遺伝子組換え作物の中から,一番誤解を招きやすく,叩きやすいBtトウモロコシについてだけ解説をしているのがさすがです。もしかして,他の遺伝子組換え作物を知らないのではないか?と思わされるほどの偏向ぶりです。
そして安全性についての根拠を,実際には明確な科学的根拠があるにもかかわらず,「「害虫だけに働きかけるもので、人間には影響ない」との考えです。」と,あたかも官僚が何の裏付けもなく「企業が大丈夫と言っているから大丈夫」程度の説明しかしてないような印象を与えることにも成功しています。
実際,Btトウモロコシが殺虫効果を発揮させることができる原因であるBt殺虫蛋白質がどういうしくみで昆虫に対する毒性を生じさせているのか,という機構について説明すれば,人間を含むほ乳類では「毒性が発揮されることはあり得ない」ことがわかるはずなのですが,そんな努力をする気配はまるでありません。
しかたがないので,ここで軽く解説します。昆虫が Bt 蛋白質を食べると,昆虫類の特徴であるアルカリ性の消化管内でBt蛋白質は殺虫効果を持つ形に活性化されます。ここが第一の関門です。ご存じの通り,人間などのほ乳類の消化器内は酸性の消化液で満たされているので,昆虫の消化管内で起きるのとは全く違う反応が起こり,ほ乳類の消化器官内のBt蛋白質は消化酵素により単なるアミノ酸やペプチドに分解されてしまいます。
また,第二の関門としてBt蛋白質受容体の問題があります。Bt蛋白質が殺虫効果を示すには,消化管に存在する受容体と結合して消化管の細胞を破壊する必要があります。これによりBt蛋白質を摂取した駆除対象の昆虫は栄養を吸収することが出来なくなり,結果として餓死してしまいます。
また,実はあんまり知られていないのではないかという気がしてきましたが,Bt蛋白質と呼ばれる蛋白質には様々な種類があります。そして,Bt蛋白質に対する受容体の形は昆虫の種類によって異なっているため,殺虫効果を持つBt蛋白質は,その昆虫の種類によって違うのです。そのため,そのBt蛋白質に対する受容体を持たない種類の昆虫が食べたとしても,何の作用も示しません。ですから,その作物に害をなす種類に対応したBt蛋白質を選択することにより,狙った害虫だけを選択的に排除することが可能になるわけです。たとえ活性化型の構造に変化したとしても,その変化した形に対する受容体を持っていない種類では,消化管内の細胞を壊されることはなく,飢餓状態になることはないからです。
当然,人間が食べた場合にも,消化管に受容体がないので毒性を示すことはできません。
また,この蛋白質が自然界に元々存在していたことや,先ほども説明したとおり,この蛋白質の殺虫効果は非常に選択性が高く,昆虫の種類によって殺虫効果を示すことの出来るBt蛋白質の種類も異なっている事を知れば,もう少し消費者も安心できるはずです。また,このBt蛋白質の作用を利用して作られた農薬が1960年代から広く利用されてきていたこと(参考URL:BT剤とは?Q&A(グリーンジャパン))を知れば,さらに安心する人は増えるでしょう。しかし,当然そんなことをするつもりはこれっぽっちもないようです。
Q なのに加工品には使われているんだね。
A 米国など穀物の主要生産国では、農作業の効率化を進めるため組み換え作物が増え、そうでない作物は価格が上がっています。その結果、原材料費を抑えたい国内メーカーが輸入の組み換え作物に頼る動きが出ています。国内で流通が認められている組み換え作物は、厚労省が安全性を確認した7種類99品種です。
Q 原材料表示を見れば、使われているって分かるのかな。
A 納豆のように加工しても遺伝子が残る食品には、組み換え作物を使用していると表示することが法律で義務づけられていますが、加工過程で遺伝子がなくなる大豆油などは対象外。国が安全性を保証しているとはいえ、心配な人がいる以上、もっと表示すべきでしょう。(生活報道部)
ここでも意識的な誘導が行われています。遺伝子組換え作物への切り替えが進んでいる理由を,「米国など穀物の主要生産国では、農作業の効率化を進めるため組み換え作物が増え、そうでない作物は価格が上がっています。」と,効率面でしか説明しておらず,使用する農薬の量を減らせることや,収量が増大すると同時に耕作可能面積の増大なども期待できることなどが全く説明されていないのは,片手落ちどころの話ではないでしょう。
また,以前のエントリでも書きましたが,このような不安感を消費者が持つことになった理由に根拠があるのかどうかなどと言うことは少しも触れず,ただひたすらに不安感を増大させる方向に煽ることに終始しています。これは明らかに典型的なマッチポンプと言えるでしょう。このような言動は,散々放火しまくった放火魔自身が,消防署が悪い,警察が悪い,国は無償で防火壁などを支給すべきだ,と叫んでいるに等しい行為です。
遺伝子はもちろんのこと,その遺伝子により直接生産された生産物である蛋白質も残っておらず,しかも十分に精製されて化学的構造が揃えられた植物油や異性化糖の状態で,遺伝子組換え作物由来と非遺伝子組換え作物由来のもので違いがあるというのであれば,その証拠を示して欲しいものです。無意味に不安感を煽ることで,無意味に高額なコストをかけさせられている一般消費者や,生産者に何の得があると言うのでしょう。先ほどの放火魔の例では,防火壁を製造している会社は儲けられそうでしたが,この場合は誰が儲けを得るのでしょう。非遺伝子組換え作物にこだわってきた生協は,そろそろ辛くなってきたようですが,昔はそれなりに儲けていたのでしょうね。また,遠藤記者の様に,この手の論法で本を書けば結構稼げそうです。もちろん,どちらの場合もその原資は一般消費者ですね。
今後も毎日新聞・遠藤記者の行動には注目していきたいと思います。
意外と短かったので,この際ですから全部紹介しましょう。
食卓どこへ:遺伝子組み換え/4 消費者に拒否感、不安 広がる反対運動
食卓どこへ:遺伝子組み換え/5止 日本の研究、実用化に壁
全体の構成を見てみると,一応1で問題提起,2,4で批判意見,3,5で推進意見を紹介し,全体のバランスを取ったつもりなのかな?と,がんばって好意的に見ることもできるかとは思います。
ただ,全体の論調があまりに偏っているのはとても看過できるものではありませんし,情報の出し方も片手落ちすぎます。
第4弾で議論されている環境への流出という問題は確かに重要な問題なのですが,環境流出の影響を本気で気にしているのであれば,道路周辺にGMO種が落ちているかどうかではなく,道路周辺から拡散しているかどうかを調べなければ意味がありません。
現実問題として,道路周辺への落下が防げないとしても,そこの近傍から周辺環境への拡散がなければ特に気にする必要はないのは,ごくごく自明なことだと思います。しかし,この「市民団体」がその様な調査をしているのかどうか,そもそも長年にわたって輸入され,おそらく同じルートを通って運搬され続けた非GMOセイヨウナタネが,この道路からどれほど拡散しているかという状況も調べられているのかどうか。そのような情報すら,この記事からは何一つわかりません。
もし,過去の事例としてセイヨウナタネの拡散がないと言うことがわかっているのであれば,GMOセイヨウナタネでも同様の経過を辿ることが容易に予測できます。現に環境省はそのように予測しているわけですが,それに対してこの記事や市民団体は何ら反証を出すことなく,ただ読者の不安感だけを煽ることに終始しています。
ちなみに農業環境技術研究所が平成18年7月から平成19年6月まで行われた調査の概要が報告されています。
これによると,セイヨウナタネは周辺群落に侵入した場合でも,競合により他の植物を駆逐して生育域を拡大することはないと考えられる結果が出ています。また,農業環境技術研究所では,毎年度調査結果を公表しており,この調査結果もそれまでの結果に準じた結果が出ているようです。
こぼれ落ちによる運搬路近傍への流出は事実のようです。しかし,これが環境流出問題に発展するかどうかと言うのは,これがさらに拡散するかどうかと言う一点にかかっています。そして,現状その様な事実は確認されていません。この件をさらに問題視したいのであれば,周辺環境へ拡散しているという事実を提示してから議論すべきです。
第5弾は,意外にも全体のほとんどが遺伝子組換え作物肯定派の意見を紹介しています。やはり淡々としたもので,記者の意見や感情などは全く入り込んでいませんが,それでも今現在の日本の状況が以下に危機的なものであるのか,感情的にGMOを排除し続けることでどのような問題が引き起こされようとしているのか,すでに引き起こされているのかというポイントが非常に良くまとめられています。正直,今までの感情的な記事の数々が嘘のように,小気味よく書かれていて,個人的には今までの連載から受けた悪印象が一気に吹き飛んでしまうほどの好印象を持ちました。
だからこそ,最後の一文がなぜこのような文章になったのか,非常に理解に苦しみます。とても残念でなりません。この一文だけで,せっかく抱いた好印象が消し飛んでしまいました。
日本の食卓には輸入されたGM作物の加工品がきょうも並ぶ。研究が制限され、消費者も知らぬ間に、GM開国が進んでいる。
署名がお二人の記者によりなされている記事です。もしかすると,最後の一文と本文を書かれた人は違う人なのかもしれません。だとしても,この最後の一文を書いた記者は,第5弾の本文を読んで何も感じなかったのでしょうか。この文章の後に,この一文が続くことについて,何の違和感も感じなかったのでしょうか。
GMOには,確かに未知の危険性が潜んでいる可能性はあります。しかし,それは新たに遺伝子組換え以外の手法で品種改良された新品種が持つ危険性,さらに言えば長年利用されてきたというだけで,その安全性が確認されたことのない従来種と何が違うというのでしょう。
ふぐのように,一歩間違うと命の危険すらあり得る大きなハザードを持った食品も,適切な処理を行うことで大きくリスクを下げられることを知っている我々日本人は,食品として利用することをためらいません。
欧米人のほとんどが食中毒を怖れて忌避する生卵も,適切な管理をすれば安全であることを我々は知っています。ですから,ごく日常的に食卓に上ります。
毎年のように毒キノコを間違って採集して死亡したり,中毒になる人が後を絶ちません。それでも,食用キノコを正確に選択すればリスクは大きく減ることを知っているため,キノコ取りに行く人が皆無になることはありません。
毎年,貝毒による中毒者が数多く発生しています。牡蛎にあたったという話は,日常的に良く聞く話です。しかし,適切にモニタリングを行い,適切な保存と適切な調理法を用いれば,リスクを大幅に下げられることを我々はよく知っています。ですから,今年もそろそろ店頭に牡蛎が並んでいます。牡蛎の流通を禁止すべきだ,と叫ぶ人はいません。
このように既知のリスクは決して怖いものではないですし,我々もごく自然に数多くの既知リスクを受け入れることが出来ているのです。
また,神ならぬ身の上である我々にとってすれば,未知のリスクは全てのものが内包していると考えるべきものです。第5弾の記事中で宮城大の教授が言っている「どんな食品でも一定のリスク(健康への影響が生じる可能性)があると認識し」というのは,そういうことです。
他の生物から持ってきた遺伝子を組み込んだのが良くないという人もいますが,そう言う人たちは第5弾の記事中にあったような,元々ある遺伝子を利用する形式の遺伝子組換えであれば認めてくれるのでしょうか。こちらのように重イオンビームなどで,元々ある遺伝子を欠損させた形の育種であれば認めてくれるのでしょうか。
GMOは未知の危険性をはらんでいるのは確かに事実です。しかし,同時にほぼ確実に手に入れられるメリットも持っています。
収率の向上,栄養価の向上,塩害や害虫,病気などへの耐性向上,様々なタイプのGMOが研究され,特に発展途上国で利用が進めば多大な効果を上げられることが期待されます。もちろん,日本のように耕地が少なく農業従事者も少ないような状況に対しても大きな効果を上げるでしょう。
第5弾の記事中にもあったとおり,このような未来全てを阻害しているのはすでに「消費者の感情」ただ一点です。技術的な問題,安全性の確認法など様々な部分の問題は,そのほとんどがすでにクリアされてきています。あとは,消費者がその事実を素直に受け入れられるかどうかにかかっています。
現在蔓延しているGMOへの嫌悪感情がここまで肥大してしまった責任は,マスコミの無責任な煽り・報道と,不勉強のまま感情を暴走させてきた一部市民団体,そしてその周囲に群がって小金を稼いできた人たちにあると考えています。
これ以上無駄なコストを支払い続けることを防ぐために,我々は正しい知識を学び,自衛する必要があると思います。
「新潟県産コシヒカリ」に別のコメ混入 首都圏の商品(朝日新聞)
首都圏で販売されている「新潟県産コシヒカリ」の一部で、別品種のコメが混ぜられていたことが、新潟県の初の独自調査でわかった。JAS法違反の疑いがあり、同県は先月中旬に消費者庁に通報した。高価な新潟米と他品種米を故意に混ぜて利益を得ていた可能性もあるという。
調査は今年7月に実施。東京や神奈川、千葉、埼玉の首都圏に住む消費者モニター20人に近所のスーパーなどで購入した「新潟県産コシヒカリ」2袋のうち1袋を送ってもらい、計25点を民間の検査機関でDNA検査した。その結果、25点のうち2点で、新潟コシヒカリと別の品種が5%混ざっていたことが判明したという。2点は県外の別々の業者が袋詰めしたものだった。
同県は05年、産地偽装の防止などのため県内のコシヒカリを「コシヒカリBL」に切り替え、DNA鑑定で他県産のコシヒカリとの判別が可能になった。同県だけの品種で94%がBLになっているが、さらに流通段階での混入の実態を把握し、抑止しようと今回調査を実施した。同県農林水産部は「故意であれば許せない。消費者の信頼も得られない」としており、今後も継続的に調査をする考えだ。(奈良部健、長富由希子)
元々が94%なのに,混入率5%………。ちょっと微妙な感じですね(^^;;;;
こういう状況だと,新潟産コシヒカリが,どの程度厳密なIPハンドリングを行っているのかという部分についても検証が必要な気がします。
昨日も説明しましたが,5%前後の確率でBL遺伝子を持たない米粒が混入していたのは事実だと思います。しかし,同じ新潟県産のコシヒカリであったとしても,最大6%はBL以外の品種が混入する可能性があるわけですから,それが新潟県産以外のコシヒカリ(もしくは別の品種)なのか,新潟産だけれども非BLコシヒカリ(もしくは新潟県産の別品種)なのかはわかりません。新潟県内では,5%以下の混入率が有意差として認められるレベルを確保できるくらい厳密に,BLとBL以外を分別管理しているのでしょうか?
そして,出荷した先の業者で袋詰めされる過程において,どのくらいの厳密さでIPハンドリングが行われているのでしょうか。当然,普通の業者であれば複数産地の複数品種の米を扱っているわけですから,相当厳密なIPハンドリングを行っていなければ,GMOの場合と同様に5%程度の混入は避けられないものであるような気もします。
どちらにしろ,この辺の事情がわからないと,意図的なのかどうなのか,「事故」と言えるレベルなのか,「必然」的に避けられない混入であるのかが判定できないように思います。
もし,そのあたりの情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら,ぜひコメントなどで教えて下さい。よろしくお願いいたします。
現状行われている検査方法では,全く混入していないものでも5%以下程度混入していると誤認識する可能性が否定できないのです。
これに関して,以下のようなご質問をいただきました。
この検査方法とはどのようなものなのでしょうか?
DNAを調べる方法でしょうか?
気になった背景として、一月くらい前、「新潟県産コシヒカリ」に異種が混入していたというニュースがあったのですが、その混入率が5%程度だったので、同じような誤認識をしてしまっているのではないかとふと疑問に思い質問しました。
東京神奈川埼玉千葉で流通していた新潟産コシヒカリ25点からそれぞれ20粒ずつ米を抜き取りDNA検査を行ったところ、2点で20粒中1粒別の品種と思われる米が混じっていたそうです。
従来のコシヒカリと違ったDNAを持つ新潟県内でしか生産されていない品種コシヒカリBLというものがあり、このコシヒカリBLのDNAを持っているか否かで新潟産か否か特定できるそうです。
この「異種混入」は検査法の問題だったのでしょうか?
というわけで,早速いろいろ調べてみたところ,わたしが大きな勘違いをしていたことに気がつきました。
「遺伝子組換えでない」と表示可能である基準となっている「意図しない5%以下の混入」における5%という値は,IPハンドリング=分別生産流通管理(Identity Preserved Handling )と呼ばれる分別過程において,除去しきれないと考えられている数値がその根拠となっていました。
遺伝子組換え植物を考えるQ&A 7.遺伝子組換え食品の表示制度について
Q4.IPハンドリングとは何ですか?
栽培農家や流通にかかわる人は、厳密な管理の下で細心の注意を払ってIPハンドリングを行っていますが、現実には遺伝子組換えのものがわずかに混ざってしまうこともあります。種子を運ぶコンベアーなどは、ある時は遺伝子組換え農作物を流し、ある時は非遺伝子組換えのものを流すことが多くあります。非遺伝子組換えのものを流すときは、コンベアーや倉庫内を掃除してから作業を行いますが、いくら清掃してもラインに数粒、遺伝子組換えのものが残っていたりすることもあり、現状では絶対に混ざらないようにすることは困難です。
このため日本では、遺伝子組換え農作物の混入率5%未満なら、適正なIPハンドリングが行われたとして認めています。
よくよく思い出してみたところ,その昔(10年以上前(^^;)この手の仕事をしていた友人から,「混入割合が5%以下であることを証明するには,0.5%以下の精度で分析できないとダメなんだが,それが結構難しくてねぇ」という話を聞いたのが,どこかで記憶が入れ違ってしまっていたことに気がつきました。誠に申し訳ありません。深くお詫びして,昨日の記事を訂正させていただきたいと思います。
確かに,いろいろと調べてみると現在使われている手法を使うと,分析対象や用いるキットによって違いはあるものの,十分に高い確度で分析を行えるようです。かなり情報が古かった上に,ねじ曲がって覚えていたことを繰り返しお詫びいたします。
さて,現在の分析手法ですが,調べてみたところやはりPCR法と呼ばれる手法を主軸に置いて,二段階の検査が行われることになっており,検査方法についての細かい手順もしっかりと決められています。
厚生労働省:遺伝子組換え食品の安全性審査の法的義務化について
(別添)組換えDNA技術応用食品の検査方法(PDF 369KB)
PCR法というのは,DNA中に含まれるある特定の遺伝子だけを増幅する手法で,正しい手順を踏めば目的の遺伝子だけを特異的に増やして検出することが出来ます。
実際には,まず第一段階のスクリーニングとして,GMOが含まれているかどうかが不明な試料からDNAを抽出し,検出したい遺伝子(この場合GMOに特異的な遺伝子)だけを増幅させるような手順でPCR増幅を行います。これにより,最終的にどのくらい目的の遺伝子が検出されたかを見ます。もし,GMO由来の遺伝子が検出されれば,次の段階に進みます。検出されなければ,この試料はGMOが含まれていないと判断されます。
さて,GMO由来の遺伝子が検出された試料について,次はどのくらい含まれているかを見なければいけません。そこで今度は定量PCRという手法を使います。中で起こす反応は,第一段階で行った実験と全く同じものなのですが,今度はPCR増幅によりどのくらい目的の遺伝子が増加しているかをリアルタイムで観察します。すると,PCR増幅法の原理から理想的な増幅が行われている場合には,最初に含まれている目的遺伝子の量により増幅するスピードが違うことが期待できますので,横軸を時間,縦軸を遺伝子の増幅量としてグラフを書くと,最初どのくらい目的遺伝子が含まれているかがわかります。そのため,この方法を「リアルタイム定量PCR法」と呼ぶことも多いです。また,第一段階の実験で行ったような「目的遺伝子があるか無いか」だけを見る手法を「定性PCR」と区別して呼ぶこともあります。
PCR法というのは,非常に単純な原理を元にした手法であるため,ただ遺伝子を増幅させるだけ(定性PCR法)であれば,適切な試薬を混合し,適切な条件下で温度を変えてあげるだけで反応を起こすことが出来ます。もっとも,その適切な試薬と適切な温度条件を見つけるのがなかなか大変だったりするわけ何ですが(^^;;;; 装置としては非常に単純なもので実験が可能となります。
しかし,定量PCRの場合はリアルタイムで変化する様子を観察する必要があるので,検出用の装置を内蔵している必要があります。また,通常は検出用の蛍光ラベルと呼ばれる試薬も必要とされるため,装置や試薬は定性PCRよりも高価ですし,実験技術も少々煩雑で高度なものが要求されます。そのため,簡便で安価に行える定性PCRで第一段階目の試験を行っているんですね。
というわけで,最初の質問にやっと戻りますが,このコシヒカリに用いられたのもおそらく「PCR法」であることは間違いないと思います。また,今回の場合は新潟産コシヒカリ特有の遺伝子を「検出できなかった」と言うケースになりますので,より確かなのではないかと思います。なぜならこのケースで用いられたと考えられる定性PCR法では,非常に高い増幅倍率で増幅させた状態で,目的遺伝子の有無を判別しますので,もし少しでもその遺伝子が入っていたのであれば,ほぼ確実に検出することが可能であったと考えられるからです。
こちらは民間の検査会社のWebページですが,こちらでは混合比率確認として「検体を均分器にかけ、縮分後の検体から20粒を取り出し、一粒ずつ品種鑑定を行い、20粒中に占める混合割合を分析」してくれます。おそらく,問題のニュースの場合でも同様の検査が行われたのではないかと思いますので,ほぼ確実に5%程度の混入があったと考えて良いと思います。
以上,ご質問の回答になりましたでしょうか。他にも何かありましたら,よろしくお願いいたします。


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